第二話 時間停止して魔王を殴ってみた
それから数ヶ月が経過した。
って違〜う。思ってたのと違う!
俺は赤ん坊として生まれ変わっていたのだ。
まず転生した俺の名前だが、エドガー・レイモンドというらしい。
次にわかったことは、心の中でエリシアを呼ぶと、小さくなって姿を現すことだ。
エリシアからは毎日この世界のことを教えてもらっている。
最後に、この家は二階建てで、かなり広いということだ。明らかに平民が住むような家ではない。
しかし、地球にあった家電製品とかはこの家には無いみたいだ。恐らくこの世界にも無いのだろう。
家の窓から外をのぞくと、中世ヨーロッパの町並みといった感じの風景が広がっている。
ひとまず分からないことはエリシアに聞いて、教えてもらうとしよう。
○
それから三年が経過した。
流石に三歳になると、俺も歩いたり喋れるようになる。言葉も完璧に習得した。
そして、現在置かれている状況にもある程度、詳しくなってきた。
俺はエリシア大陸の、セルト王国に生まれたらしい。
さらに魔法には色々な属性があるらしい。火を起こしたり、水を出したり、とにかく不思議な現象を起こす術がある事を知った。
そして、俺が生まれたこのレイモンド家だが、べネット領ノリッジ町の下級貴族らしい。
それと、俺はエリシアから貰った【時間停止】が使えるようになった。
名前がダサいから、クロノス(時間)とスタシス(停止)を合わせて、クロノスタシスと呼ぶことにした。
うんうん、カッコいいよね?
「この魔法は、この世界でエドガーさんしか使えない特別な魔法なんです」
そのようにエリシア氏は供述していました。
○
「時間停止!」
すると、俺の部屋の時間が止まった。
そう、この魔術は指定した範囲の時間を止めることができるのだ。時間停止の範囲外からこちらを見ても、通常の風景に見えるらしい。実に都合良く出来ている。
とはいっても、普段の生活で時間停止を使うことなんてまあ無いね。
なんかさ、この町に魔王が襲来して、俺が時間停止を駆使して魔王を倒しちゃうみたいな。そんな展開が起きないかな〜。いや、起きるはずないよな〜。
「あのー、魔王ならそこのノリッジ市場にいますよ」
ん?
「三大魔王の一人、ガロム・デスドレイクがいますよ」
おいおいエリシアさん、流石にそれは冗談だろうよ。なんでこんな町に魔王さんがいるんだよ。
あれ、俺の心の声を聞いたのであろうエリシアがむっとした顔をしてる。
「それって俺でも、倒せちゃったり?」
「あ、無理ですね。はい」
あれ、俺って最強じゃなかったっけ?
「なら、致命傷を負わせちゃったり?」
「無理ですね」
「時間停止を使って一方的に攻撃しちゃったり?」
「それなら可能です!」
なんだと。俺が魔王にダメージを?!
これは願ってもない機会だ!
「エリシアセンパイ、早速その魔王ガロム・デスドレイクとやらをぶん殴りに行きやしょう!」
魔王って呼ばれている訳だ。悪の王だ。それはもう市場をグッチャグチャのハチャメチャ状態にしてるに違いない。
俺は急いで支度して家を出た。
「お母様、エレノア、少しお花をつんで来まーす!」
俺はエリシアの案内に従って、幼体で精一杯走った。
「着いた!」
そこには、巨体の魔王っぽい男の姿があった。男性の首を掴んで持ち上げて、怒りの表情をあらわにしている。
「ねえぬえ、あの人可愛そう」
「近付いちゃダメよ」
「あれはノリッジ町最強最悪の......」
こいつは悪だ! 俺の本能がそう訴えている。俺はこいつを殺る!
「時間停止!」
俺は必死に魔王のすねを蹴って蹴って蹴りまくる。そして殴る。さらに殴る。
三分ぐらい経っただろうか。もうすぐ時間停止の上限がくる。それにしても成長したものだ。最初は2秒ぐらいしか時間を止められなかったのに、今となっては三分だ。
ここまで逃げればバレないだろう。俺は時間停止を解除した。その瞬間、魔王がーー
「痛いぃぃ痛いいぃぐぅあぁ〜誰だぁ〜んはぁ〜」と悶絶しながら叫びだした。
魔王覇気を全開にして悶絶する姿は、俺が想像した魔王とは少し違うが、ひとまず俺の攻撃が効いていると分かったからちょっぴり嬉しい。当然、周囲の人々は怯えている。
「俺のすねにちょっかいを出したのは誰だぁぁ。なんでこんなエモい嫌がらせをするのかなぁ。絶対許さん! お前か? お前か? お前か? お前か?」
とか問い始めた。もちろん名乗り出るつもりはない。これは、逃げるが勝ちってやつだね。
っぎく、一瞬目があった。ひとまず隙を見計らって逃げよう。そんなことを考えていたら、魔王が目の前に来た。
「俺は目を見ればそいつの考えは大体分かる。お前だな?」
デ、デカイ。
しかし、今日の時間停止の残りぶんは、まだ少しだけある。もう一回、時間停止を使えば逃げられないこともない。
「は、はい」
「貴様、時間を止める魔法が使えるのか。珍しいガキだ。いやその前に、なぜこんなことをした?」
ん、魔王に時間停止の魔法を使えることがバレてしまった。これ詰んでね。
これはもう誘拐されて、世界支配の駒として使われるパターンですわ。とりあえず、正直に問いに答えよう。
「魔王様が男の人をいたぶっていたので、僕が制裁を加えてやろうと思いました」
「フハハハハ、ハーッハッハー」
めちゃくちゃ笑うやん。何がおかしい。割とまともな考えだと思うけど......
「俺はな、あの男に持ち金を全部スられちまったんだ」
はぁぁ。なんで魔王が一般人にお金をスられてるんだよ。ていうか、何がどうなったら魔王から金をスろうって考えに至るんだよ。
「そ、それは災難でしたね〜。あはは〜」
魔王はずっと俺の目を見ている。正直、逃げたい。
ていうか、バレていても時間停止を使えば、この魔王を撒いて逃げることは容易だろう。
「お前は見込みがある。俺の弟子になれ!」
ん。この魔王、いきなりとんでもないことを提案してきた。魔王の弟子だって。そんなのブラックな環境に違いない。死んでも嫌だね!
「とても有り難いお話しですが、遠慮しておきます」
あれ、魔王さんが驚いたようなガッカリしたような顔になった。
「なぜだ。なぜだ。この俺に弟子入りしたい奴なんて魔王大陸にはごまんといるぞ!ありえん話だ」
うん。魔王が三歳の男の子に駄々をこねはじめた。
「すいません、嫌なものは嫌なんですよ!」
「ならんならん。決めたっ! 俺は貴様を弟子にするまで諦めんっ!」
うわっ、何なんだよこの魔王。気持ち悪い。このまま会話を続けても、俺が折れてこの魔王の弟子になる未来しか見えないのだが。
このメンヘラ系魔王は、逃げても絶対にこの町を隈なく捜索して、俺の家を特定するだろう。
えーい、こうなったらダメ元だ!
「お母様を心配させてしまうので、ひとまず帰ってもいいですか?」
「ならん、ならんぞ!」
「そんなこと言うと、僕、遠くに引っ越しますよ。そしたら二度と会えませんね」
「ムッ、エドガー殿、帰ってよいぞ!」
ガロムが悲しそうにシュンとしている。
割とあっさり帰らせてくれるみたい。実は常識人だったり? なんて思ったりもする。
そうして俺は足早に帰った。
翌朝、俺の家の食卓に魔王がいたーー
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