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転生法  作者: 881374
17/100

第17話、豊臣秀次。

「──Web小説、サイコー!!!」


 その日、某異世界の、転生局転生法整備課勤務の平課員である私は、思わず感情のままに雄叫びを上げたところ、すぐ近くの席に座っている直属の上司である課長が、すわ何事かと、いかにも訝しげな視線を向けてきた。


「……一体どうしたのかね? ついに激務に耐えかねて、おつむのほうがオーバーヒートしてしまったのなら、構わないから病院にでも行きなさい」


「──激務とわかっているのなら、ちゃんと配慮しろよ⁉ このブラックお役所が!」


 皆さん、公務員なんて給料泥棒の楽勝な仕事だとばかり思っておられるでしょうが、部署によっては『ブラック』以外の何物でもない場合もありますので、就職を希望する場合は、ちゃんと職種等も真剣に選びましょう。


「いえね、『転生法』って、異世界の有り様を、あくまでも現代日本の皆様の希望に添った形に整えることで、現代日本から各異世界への異世界転生の更なる促進を図るものではないですか? そうなると当然、現代日本における異世界転生系のWeb小説の人気作の動向を把握すれば、現代日本人の異世界転生に対する、『ジャンル』別の要望の方向性がある程度把握できるものと思われますので、いろいろと作品を読み込んでいたところ、まさにそのジャンルとしては歴史モノ──特に『戦国転生』に関わる作品で、非常に素晴らしく、これぞ『戦国転生』のお手本と言えるものを発見したのですよ!」


「……また今回は、メタ的な切り口をぶっ込んできたものだな⁉ だったらこっちもメタ的に言わせてもらうと、Web作品における『戦国転生』となると、まさに本作の前回において取り上げた、『織田信長』等の超有名武将をフィーチャーした作品のほうが、読者の共感や安心感を獲得できて、大勢の方たちに受け入れられることはすでに明白なる事実なのであり、今更他に『お手本』なぞあり得るとは思えないんだがな?」


「ええ、基本的にはその『姿勢』で正しいと思いますし、特に各コンテスト応募作なんかは、そういった『戦術』や『戦略』も必要になってくるでしょう。──でもですね、『何物にも囚われない自由さ』だって、Web小説ならではの、最大の魅力の一つとは思われませんか?」


「……うむ、現在のWeb小説界の実情はどうあれ、けして否定できない、『真理』ではあるわな」


「私って、昔から、一般文芸作品のうちの、特に歴史モノのプロの作品に対しては、非常に不満を抱いていたんですよ」


「ほう、そういったジャンルは、いかにも定番モノが好まれると思われるが?」


「それにしても、やり過ぎですよ。馬鹿の一つ覚えみたいに、『坂本龍馬はヒーロー』という固定観念に凝り固まっていて、龍馬を悪役っぽく描いた作品なぞ絶対に認められないなんて、作家にとって最も大切な、『独創性』の否定であり、歴史モノが少なくとも質的に落ち目になっていくばかりなのも、頷けますよ」


「しかしなあ、商業作品は売れなくては話にならんのだ、どうしても大多数の読者の方が望む内容にならざるえないのは、仕方ないのではないか?」


「それにしたって、限度があるでしょう? 個人的にどうしても許せないのが、戦国モノのどの作品を読んでも、『豊臣秀次』を悪役や愚か者として描いたもの以外は、まったく皆無だということです。歴史作家どもに言いたいんだけど、あんたたちはちゃんと、自分の頭を使って小説を書いているのか? ただ単に、先行作品の丸写しをしているんじゃないのか?」


「しかし、歴史モノは何よりもまず、『史実』に基づいて作品を創らなければならないから、どうしても似たようなものばかりになるのも、当然の仕儀だろうが?」


「実は我々が『史実』だと思っていたことが、単なる誤りであったことが判明するのなんて、珍しくもないじゃないですか? 別にそんなあやふやな『史実』なんかに拘泥せずに、作家だったらもっと自由な発想に基づいて、作品づくりを行うべきなんですよ。──それに、たとえ同じ史実によるものであっても、その作者独自の味付けやアレンジによって、これまでにない新機軸の作品づくりをすることなんて、十分可能ですよ」


「……史実を変えないで、まったく新しい作品をつくるだと? 一体どうやって?」


「史実の大筋だけは変えずに、細部に作者オリジナルの要素を加味することで、新たなる解釈を付け加えるわけですよ。豊臣秀次の場合で言えば、秀吉が子宝に恵まれなかったので、関白職を譲り受けることになったけど、秀頼が生まれたために状況が一変して、『関白であることを笠に着て、むやみに人を殺したり等の、無理無体な所行を働いてきた、()()関白』としての悪評を立てられ、挙げ句の果てには秀吉に対する謀反を企てたという濡れ衣まで着せられて、妻や幼い子供たちを含めて処刑されてしまったという、基本的な大筋だけは踏まえておいて、それ以外については、勝手にエピソードを付け加えたり、場合によっては主要登場人物である歴史的著名人を、独特な性格設定にしたりすることで、いくらでもオリジナリティ豊かな作品を創れるのですよ」


「例えば、どんな?」


「いきなりメタ的なことを言って恐縮ですけど、実はこの作品の作者自身、過去に『リストラ関白』というふざけたタイトルの、秀次を主人公にした作品を作成して、某歴史小説のコンテストに応募したことがあるんですが、その内容はと言うと、秀次が秀吉によって関白をリストラされそうになった時、何と当時のナンバーツー武将であり、豊臣一族全体にとっての『仮想敵』でもあるところの、徳川家康に助けを求めたんですよ。もちろん徳川の重臣たちは最初のうちはまったく相手にしなかったんですが、驚いたことに秀次が提示した『交換条件』というのが、『私の味方になってくださるのなら、朝廷に家康殿を征夷大将軍になれるように推薦いたします』というものだったのです」


「はあ? そんな史実あったっけ?」


「ありませんよ、作者自身のオリジナル設定です。しかし、豊臣家は家柄の関係上、自分自身では将軍になれませんが、何といっても関白であるから、他人を将軍に推薦することは十分可能で、しかも朝廷としても、関白自らの推薦であり、しかも実力その他全然問題の無い家康が対象であれば、断る理由がまったく無く、もしこれが仮に史実であったとすると、家康が将軍に就任した可能性は、非常に高かったことでしょう」


「ふむ、かなり大胆な手だが、確かに理論上は十分あり得る話だな? もちろん徳川側からしても、大歓迎な提案だったのだろう?」


「それがですねえ、家臣団はすっかり手のひらを返して、秀次の提案にノリノリになってしまったのですが、当の家康自身が断固として断ってしまったんですよ」


「何で、征夷大将軍になれる、大チャンスだっただろうに」


「家康としては、自分も希代の策士であるからこそ、こんな奇作を考えつく秀次こそを、侮りがたい『敵』だと認定してしまったのです。確かに秀吉も手強い敵ですが、彼は年齢的にもう後はないでしょう? それに対してここで秀次に大きな借りを作ってしまえば、たとえ将軍になれたところで、徳川家は未来永劫豊臣家に頭が上がらないことになり、実質上のナンバーワンは、秀次の子孫であり続けることになってしまうわけなのです。だからこそ家康は、秀次の本当の才能を知ることにより、むしろ秀吉の側に付くことを決定し、有力者の後ろ盾を作ることに失敗した秀次のほうは、もはや打つ手も無く処刑されたって次第なのですよ」


「むっ、確かに、作者独自の部分は、とても史実通りとは言えないが、話の大筋としてはちゃんと史実通りであり、オリジナリティを十分に発揮しつつも、歴史小説としてはけして破綻していないよな」


「こういったことが可能なところこそが、商業誌にはない、Web小説ならではの特長なのであって、歴史系のWeb作家の皆様にも、どんどん見習っていただきたいものです」


「こういった作品は、今までなかったわけなのか?」


「いいえ、とんでもない! まさしく『そる』先生の『腕白関白』という超名作がございまして、我が『転生法』の作者とは作風も方向性もまったく違いますが、こちらはこちらでWeb小説ならではの、真に理想的かつ独創的な、豊臣秀次の物語となっております」


「おお、Web小説の歴史モノ──いわゆる『改変歴史』モノも、捨てたものではないな!」




「このように史実に対して、それぞれの作者独自の見解を自由に付け加えることができることこそ、Web小説の最大の特長とも言えますが、実は『転生法』のほうにおきましても、戦国転生こそが、本来見果てぬ夢であったはずの、『歴史上のIF』を実現できる唯一の方法だと見定めて、戦国転生を望む者に対しては、けして史実にこだわることなく、あくまでも自由な発想のもとで、戦国時代を好き放題に改変してしまうくらいの意気で、臨むべきだという方針に基づいて、各条文が設けられておりますので、現代日本人の皆様は、戦国転生を行う場合には、是非ともよろしくお願いいたします!」

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