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第4話 ふたりがデートをしたのなら

 それから翌々日。セイジの仕事は休暇となり、二人は計画通りに、鍛冶屋通りへと足を運ぶことになった。


「うーん、どれを着ていこう」


 夫婦の共同のクローゼットから、ルカはいくつかの服を両手に持って、自分の紺色の髪と見比べて唸る。そんなルカの悩みを背中に、休日のキッチンにはセイジが立っていた。


「さて、パンを火魔法で……」


 そう言って、買っておいた食パンを少し厚めに切って、その上に植物油で作ったマーガリンのようなものを塗る。そこにセイジが授かった軽い火魔法で焦げ目を付けていき、服に悩むルカの鼻にまで届くほどの、溶けたマーガリンの香りが広がっていく。


「そろそろ出来上がるよ。服は決まったかい?」

「うーん……もうちょっと」


 振り返って、薄緑の下着とキャミソールのまま自分の身だしなみを考えるルカに、セイジは自分が恥ずかしいような気持ちになってしまい、二人分のモーニングプレートを手に持ったまま、彼女の無防備な格好を直視できずにいた。


「決まったよ。ほら、青のワンピース」


 セイジが朝食を運んで、ルカの着替えを待つこと数分。彼女は胸元にリボンのついた爽やかな青のワンピースを着てテーブルについた。


 モーニングプレート。


 マーガリンを塗ったトースト、セイジは一つでルカは二つ。


 少しのレタス。それとトーストに合わせるハム、セイジは二枚でルカは四枚。


 セイジの視点から見ると、ルカは健啖家で、程々の食事と少しのお茶で満足するセイジに反して、ルカは一食の量が多い。特に、魔物狩りの依頼の手伝いに入った日の夜は、こぶし大のハンバーグ三つをペロリと平らげることもある。


「よく食べるね」

「セイジが食べなさすぎる。もっと体力付けたほうがいい」


 ルカの食事をセイジが眺めていると、いつもこんな会話から始まる。そして、こういう微笑ましい言い合いの最後には、必ずルカがとどめの言葉を突き刺してくる。


「体力つけないと、子どもを作るのも大変でしょ?」

「ぐ……そ、そうだね。それは善処するよ。はは」


 まっすぐな目で、淡々と話す彼女に、セイジはいつもここで負けてしまい、そうしてセイジが折れる度に、ルカは勝ち誇ったような顔をして、自分の前の料理を食べ進めていく。




 シーアノスの東側、二人の住んでいる西部から馬車に揺られて10分程度。


 そこには、鍛冶屋通りと言う、鍛冶職や革細工師など、武器装備のクラフター達が集う場所がある。火の粉と煙と金属音、それがこの地区を象徴するものであり、シーアノスの魔物狩りの人間は、まずここに立ち寄って自分の装備を買い揃える。


「物々しい場所だね」

「命を守る装備を売る場所だから、ここではみんな、とても真剣だよ」


 剣やナイフ、そして鉄を打って作った鎧などが売られている露天商は、ルカとセイジの小綺麗な姿を怪訝な表情で睨む。セイジはそんな奇特な視線に、あたりをキョロキョロと見回すが、対してルカはそんな目線なんてどこ吹く風で、セイジの右隣で彼の腕にぎゅっと抱きついて、さも幸せそうに口元を緩ませて歩いていった。


 そうしているうちに、ルカとセイジは一つの店の前で立ち止まる。


「……ここに、用事がある」

「用事って……ここ、店なのかい?」


 ルカが用事があると言って立ち止まったのは、入り口の周りに、ところ狭しと金属細工の人形が並べられた、不気味な雰囲気の家屋だった。


 セイジは足元を見て驚き、さらに店の名前を探そうとして、この家の屋根の上にまで同じような金属細工の人形が飾られていることに更にびっくりした。そして、そんなセイジの驚きを隣で見ていたルカが、ニヤニヤとセイジの方を見ていた。


「びっくりしたでしょ? でもここはちゃんとしたお店だよ」


 悪戯な子どものような口ぶりでそう言うと、ルカはセイジの手首を掴んで、彼とともにその家に入っていく。


カランコロン


「いらっしゃい」


 無骨なドアベルの硬い響きと共に、二人は中に入り、そんな来客を歓迎するかのような、艶やかな女の声が聞こえてきた。そして、セイジはそんな肥よりも先に、中の様子に目を見張った。


 入口から三方に広がるガラス張りのショーケース。その中には何百というアクセサリーが整然と並べられていた。


 ネックレス、ピアス、イヤリング、指輪、ブレスレット、チョーカー……数えればきりがないほどの品々と、それを飾る店の内装。セイジは、外の印象のことなどすっかり忘れて、厳かで煌びやかな店の中に釘付けになった。


 そして、ルカは顔をあちらこちらに向けているセイジをさらに引っぱり、正面のショーケースの後ろで有閑に座っていた女性に声をかけた。


「ジルコさん。セイジを連れてきたよ」

「あらぁ、ようやく会えたわね。へぇ〜、顔に真面目って書いてる人なんて始めて見たわよ」


 きらめきに目を奪われていたセイジは、ようやく自分の目の前に他の女性がいることに気が付き、その人物は彼の顔を見るやいなや、セイジにそんな評価をくれた。


「さて、冗談はほどほどにして、あなたがルカの旦那さんね。私はこの魔装具店のオーナーのジルコ。強い魔装具が欲しかったら、私を訪ねていらっしゃい」


 黒髪、紫に輝く瞳、そして体のラインを浮き彫りにさせるような細身のドレスと、その腰の細さに似つかわしくない豊かな胸。妖艶と言って差し支えないジルコは、セイジに対してわざとらしく視線を送り、彼の表情の変化を試す。


 だが、ジルコの小さな策略を見抜いていたルカは、すぐに二人の間に割って入り、セイジの胸元に身体を預けた。


「ジルコさん。これ、私の旦那」

「はいはい。分かってるわよ。まったく夫婦そろってからかいがいがあるわね。おほほほ」

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