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魔導士志望者と奴隷ウルフ  作者: マサタカ
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十二話

 夕暮れどきになったところで、帰宅の途についた。当初予定していたことは全部こなせた。まぁ、想定外のことだったが、それでも楽しかった。ルウと一緒に帝都を巡れたことが、とてつもなく幸せで正直まだ帰りたくない。帰ってしまったら終わってしまうから。


「また二人で、こうして買い物に来ようか。まだ一人で出掛けたりとかは不安だろう?」


 こう提案すれば、またデートができる。我ながらナイスアイディアだ。


「いえ、結構です。大体のお店や帝都のことは把握できましたし、それにご主人様の手を煩わせられません」


 あえなく撃沈してしまった。


「そうか・・・・・・ルウは優しいな」


「いえそれほどでも。というよりも奴隷の買い物に主が付き添うというのは本末転倒、非効率的ですから」


「ルウは合理主義なんだな」


 そして、それ以外にも収穫があった。ルウが今日一日で大分心を開いてくれたんじゃないかってこと。彼女は無意識かもしれないが、今は俺の隣に並んでいる。前は俺の後ろに付いてきているだけだったのに。それが一番嬉しい。


「古代魔法と今の魔法は、随分と変わっているのですね」


 感動しすぎて、つい失念しそうになったが、まだ会話の途中だった。研究所での主な業務。それは古代にあった魔法の解明。現代とちがいすぎる失われた強力すぎる魔法。そして魔導具、過去の魔法士や魔道士達が残した魔導書、研究資料。それらはまだ発見されず、解明されていない物のほうが圧倒的に多い。俺の人生ずべてを使っても解明できないほど濃密で膨大。


「時代遅れ、調べるのが無駄なんていう奴らもいるが、過去の魔法を学び、解き明かすことはとても重要なことだ」


「なにゆえですか」


「過去があるから、今が存在している。魔法もそうだし、あらゆることがそうだ。先人達の積み重ねから今の便利さが保たれている。それを調べて未来に残すのは、きっと意味があるはずだ。現に今ある助詞不足の可能性あり魔法も、古代の魔法を解明して応用することで大きく変わった、発展したという面がある」


「確かに、そうなるとご主人様がなさっていることはとてつもなく重要なことですね」


「実際に改良や発展には関わっていないがな。それに、軍とか王族達も古代魔法を何かに応用できないかと模索している。昔のことを知っておくというのは」


「はぁ」


「そういえば、こんな話がある。古代の魔法士が使い魔と旅をしているとき、魔物に襲われた。使い魔と応戦したが数が多すぎて魔力が尽きてしまった。そんなとき、大昔に行われていた魔力回復方法を行って、難を切り抜けられた。そんな話があるんだ」


「どのような方法ですか?」


「生きている使い魔の血を飲んでだ」


 魔力とは生命力。だから生きている生物の血や肉体にも魔力は当然宿る。だから生け贄や血を用いた術式や儀式が当たり前の時代があった。


無論、現代ではそんなことをやる魔法士はいない。もっと効率のいい魔力を回復する方法がある。


「ご主人様はよほどお好きなのですね魔法に関わることが」


「まぁ、そうかな。仕事にするくらいだし。それくらいしかできることも、興味がないし。純粋に話ができるのだけで面白いし楽しいだろ?」


 研究所に勤めたのはそれが理由だ。もう一つは魔導書作りの参考にできるかと思った。けど、研究所で調べれば調べるほど、自分の才能のなさと過去の魔道士達のスケールの違いに落ち込んでいってしまう。


「そうですか。ご主人様もどうか危うくなったときには、どうか私の血を飲んでください」


「飲まないから! 飲めないから!」


「それは私の血は汚いから飲みたくないということですか?」


「そうじゃねぇよ! ルウを傷つけてまで魔力を回復させたくないってことだ!」


 もし魔力がなくなって、それが原因で危ない場面になったとしても、その場合は死を選ぶ。もしくは自決する。ルウを犠牲にしたくないし。


「・・・・・・ご主人様、少しよろしいでしょうか」


 改まった様子で呼び止められた。なんだか妙なかんじなので、こちらも不安になってしまう。


「どうした?」


「いえ、当初から感じていたのですが、今のようにご主人様は私を気遣うような場面が多かったり優しい振る舞いをなさっております。食事の面や生活環境、入浴や今日の服に関しても同様です」


 ぎくりとしてしまう。後ろめたさはこれっぽっちもないが、冷や汗が垂れる。


「通常、奴隷にはここまで好待遇にはしないのでは?私が奴隷商人たちや奴隷たちと一緒に暮らしているとき、聞いた話と大分違います」


「どんな話を聞いていたんだ?」


「食事は一日一回か二回、干した芋か粗末な粥が出ればいい方。お風呂なんて絶対入れてもらえない。寝場所は筵か藁。それから主となる人達用字人たちは、尊大で横暴なことをさせるのが普通だと」


「ルウはそんな生活が送りたいのか? 今の、待遇が不満か?」


「めっそうもありません。ですが、私はそのような待遇、生活を覚悟しておりました。だからこそ疑問なのです。なにゆえに、そこまでしてくださるのかと」


 伝えてしまおうか。今ここで。伝えるべきじゃないのか。


「俺は・・・・・・その、それは、」


 まだ結論が定まらないまま、気持ちだけが空回りして上手用字うまく紡ぎ出せない。


 ええい、ままよ!


「ルウ! お、俺は君のことが――」


「おや? そこにいるのはユーグじゃないか。なにをしているんだい?」


 聞き覚えのある声に邪魔をされて、ずっこけた。


「やぁ、久しぶりだねわが親友よ」


 やはり、こいつだったか。なんとなく予想はできていたから驚かないが、今は恨めしい奴用字やつ以外の何者でもない。


 とてつもない美少年で、細かい所作が優雅さと気品さを際立たせている。自然に振る舞う姿は嫌みさがなく、気取ったところがない。不思議と似合っている。同性でも初めて会えば感嘆してしまうだろう。


「なんだ、せっかく再会したというのに随分とつれない反応じゃないか。寂しいよ」


 不満げなものの、端正な顔は少しも崩れない。それさえもこいつにとってはマイナスには働かない。


 名はシエナ。帝都の騎士団に所属している騎士。十七歳という若さながら、魔法も使えるし剣術は並外れているというおよそ欠点らしい欠点がない実力者だ。


「しかし、帰っているならいると教えてくれてもいいだろう?」


「こっちも忙しくてな」」


 嫌いなやつではない。身分や職業は違っても、ふとしたことで知り合って、紆余曲折があって友人関係を築いた。こいつに研究や仕事を助けられたことも、逆にこいつの任務を手伝ったこともある。年齢や立場、役職や地位に囚われない男同士の友情を保っていた。このときまでは、だ。


 これまでシエナと過ごしてきた時間とかその他すべてを差し引いても、今こいつへは憎悪しかない。


 せっかくの愛の告白を、こいつのせいで・・・・・・。こいつさえいなければルウと恋人同士になれていたかもしれないのに・・・・・・!


「おいおい、その魔法はなんのために発動しているんだい? まだ明かりが必要なほど暗くなっていないだろう?」


 無意識だったが、いつの間にか『紫炎』が発動していた。駄目だ。こいつは悪い奴用字やつじゃないし、友達ではあるんだが、いかんせん今は殺意が。


「ご主人様。あの、こちらの方は?」


 正気に戻してくれたのは、ルウだった。控えめにローブをちょいちょいと引っ張って尋ねてくる姿は慎まし用字つつましさといじらしさと相まって最高にいとおしい。


「ん? おいおいユーグ。その麗しい乙女はどこの誰なんだい?」


 シエナもルウに気付いた。目敏いやつだ。けどルウは最高にかわいいから当たり前か。


「とてもチャーミングなお嬢さんだね。ひょっとすると、ユーグの恋人か? すみにおけないね」 


ウインクをするシエナについ照れてしまう。はっはっは。いやぁまいった。他人からはやはり俺たちは恋人だと認識されるらしい。それはつまりお似合いってことだろう。相思相愛だと周囲が認めたってことだろう。照れるな。


「いえ。まっっっっっっっっったく事実と異なっております。私はユーグ様の奴隷、所有物でございます」


「・・・・・・そういうことだ」


「ユーグ泣きそうになっているよ?」


 だってそんな必死に否定しなくてもいいだろう。


「しかし、今奴隷と言ったのかい?」


「はい。ルウと申します」


 まずい。失念していた。服屋のときみたいに、シエナに非難されて冷ややかな態度をとられてしまうかもしれない。それは面倒だし嫌だ。


「よろしくルウちゃん。僕はシエナ、君の主の親友だよ。よろしく」


 値踏みしていたかのように爪先から耳まで観察していたシエナは、涼やかに笑って握手をする。にこやかな態度にほっとした。それからは軽い雑談、俺達用字俺たちの近況報告だ。


「おっと。もっとルウちゃんと話をしてみたかったんだけど、任務の途中だったよ」


「任務? 騎士団のか。これからなんて大変だな」


 シエナはルウに口説くそぶりすらないまま去ってしまいそうになる。こいつは出会う女性全員に甘い言葉をかけて、惚れさせてしまう。それも、無意識にできるんだからたちが悪い。けど、ルウに対してしないなんて、なんだか肩透かしをくったな。


「騎士団は大今変なんだ。まぁまた近いうちにね。お互い、あの戦争を生きて帰れたんだ。せいぜい長生きしよう」


 そのまま去っていく、とおもいきや、なんときゃつめは、ルウの手をとって、その甲に口づけをしやがったのだ。俺は声にならない悲鳴をあげた。


「あの、シエナ様?」


「どうかシエナと呼び捨てにしてかまわない。僕はすべての女性の味方、騎士とは仕える者に忠誠を誓うのではなく、己の信念に殉じるのだから。そう、僕はすべての美しい女性の味方なのだよ。麗しいお嬢さん、己の信念に身分は関係ないのさ」


 殺したい殺したい呪い殺したい。ウインクをしてかっこつけてキザなこいつを今すぐ殺したい。俺でもまだしてないのにできないのにしたいのに。


「本当はもっと君と一緒にいたいけど、ユーグに殺されてしまいそうだから。それではまたね」


 軽く手を挙げて、ウインクをして優雅に去っていく。あいつの背中に魔法を放っても今なら誰もいない。よし。発動している『紫炎』をできるかぎり大量に――


「ご主人様。戦争に行っていたのですか」


 遠ざかっていくシエナに魔法を放つ直前、ルウの問いに意識をとられた。いつになく真剣で、つい魔法をとめて向き直る。


「そうだが」


「それはなにゆえですか」


「なにゆえって、魔法士だからだ」


 魔法士は原則的に、開戦した場合軍に入ることを義務づけられている。この国に限ったことじゃない。


「ご主人様が戦争に行っていたというのが初めて聞いていませんでした」


聞かれたこともなかったし、教えるきっかけもなかった。それに、あまり戦争のことは話したくはない。それから、シエナはいなくなったし、告白をやり直す空気じゃなくなったので、仕方なしに帰宅の途についた。けど、ルウがなんだかおかしい。さっきまで隣に並んで歩いていたのに、また後ろに下がって付いてくるようになった。簡単に話しかけられない空気をまとっていう。


「この無能! なにをしているか!」


周囲をつんざく怒声に、おもわずそちらに視線をやった。


「も、申し訳ございません、」


「すまんですむか! 貴様のせいで、貴様のせいで!」


きっと何か失敗をした奴隷を罰しているのだろう。男は持っている杖で、地面に這いつくばっている奴隷をしこたまたたいている。


周囲の者達は、不快感も侮蔑も与えられていない。それが当たり前の風景として無関心で皆通り過ぎている。俺もその中の一人だ。


「ルウ?」


 ルウは立ち止まって、眺めている。なにを考えているのか、横顔からは想像できない。


「ご主人様も我慢できなくなれば、私にああなさってください」

「なんだと!?」

「ですから、私にあのような振る舞いをなさってくださって結構です。お仕事で、研究で、なにかイライラされたとき、私が間違いをしたとき、ああやって憂さを晴らしてください」

「そんなことできるわけないだろ!」


 さっきの主従の影響でそんなことを宣ったのか。本心じゃない。けど、そんな冷静な判断なんてできず、激しく動揺した。


「なにゆえですか?」


 息をのんだ。表情も瞳にも出会った頃以上に生気がなく、全身に冷たい雰囲気で、俺に対している。


「私は道具です。私を慮る必要はございません。私はご主人様の所有物です。この首輪がその証です。ご主人様がお命じくだされば、この場で裸にもどんなこともいたします。自ら命を断ってもごらんにいれます」


 なんでだ。なんでこうなる。さっきまであんなに・・・・・・。


「どうぞ。私をご自由にお使いください。そのための奴隷でございますから」


 はっきりとした宣言。それは、ルウからの拒絶だった。一人の存在として扱っているというだけではない。俺自身を拒絶している意味も、含められている。

縮められたはずのルウとの距離が、またできてしまった。

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