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第7話 別々の朝が来たのなら

 突き詰めない口調のセイジの質問。優しさは理解しているつもりのルカだったが、それでもセイジからの質問には身がすくんだ。


「心配、かけたくなかった。今日も手紙屋が早く終わらなかったら、セイジのいない時に討伐の概要を聞いて、心配かけさせなくて済むと思ってた」

「けれど、手紙屋が早く終わったせいで、こうして全部話さざるを得なくなった……と」


 元気なく一回だけ頷くルカ。ここまでの話を聞いてもなお、セイジはそこまで心を乱してはいなかった。そして、先週の鍛冶屋通り通りでの一幕を思い出して、その時のことをルカに尋ねる。


「もしかして、先週デートに行ったのは、そのためだった?」

「……そのため、でもあった」


 深く考えて、セイジの様子を窺うように答える。だが今度は、すぐさまセイジに顔を近づけて弁明をする。


「けどっ、そのためだけじゃないっ。本当にセイジとデートをしたくて、それで……その……」


 なんとか信じてもらおうと話を続けるが、ルカの弁明はすぐにトーンダウンし、理由らしい理由は語られないままに、セイジの判断に委ねられる形となってしまう。


「うん。まぁ色々と聞きたいことはあるけど、あの日のルカがデートをしたかったって言うのは信じるよ。嬉しそうなルカも見ることが出来たからね。けど教えてくれ、鍛冶屋通りに行ったのは、何のために?」


 ルカが自分には言わない何かを持っていることは理解した上で、セイジはルカの魔物狩りの一員としての疑問を尋ねた。


「うん……ジルコの所に行って、水魔法強化の指輪を買ったのは、そのためだった。それと、デートの中で使えそうな防具を見定めるのも、その仕事の一環だった。私が魔物狩りのためにやったことは、本当に、これだけ」


 一通り話して、すっかりしょぼくれるルカに、セイジは溜息のような、安堵のようなものを吐き出して立ち上がる。セイジが椅子を引いたところで、ルカは少し震えて、その後のことに不安がよぎった。


 だがルカの不安は外れて、セイジは座ったままのルカを、そっと後ろから抱きしめる。


「大丈夫だ。君は自分のやるべきことをやったんだ。僕は確かに戦いは嫌いだし、ルカに戦ってほしくもない。けれど、そんな僕のわがままが通る世界じゃないから、だからせめて一つだけ……必ず生きて、帰ってきてほしい」


 セイジの言葉は、ルカにとっての認めとなった。


 ルカが、セイジを選び、セイジのプロポーズを受けた時には、ルカは魔獣狩りとしての側面を可能な限り見せないように振る舞っていた。その側面は、セイジが望む結婚生活とは相反するものであり、自分と共に過ごすセイジが、その事で悩まないようにしたいというルカの気遣いだった。


 しかし、セイジも分かっている。ルカにはこれまでの人生があり、それを形作った物があると。それならば、ルカの人生を作ってきたその側面を、きっちりと認めなければならない。それがセイジの認めだった。


 優しく抱きしめるセイジの暖かさに、ルカは一筋の涙を流した。


「……うん。うん。セイジ、私……必ず帰ってくるから」

「そう。それでいいんだ。僕が望んでいるのは、それなんだ」


 セイジの何気ない言葉は、ルカが隠そうとしていた事を一つずつ丁寧にほぐしていく。そうして優しい涙を流すルカは、セイジの認めを受け止めて、魔物狩りの戦いへの心持ちを整えていった。




 ルカの決意が定まった翌日。あの大男ことレクスマンは、朝方の二人の家に立ち寄り、ルカの決意を聞くこととなった。


「レクスマン。私の配置を教えて、どこに向かえばいい?」

「助かるよ。ルカの配置は……センシア国との国境地帯の森林。そこには森に適応した炎魔法を使う熊が数体出没している。さらに悪い事に、熊を狩るゴブリンも出てきているらしく、下手な戦いをしていては、乱戦は避けられない」

「わかった。行く」


 端的に、そしてストレートに伝えるルカに、仕事の準備をしながら二人の会話を見守っていたセイジの姿が映る。


「……セイジ。昨日も言ったけど、私、必ず帰ってくるから」

「うん。信じてるよ」

「それと……」


 ルカはそこまで言って、少し顔を伏せる。後ろで手を組んで、何かを言おうか言わないか迷うような素振りで、セイジの心を乱した。


「何か、伝えたい事でもあるのかい?」

「……ううん、まだいい。帰ってきたら、その時に教えてあげる」


 こうしてルカのお預けを食らう形になって、彼女の言葉の意味も分からないままに、セイジはルカを戦地に送っていった。


 ルカの姿が見えるまでは気丈に手を振っていたセイジだったが、その姿が見えなくなり、ひとりになった家の中を見て、孤独の音を感じ取った。今のこの家には自分しかいない、そんな言葉が頭の中を何度もループしそうになるが、セイジは頭を振って朝食を食べてから、今日もまた手紙屋の仕事に向かった。

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