第二十四章 餓鬼の島・焔の獅子、黄金の狼
敵が仕掛けてきた。
榴弾がM8の傍に着弾した。
夜の静寂が一瞬にして裂け、凄まじい光芒が視界を灼き尽くした。
鋼鉄が軋むような轟音とともに爆発の衝撃が孟谷を襲った。車体が激しく震え、大きくバウンドした。
ハンドルが手の中で暴れる。
フロントガラスには、破裂した無数の榴弾の破片が叩きつけられ、無数の浅い亀裂を刻んだ。
目を開けていることすら困難なほどの閃光と熱気が、孟谷の全神経を苛む。
「畜生めっ!」
孟谷は反射的に呻き、歯を食いしばった。
焦げ臭い煙と粉塵にむせるような気がした、視界は煙幕のように遮られたままだ。
それでも彼はハンドルを離さず、必死で車体を制御し続けた。
だが息をつく間もなく、サイドミラーに新たな悪意が映り込む。
群れをなした、漆黒のバイク騎兵どもの、鋭い光が闇の中で輝いていた。
その灯りは、まるで獲物を狩る狼たちの目のように冷たく、容赦なく孟谷の背後から迫っていた。
心臓が早鐘のように鼓動を刻み始める。恐怖ではなく、これは敵意への怒りであり、闘争本能の目覚めであった。
身体中のアドレナリンが沸騰している。
孟谷は憤然とアクセルを踏み込んだ。
BMW M8は猛獣のごとく咆哮を轟かせ、力強く加速していく。
だが追っ手は離れない。黒いバイク騎兵の群れは俊敏な動きで距離を縮め、次々と孟谷の退路を塞いでいった。
彼らの巧妙な包囲は、狩人が罠に獲物を追い込むように慎重かつ迅速であった。
再び爆音が夜の静けさを切り裂いた。孟谷の右後方に着弾した榴弾が路面を砕き、轟音と共に燃え上がる炎が視界を灼いた。
彼はぎりぎりで炎をかわし、車体を激しく揺さぶりながらも速度は落とさない。
敵はさらに攻撃を強める。
銃撃の閃光が暗闇を何度も引き裂き、弾丸が車体をかすめ、鈍い金属音を立てた。
孟谷は苛立ちを噛み殺しながらも、冷静さを失わずに相手の動きを見定める。
その時、敵の一騎が他の追手を凌ぐ勢いで孟谷のM8に急接近してきた。
孟谷は即座に助手席のレミントンM870を掴み上げると、鋭い動作で窓を開けた。
高速で流れる風圧に抗いながら、狙いを定める。短く息を吐き、一瞬の間を置いて引き金を引いた。
レミントンが獰猛に吼え、一発また一発と連続して火を噴いた。
敵のバイクが火花を散らし、転倒して視界から消えた。
だが敵の攻撃は止まらない。むしろさらに激しくなり、追跡の狂気とともに孟谷を追い詰める。
「まだ終わりじゃねえ……な」
孟谷は怒りを呟き、強引にハンドルを切った。
その時、前方から強烈なヘッドライトの光が視界を貫いた。路面を激しく照らし出しながら逆走して迫ってくるのは、漆黒のAMG G63。
まるで猛獣のような咆哮をあげ、威圧的な巨体が高速道路の中央を堂々と占拠し、路上の覇者のごとく高速で迫ってくる。他を寄せ付けぬような存在感だ。
前方から強烈なヘッドライトの光が視界を貫いた。
「何っ……!」
孟谷は驚きと怒りを噛み殺しながら、正面衝突を回避すべく急ブレーキを踏むが、相手もまた速度を落とさず、そのまま真正面から突っ込んできた。
轟音が響き渡った。二台の車両が激しく衝突し、金属が擦れ合う甲高い悲鳴を上げる。M8とG63は互いの車体を押し合う。
二台の猛獣が咆哮を放ち、一歩も引かずに道路上でにらみ合ったまま動けぬまま、鬩ぎ合う。
一瞬の静寂。次の瞬間、両者ともドアを開き、地面へと降り立った。
M8の前方、闇の中から悠然と姿を現した男が、G63の車上に飛び乗り、孟谷を睥睨した。
黄金の短髪、タキシードを模したレザーコート。両手に嵌めた黄金色に輝く、ブラス・ナックル。
「我は、邪馬統神勅八傑衆の一角にして暗黒街の貴公子、金狼侯牙王。赫の戦士、『火の国の獅子王』よ!今宵、刃を交わせて嬉しいぞ!」
男の声は堂々と響き渡った。




