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NTR属性と言う高尚な性癖は持ち合わせていないんだが?

作者: haya-neru

 俺は本条 巧(ほんじょう たくみ)。年齢は28歳。つい最近彼女は出来たんだが、どうしてもトラウマが払拭出来ずにいるんだ。それは今の彼女も理解してくれているんけど、結婚には一歩踏み出せないでいる。


「ちゃんと理解してるし、急がなくて良いよ」


「ありがとう。真奈美。ごめんな」


 今の彼女である佐倉 真奈美(さくら まなみ)は、会社の同期で俺と同じ年齢だ。真奈美は俺がトラウマになっている件について知っていて、傷ついた俺を側で支えてくれたんだ。だから正式に付き合ったのは最近だが、知り合ってからはもう5年になる。なので付き合うイコ-ル結婚を視野に入れた関係なんだよ。


 年齢的には真奈美も結婚適齢期だと思うし、何とかしっかりと前を向き、正面から彼女と向き合いたいと考えている。今の所、このトラウマに効く特効薬は無いみたいだけどな。





◇◇◇



 

 今から4年前。俺のトラウマの発端は、今の会社に入社して1年目に起こった。当時付き合っていた彼女である胡桃(くるみ)と結婚する為に、必死で働き始めた時期だったんだよ。胡桃とは高校1年から付き合っていて、お互いの両親も既に顔見知り。だから2人が結婚する事に何の障害も無かった。たまに喧嘩とかもしたけど、お互いの気持ちは通い合っていると信じていた。


 でもある日、俺の友人の(さとる)から仕事中に電話が掛かって来たんだ。そんな事はこれまでに無かったし、緊急の要件なのかと思って俺は慌ててその電話に出たんだ。



「忙しい所すまん。ちょっと話したい事があるから、今日の仕事終わりに会えないか?」


(さとる)? 何かあったのか? 今日は残業の予定も無いし、大丈夫だけど?」


「そうか。じゃあ駅前の居酒屋に来てくれ。待ってるから」


「分かった。出来るだけ急いで行くよ」


 悟は俺の高校時代からの数少ない友人だったし、たまには飲むのも悪くない。俺はそう思って胡桃にも悟と会う事はメ-ルしておいた。すると胡桃も機嫌よく行っておいでと返事が来た。悟の事は胡桃も知っているし、胡桃も心配はしないだろうと思っていたけどな。


 それでその日は急いで仕事を終えて、悟の待っているだろう居酒屋へと急いだ。最近は仕事が終わったら家と会社の往復だったからさ。俺もテンションが上がっていたんだと思う。目的の居酒屋へ着くとカウンタ-に悟るの姿を見つけた。


「お~い悟。待たせたな!」


「おお。すまんな。ビールで良いだろ? すみませ~ん! 生1つ!」


 

 ビールで乾杯した後は、久しぶりに馬鹿話をして楽しい時間だったよ。でもある程度飲んだ頃、急に悟が雰囲気を変えたんだ。ジッと俺を見つめながら、何かを言おうとする悟。だがどうにも言葉が出て来ない様でさ。俺から声を掛ける事にしたんだ。



「何だよ悟。お前らしくも無いな。何か悩み事か?」


「......いやすまん。こんな事は言いたくなかったんだがな。お前って胡桃ちゃんと別れたとか無いよな?」


「はぁ⁉ 何言ってんだよ! 俺ら結婚するつもりだし、今もその為に必死でお金貯めてるんだぜ?」


「だよなぁ。お前らが別れるはず無いよな......」



 そう言ってまた黙ってしまう悟。そんな悟の様子とさっきの問いかけが気になった俺は、一体どう言う事なのかを悟に迫ったんだ。コイツも胡桃とは面識があるしさ。俺と胡桃の付き合いが長い事も知っている。だからさっきみたいな問いかけも、今まで一度もされた事が無かったんだ。



「昨日さ。俺見ちまったんだよ。胡桃ちゃんが男と仲良さそうに腕を組んで歩いているところを。だから気になって後をつけたんだ。そしたらそのまま......」



 それを聞いた俺は無意識に悟の胸倉を掴んで揺すぶってた。何の冗談だよって。そんな俺に対して悟は何も言わず、すまなそうに首を垂れる。その姿に沸騰した俺の頭が徐々に冷めて行った。マジなのか? まさか胡桃が浮気してたって言うのか? そんな考えが頭の中をグルグル回って行く。もうどうしていいか分からん。それでも見間違いだろ? って言う気持ちが強かった俺は、悟を掴んでいた手を離した。


 悟は俺が少し落ち着いたのを見て、おもむろに携帯の写真を見せて来た。するとそこには確かに胡桃に似た女性と色黒のチャラい男がホテルへ入って行く様子が映し出されていたんだ。何度も同じ写真を見て、服装や髪形も胡桃だと言う事実に打ちのめされる。


「実はさ。少し前に康太(こうた)からも同じことを聞かされたんだ。その時にアイツが送って来た写真がこれだ」


 康太も悟と同じく高校時代からの友人の1人だ。次に見せられた写真でも女性は胡桃だと分かるものだった。だがその写真に写る男は先程とは違う人物だった。それにその男には見覚えもあったんだ。それが余計にショックを増大させた。もう俺のHPは一瞬で残り僅かだよ。勘弁してくれ。



「悟。この男って胡桃の友人の美咲ちゃんの彼氏だよな?」


「だと思う。俺も半信半疑だったから、(たくみ)には言えなかったんだ。だから康太は俺に相談してきたんだよ。でも昨日の光景を見て、流石にお前に黙っておくことができなかった」


「いや。何も知らないままの方が嫌だったよ。言いづらい事を教えてくれてありがとな。はぁ。マジかよ。俺どうすりゃいいんだ? このまま見なかった事に......なんて出来るわけないか」


「すまん。実は明日、美咲ちゃんに話を聞く事になってる。勝手に動いてしまったが、俺も胡桃ちゃんに腹が立ってるんだ。許してくれ」


「そうなのか? 俺もその場へ行っても良いかな? 俺もこのままじゃ頭が変になりそうだし」



 悟によれば美咲ちゃんと会うのはお昼と言う事だったから、俺は次の日に出勤して直ぐに半休を会社に申し出た。いきなりの事で同僚に迷惑をかける事になってしまったが、俺にとっては人生の一大事。何度も上司に頭を下げて、なんとか許可を取る事が出来た。家庭の事情って事にしたよ。昼なら胡桃に怪しまれる事も無いしな。


 そして悟と合流し待ち合わせ場所である喫茶店へ向かった。到着すると既に美咲ちゃんは来ていたが、俺の姿を確認してすごい驚いていた。



「え⁉ なんで巧君までいるの⁉ 一体何事よ⁉」


「ごめん。俺が悟に無理を言ってさ。急遽参加させてもらったんだよ」


「そうなの? まぁそれは良いんだけどさ。悟君と二人っきりとか、彼氏に良い顔されないし」


「すまん。そこまで頭が回ってなかった。結果オ-ライだな。巧様さまだよ」


 

 悟のそんな言葉でその場の空気が和らぐ。でもここからが本番の俺達は、かなり緊張した顔だったと思う。それで適当なタイミングで直球を投げたんだよ。これを見てくれってさ。そしたら美咲ちゃんは例の写真を見て絶句。そのまま泣き出してしまったんだ。だから俺と悟で宥めるのに必死だったよ。


 15分ぐらいしてやっと美咲ちゃんが落ち着き、冷静に話が出来るようになったんだ。



「あはは。実は前々から何かおかしいって思ってたのよ。急に連絡が取れない日があってね。今思えばその愚痴を胡桃に言おうとしたら、繋がらない事があったわ。そりゃあ一緒に居たら電話も取れないよね」


「そう......なのか。俺は最近仕事も忙しかったし、これを見せられるまで何も気が付かなかったよ」


「巧君頑張ってたもんね。ごめんね。うちの彼氏のせいで」


「こっちもゴメン。辛いのは美咲ちゃんも一緒だしな。それに実はこれだけじゃ無いんだわ。こっちも見てくれるか?」


「え⁉ これってアイツじゃん! まさかコイツとも繋がってるなんて嘘でしょ⁉」


 

 どうやら悟が見た男の事も知っているそうだから、俺は美咲ちゃんに詳しく聞いたんだ。もう1人の男は短大時代に合コンで出会った男らしい。まぁ今更だが、胡桃が合コンに参加していた事も俺の胸を抉ったんだけどな。そんな事聞いた事も無かったし。もう俺の見ていた胡桃は何だったんだ? って話だよね。


 当時から胡桃は写真の男からしつこく言い寄られていたらしいが、その時は彼氏が居るって断っていたらしい。だから美咲ちゃんも心配はしていなかったそうだ。なので美咲ちゃんとしても、今回の事にとても驚いていたんだよ。その話の後は、これからどうするかって話になった。美咲ちゃんは彼氏を許す気が無いらしく、もう分れると言っていたけどな。じゃあ俺もって言う答えにはならなかった。だって結婚する為に、今まで頑張って来たんだぜ? 浮気したからもう終わりにしようって、直ぐに結論が出せなかったんだよ。


 その俺の考えについては、悟も美咲ちゃんも理解してくれた。俺と胡桃の事を一番知っているからさ。だから一緒になって怒ってくれたけど、最終的な結論は俺が出すしかないんだ。そんな俺に二人は、協力を惜しまないと言ってくれたんだよ。



「巧君。チョット動くのは待って欲しい。私に少し考えがあるの。だからもう少しだけ我慢して」


 

 美咲ちゃんは表情を改めて、俺にそんなことを言ってくれた。だから何とも言えない気持ちの俺も、連絡があるまで平静を装う事にした。でもその間、胡桃の顔を見るのが辛かったから、残業があると言ってしばらく会わない事にしたんだ。胡桃からは文句が出たけど、その度に怒鳴りそうになるのを堪えるのもしんどかったよ。


 その日から一週間が経った頃、俺は再び美咲ちゃんと会う事になった。この日は康太も都合が付いた様で、4人で集まったんだけどな。そこで新たな情報を得た俺は、意を決して動き出す事にしたんだ。





◇◇◇





 翌週の日曜日。俺は事前に胡桃の両親と俺の両親に話があるから実家に集まって欲しい事を伝えた。勿論胡桃にも話したが、何を勘違いしたのか? 


「いよいよなのね!」


 とか無駄に喜んでいたんだけどな。もうその時の俺は、だいぶ気持ちが冷めていたと思う。そして俺の実家に集まったんだが、取り敢えずは俺の近況などの報告をしながら食事をしたんだ。それが終わり、とうとう胡桃に事実を突きつける事になる。



「今日はお忙しい中、集まって頂いてありがとうございます。今日は皆さんにご報告があるんです」


「巧君。何なの改まって? 結婚の話なら、わざわざ集めなくても良かったのよ」


 俺の言葉にそんな反応を見せる胡桃のお母さん。それには返事をせずに俺は続ける。



「胡桃さんとの結婚の話は、無かった事にしたいんです」


「はぁ⁉ 巧⁉ 嘘よね⁉ 何言ってるの⁉」


 俺の言葉に胡桃が激昂する。それでも俺は表情を崩さずに冷静に話す。一体どの口がそんな事を言っているんだよ? 怒りたいのも泣きたいのもこっちだと言うのに。


「じゃあ胡桃。これについて、どう言う事なのか教えてくれよ」


 俺はそう言って例の写真を拡大コピ-した物をその場へ出した。(いぶか)し気にその写真を手に取る俺の両親と胡桃の両親。先程まで激昂していた胡桃も、その写真を見て顔色を変える。赤から青に変わっていく胡桃を見て、改めて事実なんだと実感したよ。ああ。本当に事実なんだよな。これって。


「胡桃⁉ アンタ何してるの! どう言う事か早く説明しなさい!」


「こ、こんなの合成写真よ! って言うか盗撮じゃない! 犯罪だよ!」


「巧君。これは事実なのか? この写真だけでは真実かどうか分からないんじゃないか?」


 胡桃に対して激しく詰問する胡桃の母親。再び怒り出す胡桃。胡桃の父親は俺に怪訝そうな顔で、そんな問いかけをしてくる。まぁこれだけでは胡桃が否定すれば、誤魔化す事も出来るだろうな。俺もそんなことぐらいは分かっていた。だから俺はその問いかけには答えずに、携帯を取り出して電話をする。


「すまん。頼めるか?」


ピンポ-ン。


 5分程経って家のチャイムが鳴らされる。俺はその場に皆を残し、出迎えの為に玄関へ向かった。そして家に来た悟たちを引き連れて、再び皆の居る居間へ戻る。ゾロゾロと人を引き連れて入ってくる俺を、両親たちが不思議そうに見ていたよ。だが胡桃の反応だけは違っていた。


「な、何で⁉ み、美咲まで⁉」


「お待たせしました。胡桃は何も話さないから、当事者に来てもらったよ。さぁどう言う事か説明して貰おうか」


「も、申し訳ございません!」 「す、すみませんでした!」


 居間へ入って直ぐ土下座をする二人の男。そう。例の写真に写っていた男達だ。それを連れて来たのは悟と康太。それに()彼女である美咲ちゃんも一緒だ。彼女は事実が判明した後、彼氏に事の次第を突きつけ事実を確認したんだ。そして直ぐに別れたんだが、その時に俺の実家へ来てしっかりと事実を話す事を約束させたんだ。それだけじゃない。短大時代の友人にも連絡を取り、もう1人の男の所在も突き止めたんだ。そして捕獲には悟と康太が向かってくれたんだよ。本当に彼らには頭が上がらない。


 この後、二人の男から事の次第を吐き出させた事で、俺の両親、胡桃の両親、そして当事者である胡桃も事実を認めるしか無かった。もうね。泣き叫んだりしてさ。かなり抵抗されたんだけどな。でもそこで胡桃が言った言葉で、俺ははっきりと再構築を諦めた。もう今日までの想いが一気に冷めたんだよ。


「巧が相手にしてくれなくて、寂しかったのよ!」


 とかは、まだマシなほうでさ。


「結婚前のただの遊びだから、本気じゃないから! それぐらい許してよ!」


 って言葉を聞いた時に、思わず殴りそうになったよ。まぁ胡桃のお母さんがおもいっきり引っぱたいてたから、俺が動く事は無かったけどな。結局胡桃からは明確な謝罪は無いまま、俺達の結婚は無かったことになったよ。結納もまだだったし、慰謝料なども請求しなかったけどさ。相手の男達には腹も立って居たけど、俺に出来る事は何も無かった。もうただただ空しいだけだったよ。


 美咲ちゃんに対しても謝りもしなかったから、胡桃に対してその場で絶交宣言してた。俺はその事もショックだったよ。どこまで自分勝手な女なんだよってさ。俺は一体胡桃の何を見ていたのかも分からなくなった。


 でもこの話が終わってからも、胡桃からのメ-ルや電話は連日続いたんだ。俺はもう話す気も無かったから、その全てを無視していたんだけどさ。だけど仕事中に掛った知らない番号からの電話に出たら、俺も知っている胡桃の友人だったんだよ。電話口で俺を(なじ)るその友人の話を聞いて、俺もこの件で初めて激昂したよ。


「少しぐらいの浮気が許せないなんて、本当に小さな男だよね。女が少し遊んだぐらいでグダグダ言うな! そんなんだから浮気されるんだよ!」


 なんて言われたもんだから、俺も反射的に怒鳴り返してたよ。そんな身勝手な遊びを正当化するなってさ。俺がどんな気持ちでこれまで過ごして来たのかも知らない癖に! って言う気持ちが大きかったし。でも仕事中だったから、後で上司から愛のお説教を受けたけどな。


 そんな精神的にもボロボロな時期に俺の話を聞いてくれたのが、今の彼女である真奈美だったんだ。同期入社と言う事で気安い関係だったし、同じ仕事をしているから愚痴も気兼ねなく言えたんだ。だから仕事終わりに飲みに行ったりしているうちに、お互いが好意を持つまでそれほど時間は掛からなかった。


 それでも胡桃と別れてから1年近くは、そんな気持ちにもならなかったけどな。気づいたら一緒に居る時間が普通になって、自然とそう言う気持ちへ移っていったんだよ。未だにトラウマを克服するまでに至ってないけど。こればっかりは直ぐに癒えそうもない。


 悟に言わせればNTR属性? なんて言う言葉もあるそうだが、俺にはそんな高尚な性癖は持ち合わせていない様だ。それでも出来るだけ早く真奈美を幸せに出来るように頑張ろうと思う。今度こそ本当の幸せを得る為に......。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相手の良心を信頼して付き合ったり、結婚したりするのに、こんなことになったら心が壊れるのも当然ですよね。 (ーωー)
[良い点] 良かったぁ。 タイトルから今カノも寝取られるのかと思った(笑
[一言] >少しぐらいの浮気が許せないなんて、本当に小さな男だよね 所謂「類は友を呼ぶ」ってやつだね こういう奴に限って男が浮気したらガチギレするんだよ
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