終章(2) クリスマスイブ
12月23日。6時30分。
ぼんやりした頭で、目が覚める。
月曜日、朝から外回り。2件、新規の客先を回って、会社に戻ったら新人君の指導方針の打ち合わせ。
そういえば、金堂さんと佐藤君のプロジェクト、めちゃくちゃ上手くいってたな。
頼もしい限りだ
会社も上手く回ってる。データ処理をして、18時30分には終わるはず。
台所で味噌汁の準備を終えたハナちゃんと交代で、卵焼きを焼く。
焼きあがった卵焼きを皿にのせ、味噌汁をお椀に注ぐ。白飯をハナちゃんが盛り付けて、海苔と納豆。白菜の漬物。
「いただきます」
「いただきます」
「お父さん、今日はいつもどおり?」
「ああ、クリスマスに向けてたくさん仕事終わらせておきたいから。ごめん、遅くなるね」
「うん、大丈夫。急がないで、気を付けて」
「ああ。」
ご飯を食べ終え、食器を二人で片付けて、火の元を確認する。
「お父さん、パンって家にあったっけ?」
「いや、あれ?そういや、最近あんまり買ってないよな。なんか一時期しょっちゅう食べてたのになぁ……帰り、買ってこようか?」
「あ、うん。何か、食べたくなっちゃって。えへへ」
そんな会話をして、二人は一緒に家を出て、学校の近くで別れた。
早く仕事を終わらせて、帰らないと。
***
ご飯の片づけを終え、風呂も終わった。
ハナちゃんは先に寝室で横になっている。
テレビをつける。どのチャンネルも、明日のクリスマスイブの話題ばかり。
いつもの静かな夜のひと時。漫画を読もうか、ゲームにしようか。
あれ、俺、あんまりテレビ見ないんだけどな。
何で点けてるんだっけ。
***
12月24日。6時30分。
ぼんやりとした頭で、目が覚める。
火曜日、今日は、朝からミーティング。昼に納品先と打ち合わせ。それが終わったら、データチェック。新人君の仕事の進捗確認。
そこまでやったら今日も終わりかな。16時から時間休。
クリスマスのケーキを買って、今年はハナちゃんと二人で食べる。
ツムギちゃんと金沢さんがいた去年は賑やかだったけど。
あれ、何であんなににぎやかだったんだっけ。
台所で味噌汁の準備を終えたハナちゃんと交代で、卵焼きを焼く。
焼きあがった卵焼きを皿にのせ、味噌汁をお椀に注ぐ。白飯をハナちゃんが盛り付けて、海苔と納豆。白菜の漬物。
「お父さん。今日の卵焼き、甘いね」
「あ、そうだな。あれ。砂糖なんてあんまり使わないのに」
ぽとり。
ハナの頬を涙が伝った。
「あれ?」
ハナはびっくりして、頬を拭う。
「あれ、何だろ。変だな。あれ? 何か、止まんなくて……」
涙をこぼし続けるハナを、近嵐は箸を持ったまま見つめた。
ふと、右隣の何もない空間に目を向けた。
食事を並べるのは、四角い、安物のテーブル。
近嵐は箸を置いて立ち上がった。
寝室の押入れを開ける。
そこには、テーブルと色目の合わない茶色い椅子が一脚しまわれていた。
身体が、何かを覚えている。
俺は、この椅子を覚えている。
近嵐は無言で、その椅子をテーブルに運んだ。
椅子をテーブルに並べた時。
3脚。
それがこの世で一番正しい、間違いない位置に思えたその時。
近嵐はハナと顔を見合わせた。
「お父さん」
ああ、そうだよな。
違う。
これは、うちの朝ごはんじゃない。
近嵐は、ふと天井を見上げた。
屋根裏収納。
あんなところ、使ったこと何てないはずなのに。
覚えてる。体が、開け方を。
近嵐は、急いでご飯やおかずを台所に片付け、椅子に乗り、その取っ手に手を伸ばす。
カチャリ。
取っ手を引いた瞬間。
収納の戸が開き、大量の写真が天井から降り注ぎ、床に散らばった。
ハナと近嵐は、そのたくさんの写真を見つめた。
「……どうして……」
ハナは、床に膝をついて、写真を一枚手に取った。
近嵐とハナが映った写真。
近嵐とハナが、誰かに笑いかけている写真。
写真から、ふわりと、太陽の光をたっぷりと吸い込んだ毛布のような、ウガルルムの柔らかな香りがした。
「何で……?」
ハナは、写真に写る自分の視線の先を。
思い出した。
「ウガちゃん!!」
ハナは、写真を抱きしめながら、近嵐を見上げた。
「お父さん……これ、撮ったの……ウガちゃんだよ……。何で……。私……。忘れてたの……?」
泣きじゃくるハナを、近嵐はそっと抱きしめた。
記憶が、ドミノが一気に倒れていくように鮮明に蘇っていく。
なんだよ、まったく。
こんな。
こんなの望んでないぞ。
近嵐は、寝室の箪笥の奥から小さなビロードの箱を取り出すと、コートのポケットに突っ込み、ハナの目を見た。
「行こう。急ごう」
さぁクリスマスイブ。3回目のクリスマスに向けて、近嵐さんを応援するばかりです。
もし、ほんとうにもしよかったら、最終話まで見て行っていただけたらとても嬉しいです!(ついでに評価や感想なんていただけたら、飛んで喜びます)




