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6:夏(二度目)(1)プールに行きましょう①

 「近嵐係長」

 「?」

 昨晩の残り物の焼きそばと冷凍から揚げ、プチトマトにレタスが添えられた弁当箱を開け、近嵐が昼食を始めようとしたその時、背後からの佐藤の声に近嵐は振り向く。

 「お昼休みにすみません。係長、夕方は早く帰らないといけないですよね、なのでお昼にと思って…隣でお昼いただいてもいいですか?」

 今年度から入社した佐藤君。結構背が高くて、さわやかな笑顔、それにも関わらず、案外仕事ぶりや性格は体育会系で泥臭く仕事するという、職場の女性陣も男性陣も抜群の評価を得ている有望なルーキーじゃないか。ああ、笑顔が眩しい、20代初期の艶やかな肌も輝いている。30後半のくたびれたおじさんとはやはり違うなぁ。

 そんな若者がなぜ俺の隣で昼食を取ろうとするのか。

 「仕事の話で恐縮何ですが、ここの集計処理されたの、近嵐係長ですよね? 先方の数値の定義でどうしても分からないところがあって……」

 「なんだって? 昼休みに勉強しにきたの?」

 「はい、あ、お昼の時間を邪魔してしまい、本当に申し訳ありません……あの、今でなくて、どこかでお時間がある時に教えていただけないでしょうか」

 ふぇぇ。

 近嵐は思わず笑った。

 「え?」 

 「いや、何でそんなに頑張るのさ。これ、依頼元の官公庁の統計が超マニアックでさ、先方の手引きの他に、法令の知識もないと処理できないんだよ。でも、佐藤君は企業案件島だろ?」

 「次の期から、官公庁島に移る予定で……その……」

 「あ、そういえば、金堂さんが新規リーダーをやる案件か」

 「は、はいっ」

 ん? 何か顔赤くね?

 「でも、それ秋からでしょ? 確かに、これ知ってたら役に立つこともあるかも知れないけど……早くない?」

 「そ、その、今少し自分の仕事が落ち着いてて……できることはできる時にやっておきたくて……」

 「偉いなー。 とはいえ、秋の案件始まったら、金堂さんも教えてくれると思うけど……」

 「いえ、こ、金堂先輩のご負担にあまりならないようにしたくて……」

 近嵐は再び噴き出した。

 「え?」

 「俺のご負担はいいの?」

 「あっ! い、いえ……その……ち、近嵐係長は、金堂先輩に色々教えてたんですよね? その、金堂先輩、よく近嵐係長の話をしてたんで……その……」

 

あれ?

 照れてるのと……。

 

 「自分、近嵐係長に追いつきたいんです。その、そしたら……金堂先輩の役に立てるかと思って……」

 

 そんな顔を赤くしたまま言われたらさ……。

 ……あー、これは。鈍い俺でも流石に分かる。分かるよハナちゃん。

 近嵐はため息をついた。


 「俺、お昼は早めにご飯食べて昼寝するんだ。だから、そうだな、火曜と木曜の18時から、30分時間取るから。後、分かってきたら自習できるように資料上げるからさ、後は社内ディスカッション上でのやりとりでどう?」

 佐藤はぱっと顔を輝かせた。

 「よ、よろしくお願いします!」

 あー、若ぇ。

 いーなー、何か。


***


 「これを見てください!」

 金曜日の夕食中、不意に立ち上がったウガルルムが、近嵐とハナにチラシを示した。

 「このプール、大人500円、子供200円で一日中遊び放題ですよ! このうぉーたーすらいだーも乗り放題、波のプールも泳ぎ放題です! さらにフードコートのラーメンも本格派! 夏の日差しの中、泳ぎつかれた体に染みわたる香ばしい醤油スープの味わい。ああ、考えただけで最高です! ちょうど三連休、初日の明日、行きましょう!」 

 「わー! プール! 行きたい!」

 ハナちゃんはノリノリである。が。

 「ルル、お前、泳げるの? ライオンって、水が苦手じゃなかったっけ?」

 「水浴びは嫌いじゃないです。それに、人間の体で行きますから……まぁ、泳ぎは正直自信ないですが、浮き輪があれば大丈夫です!」

 「そ、そんなもの家にないぞ?」

 「じゃーん、バイト代で水着と一緒に買いました!」

 ウガルルムは何処からともなく、浮き輪とハンガーに吊るされた黄色いフリルのあしらわれたビキニを取り出す。

 「お、お前……それ着てくのか?」

 「え、水着ってこういうものでしょ? 違います?」

 「ち、違うことはないけど……」

 結構、肌が露出するんじゃないか? 

 あれ、よく考えると、女性のビキニ姿なんて近くで見たことないぞ? これって、布面積的には下着とほとんど変わんないよな? な、何でこれがOkで下着は駄目なんだ? TPOの問題? 

 「? 何か近嵐さん、顔、赤くないですか? ま、まさか……夏風邪?」

 「違う! 赤くない!」

 「え……も、もしかして……な、何かやらしいこと考えてます?」

 「お……お父さん……?」

 「か、考えてない! 違う! その、あれだ、日焼け! 最近の紫外線は強力だから、日焼けをするぞ! もっと……布! 布面積のある水着をだな……」 

 「ちゃんと、この上に羽織るラッシュガードも買いましたよ」

 ウガルルムは、白いパーカータイプのラッシュガードを取り出した。

 

 「あ……そうか。それならいい。ちゃんとそれを上に着るように」

 

 「……あれ? もしかしてがっかりしてます?」

 「お……お父さん……」

 「してないっ! そのプール、すげぇ混むって聞いたから、明日は早く出発するぞ!」  


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