第33話、ステータスウィンドウ。
異世界転生モノのWeb小説において、これぞ『ゲーム脳』の最たるものと呼び得るものの一つに、『ステータスウィンドウ』がある。
あくまでもゲーム中に、別枠において、自分のアバターや敵キャラの各種パラメータを確認するために設けられているもので、あくまでもゲームを遂行するためのギミックなのであり、このようについ『あくまでも』を重複して使用してしまうほど、「これはゲーム独自の仕様なのであって、現実世界ではこういうことは絶対あり得ないんですよ?」と言っているのに、何で異世界とはいえ『れっきとした現実世界』において、当たり前のように実現しようとするかねえ、『ゲーム脳』Web作家の皆さんは?
……しかも、何も無い空間にいきなり『窓枠』が現れるところも、使われている各種パラメータの単位も、ゲームそのまんまと来ているし、少しはひねりを加えろよ⁉
第一ねえ、生きた人間の各種パラメータが、固定的に数値化できるわけないじゃん?
たぶんさあ、各パラメータの数値が、常時変化し続けていて、読み取ることとかできないと思うよ?
……ほら、ちょっと常識的に考えるだけで、『ステータスウィンドウ』なんて、現実的に絶対実現不可能であることがわかるでしょう?
特にさあ、これもまた『ゲーム脳ギミック』の極みなんだけど、目の前の人物の頭上に、『名前』とか『種族名』とか『レベル』とかその他簡単な情報が表示されるのってよくあるよね?
そりゃあ、ゲームばっかりやっていると、そういうのが当たり前になってしまうんだろうけど、そんなのは川○礫先生の作品みたいに、VRMMOの世界──すなわち、文字通りゲームの世界だけにしておいてね? たとえ異世界といえども、あくまでも『現実世界』である、転生系や転移系の作品の中ではやらないでね?
──どお〜〜〜〜しても、やりたいと言うのなら、本作が常にお手本を示しているみたいに、ちゃんと作者さん自身の頭で考えた、『理由』も明記してください。
……まあ、目の前の人物の頭上の何もない空間に、その人自身の『名前』とか『種族名』とか『レベル』とかが表示されることに対して、本当に論理的に説明ができるとしたらですけどねw
──なあ〜んちゃって、またむやみに敵を作ると思った? 残念でしたあ!
ご存じの通り、我が『転生法』においては、現代日本からの異世界転生を促進することを第一に考えておりますので、転生希望者の方のご要望は、最大限に叶えさせていただくことにしております。
それは当然、この『ステータスウィンドウ』についても、同様なのです。
──それでは、今し方自分自身で、「絶対に実現不可能だ」と言ったことを、どうやって実現するのかというと、あくまでも「何もない空間に情報を文字で表示することなぞ絶対にできない」と言うのなら、簡単なことです、空間に表示しなければいいのです!
すごいですねえ、これぞ『ジャパニーズ・ゼンモンドー』ですねえ。(違う)
──ていうか、むしろ『コロンブスの卵』とでも言うべきもので、空間ではなく、例えば『スマホ』等のデバイスの画面上に表示すればいいんですよ!
一例を挙げれば、中二病なお姉ちゃんにスマホのカメラを向けると、スマホの画面内のお姉ちゃんの画像の頭の上に、『中二病』という文字が浮かび上がって見えるようになる──といった次第であります。
──どうです? 何もない空間に文字が浮かんだりするよりも、よほど現実的でしょ?
もちろん以上に述べた、『ステータスウィンドウ』や頭上での属性表示なんて、普通のスマホでは無理だからして、そこで登場するのが前回ご紹介した、量子魔導スマートフォンと相成るわけなのです。
量子魔導スマートフォンは常時、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってきていると言われている、『集合的無意識』とアクセス状態にあるから、氏名や生年月日や病歴、現在の職業や学籍等々の、『基本的情報』に始まり、何と言っても、すぐ目の前にいる人物の、過去や現在だけではなく未来をも含めて、すべての『記憶や知識』が情報として収集されているのだから、現在大体どういったことを考えているのかといった『読心』を実現したり、将棋の勝負中なら『次の一手』を表示したり、ミステリィ小説そのままの怪事件の最中なら、『犯人』であるのかはたまた『次の被害者』であるのかを明示したりと言うことも、十分可能なのです。
ただし、こういった量子魔導スマホの画面内での、『ステータスウィンドウ』や頭上の文字によるデータは、けして確定的なものではなく、例えば、お姉ちゃんの頭上に『中二病』と表示されたとしても、確固として『中二病』であるわけではなくて、『中二病かも知れない』という、言わば『可能性』を述べているに過ぎないことを、お忘れなく。
なぜなら、現代物理学の中核をなす量子論に則れば、未来というものには無限の可能性があるのだから、いかに量子コンピュータそのものである量子魔導スマホが弾き出した計算結果とはいえ、100%確実に当たるとは限らないのである。
また、そもそもが、人の属性や各種パラメータがずっと一つに固定されているはずがなく、例えばミステリィ小説的事件においては、さっきまで『被害者候補』と記されていた人物が、次に量子魔導スマホで確認したところ、表示が『犯人候補』と成り変わることも、大いにあり得るのだ。
──結局何が言いたいかと言うと、これも異世界系Web小説の作成時と同じことで、量子魔導スマホのデータは、あくまでも『判断材料』のためのデータとして用いるにとどめて、最終的には自分自身の頭で考えなさいってことなんですよ。
 




