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第八十五章 餓鬼の島・暗闘

 都心の夜を、黒い鉄獣が駆けていた。


 覆面パトカー――クラウン。


 無灯火、無音。闇に紛れて疾走するその車体は、まるで"野獣"そのものだった。


 運転席に座る男の目は、すでに常人のものではなかった。


 孟谷 勲――。


 赫の血を受け継ぎ、滾らせた男。


 瞳の奥に宿るのは、理性の焔と、火の国の獅子の異名を持つ獣の闘志。


 静かなる激昂が、彼の全身から立ち上っていた。


「……殺しに来るなら来い。俺が全部、捻じ伏せてやる」


 独り言のような低い声。


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、前方の側道――。


 漆黒の装甲ヴェルファイアが、進路を塞ぐように飛び出してきた。


 同時に、側溝から、路上から、数人の黒装束が現れる。


 ――桐島の手下どもだ。


 殺し屋。


 表の戸籍を持たない、ただ"闇の事業の事後処理"のためにのみ生きる者たち。


 ナタ、散弾銃、火炎瓶――。


 殺気の奔流が路地を覆った。


 孟谷は、ブレーキは踏まなかった。


 孟谷の手が、アクセルを踏み抜いた。


「……邪魔だぜ」


 轟音。


 覆面車が咆哮する。


 ヴェルファイアの側面に激突――。


 車体が浮いた。衝突と同時に、殺し屋の一人がボンネットに叩きつけられ、空中に舞う。


 そのまま、回転しながら横転したヴェルファイアの車体を、覆面車が踏み越える。


 後輪が燃えた鉄を跳ね上げる。


 火炎瓶が爆ぜ、夜が裂けた。


 殺し屋が一人、車の窓にしがみついた。


 孟谷は、ハンドルを片手で握りながら、もう一方の手でドアロックを解除――。


 拳で一閃。


 窓越しに顔を打ち抜かれた殺し屋が、甲高い悲鳴をあげて路上に叩きつけられる。


「止めたきゃ、地獄から鬼を五、六匹連れて来い」


 声が低く響く。


 孟谷の目が赫く光った。


 赫の覚醒。


 五感が拡張され、闇が透けて見える。


 空気の流れ、火薬の臭い、敵の鼓動までが、常人には見えぬものがすべて見えてくる。


 残った殺し屋は、三人。


 ひとりは前方ビルの屋上から狙撃、


 ひとりは交差点先にて仕掛けた焼夷弾を起爆準備、


 もうひとりは――


「……右後方、バイクの陰な……」


 孟谷は、ブレーキを一瞬踏み込み、逆ハンドルで車体をスピンさせた。


 クラウンが半回転し、ドアが開く。


 車外に身を躍らせた孟谷が、回転しながら空中で拳を構える。


 ドッ!!


 バイクの影に潜んでいた男の顔面に、かかとがめり込む。


 そのままコンクリの地面に頭蓋が砕けた。


 間髪入れず、クラウンに載せたレミントンM870をぶっ放し、残った二人を始末する。


 硝煙スモークが吹き荒れるなか、孟谷はふたたび車に乗り込む。


 破壊と疾走の後。


 追う者も逃げる者も、もういない。


 ――目的地はただひとつ。


 板橋の、桐島一派の監禁工場。


 瀬尾が、まだ生きていれば――。


 孟谷の手が、ギアをDに入れる。


「待ってろよ。すぐに迎えに行く――地獄の入り口ごと、壊してやる」


 アクセルが再び踏み込まれ、


 黒い覆面車は、炎と死の匂いを切り裂いて、夜を突き進んでいった。


 ――ズドオオオオオンッ!!


 廃工場のシャッターが、轟音とともに爆ぜた。


 鋼鉄の板が跳ね飛び、赤錆が舞い、屋内に暴風が吹き込む。


 中にいた黒田、芦名、手下の殺し屋たちの目が眩んだ。


 コンクリートの床をタイヤが擦り、光をまとった黒の車体が飛び込んできた。


 ――クラウンの覆面パトカー。


 スモークガラスの向こうから、男が現れた。


 孟谷 勲。


 赫の血を継ぐ、封じられた血の継承者。


 その目が、拷問台に縛られた瀬尾を捉えた。


「下がれッ!!」


 声とともに、孟谷の身体が疾風となって跳んだ。


 黒田が反射的にナイフを抜く。


 だが――遅い。


 孟谷の膝が黒田の胸郭を貫いた。


 骨が潰れ、肺の奥から血が吹き出す。


 流石の黒田も、たまらずよろめいた。


「動くなッ!!」


 孟谷のかざすマグライトの光が室内を照らし、瀬尾の焼けただれた顔が照らされる。


 彼の唇は、わずかに開かれていた。


 瀬尾の頭が、ぐらりと垂れ、気を失った。


 孟谷は駆け寄り、その身体を抱き起こす。


「間に合ったか……いや、ギリだな」


 彼の手が震えた。怒りではない。悔いでもない。


 それは、もう一歩遅れていたら"全てが闇に沈んでいた"という確信からくる震えだった。


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