歴史絶対変えたくないウーマン VS ……?
どこの誰だー!
ハナは無言で静かにキレていた。
なんか知らんけど、早い気がする。すべてがちょっとずつズレてる気がする。
ハナは21世紀に生きていた。
でも、気がついたら戦国時代で、ハナの意識は農民の幼女の体に宿っていた。今の状況を表現するなら、逆行転生という言葉がたぶん一番近い、気がする。
今のハナは、歯牙ない農民の幼女である。――戦乱の世の農民は意外と武闘派なので、実際には歯牙ある農民だけどそれはともかく――ハナは自分を過信してはいなかった。
誰もが振り返るような美貌でもなく、知力体力など特筆するものもなく、受験時に歴史の年表をただ丸暗記した記憶だけがある、単なる幼女がハナである。
自分の力で立身出世とか下剋上とか、するつもりもなければできる気もしない。でも身の危険を感じることなく、できれば衣食住完備の環境で天寿をまっとうしたい。
ではどうするか。
そんなときにピッタリなことわざがある。
長いものには巻かれて、寄らば大樹の陰、だ。
すばらしいことわざだ。
歴史年表の細かいところは忘れていても、大枠の歴史の流れは覚えている。ハナには、はじめっから巻かれるべき長いものも、寄るべき大樹もわかっているのだ。
歴史を知っているハナ自身がよけいなことをせず、ただ歴史の流れのとおりにエラい人についていけば、生涯にわたって安定した生活が送れるというものである。こんな簡単ラク早な話はない。
21世紀では、いつどこの企業がつぶれるか、いつ誰が左遷されリストラされるか、わかったもんじゃなかった。――倒産やリストラだって予兆はあるから、まったくわからないわけじゃないけど、そこは言葉の綾というもので――それに比べたら、明日をも知れてる戦国の世は、だいぶやりやすいはずだ。
と思って、幼女から少女に成長するや否や、粛々と親戚の親戚の親戚の親戚を頼り、尾張で商いするお店の下女に入った。
入ったはずが、なんと安土に移動するという。
待って。安土城って、できたのいつだっけ……?
ハナが下女として入る直前、お姫様がどこぞに嫁いだ、という話は聞いた。
それはかの有名な織田信長の妹、お市の方様のこと、だと思う。
でも、そこからどれだけすぎたっけ?
最近では下女の仕事にもすっかり慣れたけど、え、まだそこまで時間、たってなくない?
まだ三河方面にコネ作れてないんだけど?!
比叡のお山が焼かれたと聞いたときも、記憶にある年表より、なんか早いような気はしたのだ。
え、待って。これ、ちゃんと浅井の三姉妹生まれた?!
生まれてないと、豊臣も徳川もだいぶ流れが違っちゃわない?!
そうなったら生涯安定、簡単ラク早生活の危機なんだけど?!
焦っていたらピンときた。女の勘が働いた。
ふだん、あまりあてにならない勘だけど働いた。
もしや、誰かが歴史を改変しているのでは?!
ハナ自身が逆行転生しているのだ。同じような人がいても不思議はない。
きっと、ハナと同じく歴史を知ってる人がいて、そいつが暗躍してるに違いない。ハナができるだけ流れを変えないように気をつけて行動しているのに、なんてやつだ!
そして冒頭に戻る。
ハナは決意した。逆行転生者を見つけ出して、これ以上の改変をやめさせてやる!と。
そう考えて物事を見てみれば、この時代にこんなのあったっけ?と疑問に思うようなものが、そういえばチラホラ……
戦国の世には目新しい――21世紀では疑問に思わない――物品には、何人もの職能の人間が関わっているのだろう。ここから元凶にたどり着くのは容易ではなさそうだ。そもそもハナにはたいした知力があるわけでもない。疑ってかかると、誰も彼も怪しく見える。
でも、ここであきらめるわけにはいかないのだ。
誰が勝ち残るかわからないでは、この乱世、生活どころか命さえ危険すぎる。
ハナは拳を強く握りしめて心に誓った。
逆行転生者め!
絶対に見つけて、改変阻止してやるーっ!
短編詐欺ではありません。文献等調べて連載書く元気がないから(笑)
改変モノでない、トムとジェリーっぽい『ジャッカルの日』な感じのが読みたくて自給自足。
お読みいただきありがとうございました。