6: 夏(2度目)(3)/プールにいきましょう③
「……」
波のプールではしゃぐハナを、庇付きベンチの下で見つめる近嵐の前を、ギルタブリルが横切る。
再び横切る。
三度横切る。
「あのさ」
「ん?」
「ハナちゃんが見えにくいから、俺の後ろ通ってくんない?」
「ふーん、気になるってこと?」
長い髪をかき上げながら、ギルタブリルが近嵐を見下ろす。
「ああ、気になる」
眉間にしわを寄せながら、近嵐がぼやいた。
「一体何が気になるのかしら?」
ギルタブリルは視界の端にウガルルムの姿を捉える。
さぁ、ルル、この変態の無様な姿を目に焼き付けるのよ。
ギルタブリルは前かがみになり、胸元に手をかけてほんの少し、水着から谷間がのぞくような姿勢を取る。
「ハナちゃんが見えないからさ……ごめん、悪いんだけど、ちょっと横にどいてくんない?」
仏頂面で言い放つと、近嵐は顔を横に動かしながら、ギルタブリルの後ろのハナを見つめる。
え、ちょっと。
あれ?
全然こっち見ない?
「ちょ、ちょっと!」
ギルタブリルが再び近嵐の視界を遮る。
「な、なんだよ?」
「な、なんだも何も……どうも思わないわけ?」
「は?」
「結構な美人が、水着姿で目の前にいると思うんだけど」
「……ごめん、言ってなかったっけ? 俺、女性の顔見えないからさ……。 てか、どうしたの? 何かあった?」
本当にすまなそうに謝った後、近嵐がギルタブリルを心配そうに見つめる。
「……」
そうだった。 この男は、究極の不可能。女性に関心何て……。
「ギルタブリル―!」
ウガルルムの声が響くと、近嵐がピクリと反応した。
「あのうぉーたーすらいだー、乗りに行こうよ! ハナちゃんはまだ波のプールで遊ぶっていうからさ」
満面の笑みで、ウガルルムがギルタブリルの手を取る。
ギルタブリルは、ウガルルムが目の前に現れるなり、近嵐が赤面したのを見逃さなかった。
え……。あれ……。
近嵐?
「ルル」
「?」
「その……日差し強いから、これ、ちゃんと着なよ。」
近嵐がウガルルムに、パーカータイプのラッシュガードを差し出す。
「日差しは私大丈夫ですよー」
「その……ルルは大丈夫かもしんないけど……」
「?」
「ほら、人も増えてきたし、お前、目立つじゃんか」
「目立つ?」
「あー、もういいから、これ着てくれ」
「いいですけど……何でですか」
ギルタブリルが、明らかに動揺している近嵐を見つめる。
「……だから、その……結構、男も増えて来てるから。その……じろじろ見る奴もいるだろ?」
「はぁあああ?!」
ギルタブリルが叫び声を上げる。
「な、何それ? どういう意味?」
「な、何だよ? …あ、ちょっとハナちゃん、奥に行きすぎ! とにかくこれ!」
近嵐は、ラッシュガードをウガルルムに押し付けるように手渡すと、プールの中にざぶざぶと入りこんで行った。
「むー。これ着ない方がすっきりしてていいんですけどねぇ。まぁ、何か着て欲しいみたいですし、着ますかね…」
しぶしぶ、ウガルルムはラッシュガードに袖を通す。
「……」
ギルタブリルは近嵐の背中を見つめた。
そうか。
近嵐も、ルルのことを。
え、じゃあ、もう両想いってこと?
ギルタブリルはため息をついた。
目的は、それなら、達成しているのに。




