第六十九章 餓鬼の島・焦燥
警視庁、倉沢美月は胸が締め付けられるような焦燥感に襲われていた。今、孟谷は、特殊部隊の一員として練馬にある半グレ組織のアジト急襲に出動していた。
孟谷の帰庁を待たず、すぐさま班のメンバーを呼び集め、緊急の対策会議を招集した。
「情報提供者が敵組織にマークされています。こちらの動きがすべて筒抜けになっている可能性もあります。以後の作戦は一旦見直しましょうか」
彼女の鋭い声が緊迫した会議室に響き渡った。美月は自らの責任を痛感しながらも、素早く思考を整理し、対策を練りはじめた。
深夜になり、ようやく孟谷が練馬での半グレのアジト摘発作戦から戻ってきた。彼の顔は疲労でやつれながらも、鋭い光を失ってはいなかった。
美月はすぐさま孟谷の前に駆け寄った。
「先輩、大変なことになっています。神崎さんが麻優に試されてしまいました……」
孟谷は一瞬厳しい表情を浮かべたが、即座に冷静さを取り戻し、美月をじっと見つめ返した。
「詳しく話してくれ」
美月は迅速に状況を説明した。壁の奥から響いていたSOS信号が実は麻優の罠だったこと、涼が既に麻優からの疑惑を受け、監視が強化されていることを。
孟谷は話を聞き終えると、一拍間を置き、短く頷いた。
「神崎をすぐに救い出したいが、へたに、ここで焦って動けば逆に彼の身を危険に晒すことになるかもしれん。今は静観してタイミングを見極めるべきだ」
美月は焦りを隠しきれずに尋ねた。
「でも、それでは神崎さんが……。このまま放置していては、彼の命が危険です!」
孟谷は美月の肩に優しく手を置き、落ち着いた声で説得した。
「美月、彼は覚悟の上で潜入したんだ。君が焦っても何も解決しない。今、俺たちにできるのは、彼をサポートできる状況を作り出すことだ」
美月は瞳に不安と悔しさを浮かべながらも、ゆっくりと頷いた。
「神崎の救出作戦は慎重に進める。麻優の警戒心を解くために、俺たちは逆にわざと、見当はずれにみえるように、少しあからさまに、目立つ半グレどもに対する摘発活動を続け、彼女の注意を分散させる。その隙に、神崎に安全なルートでの脱出させるよう頑張ろう」
班員たちは一様に緊迫した表情で頷いた。
一方の涼は再び地下のラボで、研究を再開するふりをしつつ、必死に今後の対策を考えていた。彼は周囲を警戒し、麻優の手下たちの視線を敏感に感じながら、深呼吸を繰り返して心を落ち着けていた。
「絶対にここで折れてたまるか。命を失った玲奈のためにも、俺はこの地獄から生きて帰るんだ」
彼は決意を新たにし、メモノートとボールペンを出して、頭の中で練り上げた戦略を書きためる。心の中で祈りにも似た想いが繰り返された。
必ず生きて帰る。
そして、AZコネクションがもたらす、悪夢を終わらせるために。




