第40話、第444条【秘匿条項】死者の復活。
【厳重注意】まず大前提として、この条文自体を絶対的に秘匿すること。
※何せ、現代日本からの『異世界転生』を実現できる立場にいる者なら、この事実を知るだけで、『死者の復活』という、『最大級の禁忌事項』を実行できるようになってしまうからである。
すでに各条文において幾度も述べている通り、『異世界転生』とは実のところは、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってきていると言われる、全人類的超自我領域『集合的無意識』とアクセスすることによって、特定の現代日本人の『記憶と知識』が己の脳みそに刷り込まれることで、それを『前世の記憶』だと思い込み、事実上『現代日本からの転生者』として言動していくことなのであるが、
この特定の人物の『記憶と知識』は、何も現代日本等の別の世界に限らず、『転生』を受け容れる人物と同じ世界の人物の『記憶と知識』でも構わないのであり、
更には『ありとあらゆる時代のありとあらゆる存在』と言うことは、『すでに過去の人物となった者』──すなわち、『死者』の『記憶と知識』だって存在しているのだからして、
『異世界転生と同じ仕組み』を利用することで、この世界で死んだ人間を、別の肉体を使って、甦らせることができるわけなのだ。
……考えてみれば、『転生』とは文字通り『生まれ変わり』や『甦り』のことであり、実際現代日本のWeb小説における『異世界転生』についてもそのほとんどが、トラック事故等によっていったん死んでしまった後で異世界に『転生』するといった展開が一般的であり、『異世界転生』をも含めて一般的に『転生』とは、『死者の復活』を意味すると言っても過言ではないだろう。
そういった意味では、せっかく活用できるというのなら、異世界『転生』の仕組みを使って、この世界の死者を(擬似的に)甦らせようと考えるのも自然な流れだし、むしろ異世界転生なんかよりも、多大なるニーズが見込まれた。
──だがしかし、我が『転生法』においては、異世界転生の仕組みを使って、この世界の死者を甦らせることを、『最大級の禁忌事項』に指定し、すでに冒頭で記したように、この条文自体を絶対的に秘匿することにしていたのだ。
【理由】
・『死者の復活』などといったものは、『異世界転生』における『勇者の召喚』相当の特別の理由が無い限りは、人々の倫理観や宗教観に著しく反する、禁忌の所行と言わざるを得ない。
・『死者の復活』がビジネス化することにより、金持ちによる安易な『死者の復活』が横行する怖れがある。
・死者を甦らせるには当然、『死者の記憶や知識』を受け容れる人間が必要となるのだが、上記のようなビジネスが常態化すれば、金持ちによる『人身売買』等が行われる怖れがある。
【特記】(※一定以上の権限の無い者は閲覧禁止)
『転生法』の執行者たる、聖レーン転生教団の異端審問部の報告によると、死者本人の身体になにがしかの手を加えて、生前同様に『生きた状態』とし、これに『現代日本からの転生者の記憶と知識』をインストールすることで、一応外見上においては『死者の復活』を成し遂げた、個人的研究者がいるそうである。
これが事実だとすると、上に挙げた【問題点】についてはほぼ解決するものの、とても看過できない新たなる問題も生じており、やはり禁忌の所行として、厳に禁止すべきであろう。
・何と言っても『死体』を転生の受け皿にするので、心身共に何らかの不具合があることが危惧される。
・特にすでに脳細胞の大多数が損なわれてしまっている場合は、いくら脳みそに『現代日本人の記憶や知識』をインストールしようが、覚醒自体が不可能であろう。
・よってこの場合、『現代日本人の記憶や知識』を無駄遣いするだけで終わってしまい、現代日本からの異世界転生の促進に甚大なる支障が生じる怖れがある。
・そして何よりもこれは、転生法並びにその執行機関である聖レーン転生教団における最大の目標である、この剣と魔法のファンタジーワールドの住人に、科学等が著しく発展している現代日本の住人の『記憶や知識』をインストールすることで、神にも匹敵する新たなる人類、『シン・ジンルイ』の創造を強力に推し進めていくこととは、相容れないものと思われる。




