第79話、【PV1000記念】これぞ真の『外れスキル』だ⁉(実例編)
──今日は、僕の15歳の誕生日だ。
これでこの(ファンタジー異)世界においては、立派な成人になれたわけだ。
さあ、今すぐ神殿へ、大人になった証しである、個人別の『スキル』をもらいに行こう!
もしも就職に有利なスキルだったら、毎日毎日、限定50個のサンドウィッチを作らなければならないという、実家のパン屋の手伝いから解放されるぞ!
そのように意気込んで、神殿へと乗り込んだ僕に対して、神官様の宣った『御神託』はと言うと──
「おめでとう、そなたのスキルは、レア中のレアのURスキルの、『予言』じゃ」
………………………………は?
「よ、予言? そ、それに、URスキルって……」
「SSRよりも更にレアな、真のレアじゃ。何せ現在この世に、たった一人しか持ち得ないスキルじゃからな」
「ええっ、それって、『ユニークスキル』のことですか⁉」
「うう〜ん、厳密には違うけどな、『予言スキルを有するのが、どの時点においてもたった一人だけ』という意味では、似たようなものかのう」
──す、すごい。
この世に僕しか持っておらず、しかも『予言』スキルなんて!
「やった、やった、これでもう家業の、サンドウィッチ一日限定50個作りから、解放されるぞ!」
「ははは、サンドウィッチ作りどころか、そなたを教祖にして、新たな宗教を起こすことだって、十分に可能だぞ?」
「そうですよねえ、何と言っても『予言』スキルなんですし、そもそもほとんどの宗教団体は、その教祖が『予言者』だったという、パターンが多いですからねえ」
「然り、然り」
「「あはははははは!」」
そのようにお互いに朗らかに笑い合った後で、僕は肝心なことに気づいて、神官様へと問いかけた。
「あ、そうだ、その予言スキルって、どうやって発動すればいいんですか?」
「おお、そうじゃった、まずはこれを頭に着けてみてくれ」
「えっ、それって……」
気がつけば、神官様のすぐ斜め後ろで一人のシスターさんが、金属製のシンプルな輪っか状の『冠』を、捧げ持って立っていた。
「……これって、東エイジア大陸の、猿のモンスターが嵌めていたやつに、似ていますね?」
ええと確か、『西遊記』とか言う物語に出てくる、『緊箍児』だっけ?
一体いつの間に、用意したんだろう?
何かシスターさんてば、澄まして微笑んでいながらも、すっごく汗だくになられているんですけど。
僕のスキルが『予言』だとわかってから、慌てて取りに行ったのかな?
「……それって、そんなに、重要なものなんですか?」
「そうじゃ、何せ慣れないうちはこれを着けておかないと、ちゃんとスキルを発動することができないのじゃからな」
「えっ、それがないと、予言スキルを使えないんですか⁉」
「なあに、最初のうちだけじゃよ、いわゆる『自転車の補助輪』みたいなものじゃ。とにかく、試しに着けてみなさい」
「はあ…………わわっ、な、何だ⁉」
この金の輪っか、頭に嵌めた途端、何かクラッときたぞ?
「ほほほ、そのめまいのようなものこそが、輪っかとそなたとの間で、魔導力の循環が開始された証拠じゃよ。これで予言スキルは、実行可能となったわけじゃ」
「え、でも、頭の中に、何も浮かんではきませんけど?」
「そりゃそうじゃ、予言スキルは、『質問されたことに答える』形で行われるのじゃからな」
「ああ、なるほど」
いわゆる『お告げ』とか『神託』とかと、呼ばれているやつみたいなものか。
「試しに、わしが質問してやろう、頭の中で『ぽくぽくぽく、チーン』と、木魚と鐘の鳴る音がするから、気をつけておきなさい」
何その、『一○さん』モドキ?
「いいか、いくぞ?」
「は、はい、どうぞ!」
「──我が神殿教団の栄光は、一体いつまで続くかのう? 信者からの信仰を失い、没落してしまうのは、果たして、何千何百年後かな? それとも、もっと近い将来かな?」
………………………………え?
し、神殿そのものの、没落の未来について訊くなんて、何でそんな大それたことを、いきなり『試し』に使うんだよ⁉
下手な予言をしようものなら、どんな目に遭わされるか、わかったもんじゃないだろうが⁉
……あれ? それにしても──
「どうしたね、早く答えてくれないか?」
「そ、それが、いつまでたっても、『チーン』とか『ピンポーン』とか、全然鳴らないんですけど?」
「そうかそうか、それは重畳♫」
「へ?」
「実はその輪っかはね、スキルの発動を完全に抑え込むための、『アンチ魔導力拘束具』なんじゃよ」
「な、何ですってえ⁉ どうして、そんなものを──あ、あれ、外れないぞ、これ⁉」
「無駄じゃ無駄じゃ、その輪っか自体に呪術がかけられておるのじゃから、一生外すことはできぬよ」
「一生って、そんな⁉」
あたかも悲鳴のような大声を上げながら詰め寄ろうとしたところ、いきなり肩を掴まれて押しとどめられた。
──気がつけば、僕の周囲を、十数名の屈強なる僧兵たちが、武器を携えて取り囲んでいた。
もはや完全に茫然自失となってしまった僕に向かって、哀れみの目つきとなって語りかける神官様。
「そなたは、運がなかったのじゃ。予言なぞといった、『外れスキル』を引いてしまうなんてのう」
え。
予言が、外れスキル、だって?
「……まったく、神様も罪作りなことをしなさる、たかが一個人に、『予言』とか『読心』とか『時間操作』とか『運命改変』とかいった、人智を超えたURスキルを与えてしまうなんて。そのような使い方次第では、我々教団どころか国家の運命すらも左右しかねない『チートスキル』を、一個人が持つようになれば、天下に大乱を招くばかりではないか。──よって我が教団は、全人民が『成人の儀』においてスキルを授かる際に、『予言』とか『読心』とか『時間操作』とか『運命改変』とかいった、『外れスキル』を発現した者がいた場合には、必ずアンチ魔導力拘束具を装着させて、一生神殿内に幽閉することにしておるのじゃ」
「一生って、僕は死ぬまで、ここから出られないんですか⁉」
「当然じゃ、考え無しの三流Web小説でもあるまいし、世界そのものをひっくり返しかねない、文字通りの『反則級の力』を持った者なぞを、野放しにする為政者なぞいるものか。この世に外れスキルを持っている者が、それぞれ一人しかいないのも、現在スキルを持っている者が死なない限りは、新たなスキル持ちが現れないようになっているからなのじゃ」
「じゃ、じゃあ、僕の前にこの輪っかで拘束されて、神殿内に閉じ込められていた、予言スキルの持ち主って──」
「ああ、その者が死んだからこそ、そなたに予言スキルが宿ることになり、我らは新たなるスキル発現者が現れるのを、今か今かと準備万端整えて待ち続けて、こうして何の問題も無く、そなたのことを無力化して拘束できたというわけなのじゃよ。──まあ、あくまでもそなたにとっては、理不尽極まりない話であろうが、恨むんだったら、この世界における全人類において、数十億分の一の確率で、ハズレスキルを受け継ぐことになってしまった、己の不運を恨むことじゃな」




