6 夏(二度目)/プールに行きましょう②
自宅最寄りのレンタカーショップは、夏の三連休ということもあり、安く手ごろなコンパクトカーは軒並み貸し出し中で、やむなくいつもより高いスポーツタイプのワゴンを借りた。
「嬉しそうな、悲しそうな顔ですね」
「するどいな…」
ほんと、最近、こいつは俺の心を読んでるみたいだ。
思っていたより1・5倍の出費だが、新しい、ちょっと高級路線の車は男心として自然とうきうきするのだ。
「でも、楽しそうですね!」
笑顔で近嵐の顔を覗き込むウガルルム。
金色の髪が太陽の光を美しく弾いた。
「ま、まあ、せっかくだからな。楽しまないとな」
近嵐は慌てて、ウガルルムから顔を背けた。
駄目だ、どうも調子がおかしい。
顔だって見えやしないのに、ルルの仕草や、髪の毛の輝き、声の響きが、心地よくてしょうがない。
そんな気持ちを悟られたら、恥ずかしくてしょうがない。
近嵐はすたすたと、車の方に歩み寄り、運転席に逃げ込んだ。
***
「わー! 広い! すごい!」
更衣室ゾーンからいち早く抜け出た、浮き輪を持ったハナが「波ができるプール」に向けて走りだす。
「へー、思ってたより立派なもんだな」
近嵐はその背中を見つめていた。オープン時間早々に到着したが、すでにかなりの人が並んでいた。
ハナちゃんを見失わないように遊ばないとなぁ。
「わー、凄いですねぇ。人間ってほんと面白い物作りますね」
「!!」
不意に隣に現れたウガルルムから、少し甘い香りがする。
「? どうしました? え? 近嵐さん、大丈夫ですか? 熱?」
「違う、いや、その……ルル、お前、あれ、ほら。日差しが強いから、ラッシュガード、上着、早く着た方がいい」
「あ、日焼け防止ですか? それなら大丈夫ですよ! 私に日焼けの概念はありません」
「……いや、そうじゃなくて……」
近嵐は、視界の端にウガルルムの水着姿を捉えながら、鼓動の早まりを何とか抑えようとしていた。
いや、おかしいだろ、俺。
女性を見たって、何とも思わないはずなのに。
ウガルルムの白い肌と、普段は洋服に覆われている、女性らしい胸や腰の曲線が、近嵐の心をぐちゃぐちゃに乱していた。
「ちょっと、いやらしい目でルルを見ないでくれる?」
「! え? 何で? ギルタブリル?」
冷たい声の主は、長い黒髪を二つのお団子にコンパクトにまとめて、ワンピースタイプのシャープな水着に、腕組みをして近嵐を睨みつけていた。
「あ、プール行くって言ったら、合流するって言うので」
「どうやって…」
「私、鏡とか水面があれば、空間をつなげて移動できるので」
「……まぁ、良く分からないからどうでもいいけど」
「とにかく、そういうスケベな目でルルを見ないで欲しいんだけど」
「え? スケベって何?」
「ルル、スケベって言うのは……」
「おい、止めろ! ていうか、俺はそんな目で見てない! 俺はハナちゃんを見てないといけないから! じゃ、とにかくじゃあ二人で遊んでてくれよな!」
近嵐は、逃げるようにハナが遊ぶプールの方に駆けていった。
ギルタブリルはその後ろ姿をじっと睨んでいた。
問題は、ルルが近嵐を好きになってしまったこと。
であれば、ルルが近嵐を嫌いになればいい。その上で、近嵐にはルルに求婚させて死んでもらえばいい。
それで全部解決する。
「スケベって言うのはね、近嵐が、ルルのこといやらしい目で見てたってことよ」
まずは、セクハラ親父作戦。
女性をいやらしい目でじろじろ見ているような、若くもない男性は気持ち悪がられるという。さっきの近嵐の目、完全にいやらしい目でルルを見ていた。それに気付けば、ルルだって嫌な気持ちに…。
「え……と……それって……その……」
ん?
何でそんな赤くなる?
若干嬉しそう?
「わ……私を見て……その……こ、興奮? してたってこと?」
「え、えーと……」
頬に手を寄せて顔を赤らめている。
……何で喜んでるの?
「そ、そっか……人間の男性は、あれだもんね。女性の肌とか見ると反応するって……あ、でも、ギルタブリルのことはそういう目で見てなかったよね?」
「そ、そうかしら? いや、分かんないわよ! 人間の男なんて、女なら何でもいいらしいから!」
まずい、ルルを喜ばせてどうする。作戦変更だ。
どんな女にも興奮する変態なら、ルルも愛想をつかすはず。ここは私の魅力を発揮して、近嵐を興奮させるしかない。やってやる!




