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第六十七章 餓鬼の島・山水蒙、征くか・留まるか

 翌日の朝早く、特攻警察作戦室は長谷川栄蔵警視のもと、緊急のAZコネクション撲滅準備会議を開催していた。


 広々とした会議室の空気は重苦しく張り詰め、特攻警察の精鋭捜査員たちが真剣な表情で席に着いていた。


 倉沢美月は立ち上がり、冷静に、しかし胸の内に昨夜から持続する動揺を抱えながらこれまでの状況をプレゼンした。


「情報提供者からの報告によれば、AZコネクション地下施設に監禁された人物が現存している可能性があります。壁越しにモールス信号で『タスケテ』というメッセージを送ってきたとのことです」


 部屋中が一瞬、静まり返った。


 その静寂を破ったのは特殊部隊の隊長である堂島進矢警部補の強い声だった。


「監禁された人物がいるとなれば、速やかに我々特殊部隊を投入すべきです!一刻の猶予もありません。遅れれば人質の命が危険に晒されます」


 堂島の発言に会議室がざわめき始め、何人かが頷いた。しかし、すぐさま別の捜査員が慎重な姿勢で意見を述べた。


「しかし堂島さん、確かに緊急事態ではありますが、我々には確固たる証拠がまだありません。下手に特殊部隊を動かせば情報提供者の身に危険が及び、さらに証拠隠滅や人質への危害という最悪の結果を招く恐れがあります」


 再び会議室は沈黙した。


 全員が長谷川栄蔵警視の判断を待っていた。


 長谷川はゆっくりと眼鏡を外し、静かな声で口を開いた。


「皆の意見は理解している。だが、この状況で慌てて特殊部隊を投入するのはあまりにリスクが高い。人質を救いたいという思いは私も同じだが、我々は今、最善の手を打たなければならない」


 堂島警部補は歯噛みするように小さくうなりながらも、沈黙した。


 長谷川は視線を美月へ向け、厳しい口調で言った。


「倉沢……美月君。情報提供者からはさらに確実な証拠を集めるよう伝えなさい。取引の日時方法、ヤクの保管場所、敵組織の人員・構成、何でも構わん。敵組織内部での彼の立場は危ういが、今は彼に頼るしかない」


 美月は強く頷いた。


「了解しました。情報提供者には引き続き内部情報の収集を行わせます。何かあれば即座に報告させます」


 長谷川警視は頷きながら最後に全員を見渡した。


「現時点での特殊部隊の突入は見合わせる。引き続き慎重に情報収集と監視を続ける。犠牲者を救出し、AZコネクションを確実に壊滅させるためにも、一切の無駄な動きをせず、全力で任務を遂行してくれ」


 会議が終わり、皆が散っていく中、美月は心にずっしり重いものを感じながら作戦室を後にした。


 廊下に出た瞬間、孟谷が声をかけてきた。


「倉沢、疲れているんじゃないか?お前大丈夫か?」


 彼女は一瞬視線を逸らし、ふっと小さくため息をついた後、気丈に微笑んだ。


「はい、大丈夫です。孟谷先輩、神崎さんには、何としても報いてあげたいです」


 孟谷は彼女の肩に軽く手を置き、静かな声で言った。


「俺もそうだ。それにお前も、くれぐれも無理はするなよ」


 美月は孟谷の温かな手を肩に感じながらも、昨夜の由希子との場面を思い出し、胸にまた、静かに棘をさすような痛みが広がった。


(私は、もう任務を遂行するだけ……。もうそれだけでいいんだ)


 美月は強く心の中で自分自身に言い聞かせ、再び静かな覚悟を胸に秘めたまま作戦室へと戻っていった。



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