第18話、ヴァレンタインデー。
『転生法』第214条。
ヴァレンタインデーなどと言う、何の根拠も無い非倫理的イベントは、全異世界的に、絶対かつ恒久に禁止とする。
【理由】
①カトリック教総本山であるバチカンの公式見解によって、この偽りの異端なる祝祭の発端とされた、『ウァレンティヌス』なる殉教聖人は、カトリック教の正式なる歴史上、その存在を認めることができないとし、当然のことながらヴァレンタインデー自体も、カトリック教の正式な祝祭から除外することを実行済みである。
つまり現代日本等において行われている『ヴァレンタインデー』なるものは、何の根拠もない、単なる製菓メーカーによる衆愚に対する、洗脳的イベントでしかないわけだ。
②つい最近の現代日本における『恵方巻き売れ残り騒動』を顧みるまでもなく、食品が関係するイベントにおいては、食材を大量に無駄にするという、食糧難に苦しむ全異世界中の人々に対しても、そしてそれぞれの惑星規模の環境保全的にも、けして赦されざる非人道的暴挙である。
③すでに形骸化し、本来の目的が忘れ去られ、しかも各製菓メーカーの陰謀により、複雑怪奇な変貌を遂げてしまった現在のヴァレンタインデーは、特に『働く女性』に対して脅迫観念的に、何の愛情も有さない職場の非モテの男どもにまで、チョコレートを与えることを強制させられるという悪しき風習が、そもそもの発祥地の現代日本を始め、その転生者がはびこり始めた各異世界においても、すっかり根付いており、これぞまさにパワハラやセクハラの温床として、今や各異世界において国家政府レベルで規制に乗り出している次第である。
④以上に述べた通りに、現代日本及びに、その転生者の影響の強い各異世界における、『ヴァレンタインデー』などという悪魔のイベントは、現代日本の製菓メーカーが仕組んだ陰謀に過ぎず、各異世界人は、このような洗脳行為に惑わされることなく、厳しく己を律すべきである。
【処罰】
全異世界においては、すでに種族の壁を越えた全男性的に、ヴァレンタインデーの完全禁止を決定しており、これに違反して、ヴァレンタインデーのイベントを強行しようとした製菓メーカーやイベンター、ところ構わずにいちゃついたりして周囲に不快な影響を与えた男女は、すべて『異端者』として認定し、聖レーン転生教団異端審問部第二課により、逮捕拘束拷問の後、火炙りに処す。
「……何だね、これは?」
「はっ、課長殿! 『転生法』のヴァレンタインデーに関する条文に付け加えた、私独自の見解です!」
「馬鹿もん! たとえ『転生法』の執行や各種関係機関との調整に携わる、転生局転生法整備課の課員とえいども、こんな馬鹿げた付則を設ける権限なぞはない! それにそもそも『ヴァレンタインデー』は、そのもの自体はもちろん、これに関わってくる様々なイベントが行われることによって、異世界に更なる振興をもたらし、そしてそれをモデルにしたWeb小説が人気を博すという、我ら転生局にとっても、大いに利益のある記念日だからして、むしろ全局的に盛り上げていくべきだろうが⁉」
「──そんな、だったら非モテの私たちは、毎年2月14日には、華やかな恋人たちだらけの街中から背を向け、じっと自分の部屋の中で、孤独に息を潜めていなければならないとでも言うのですか⁉」
「やかましい、そんなたわけたことを言っている暇があったら、仕事をしろ!」




