第10話、始まりの森。
「──というわけで、御領主のお嬢様にはこれからすぐ、領内の外れにある大森林を根城にされている、こちらの野盗の方に襲われていただきます」
「「何でだよ⁉」」
ちわっす、作者の8813…………じゃなかった、毎度お馴染み、某異世界の転生局転生法整備課勤務の、平課員でっす。
いよいよ今回の『第10回ネット小説大賞』も、今週限りとなりました。
果たして本作の作者は締めきり内に、ストック分の約百話を、すべて公開できるのか?
何と、現時点で公開済みなのは、今回も含めていまだ十話のみだったりします。
……あと一週間内で、残り約九十話、だと?
作者の計画性の無さが、如実にうかがえますねw
しかも(別作品の『わたくし、悪役令嬢ですの!』において、しつこく御報告して)ご存じの通り、実家の父親の負傷等もあり、貴重な執筆時間が大幅に削られるという始末。
まるで最凶の使徒に襲撃されてるネ○フのごとく、文字通り絶望的状況ですね♡
……そんな、作者個人の諸事情はともかくとして、ちゃんと本編のほうも進めて参りましょう。
何せ現時点において、時間も公開済み話数も、圧倒的に足りていませんからね♡(自業自得)
「……何でって、私の話を、しっかり聞いておられたのですか? 我が転生局の調査によれば、もうじきあなた方の領内の大森林の中に、現代日本からの転生者が現れることが予測されていているからして、我々異世界側としては、きちんと歓迎セレモニーを催さなければならないのですよ」
そのように私が改めて、『今回のイベント』の趣旨を丁寧に説明し直して差し上げたというのに、目の前の整備課内の応接用ソファに仲良く並んで座っている、領主令嬢と野盗の頭目のお二方は、憮然とした表情を隠そうともしなかった。
「……あのよう、お役人さんよう、あんたら──というか、この場合、現代日本のWeb作家連中か? まあどっちでもいい、ともかくあんたらはよう、俺たちのような野盗や山賊のように、地域に根ざした犯罪集団の在り方とか仁義とかいったものを、全然理解していないんだよ? 俺たちの獲物は基本的に『弱い者』や『よそ者』なのであって、近隣の農村や旅人や小規模の商隊は襲っても、領内の大都市とか護衛が多数いる大商隊とかを襲ったりはしないんだ。もちろん御領主様の関係者を襲うなんて論外で、特に愛娘様をさらったり傷つけたり殺したりしてみろ? 御領主様麾下の正規騎士団全軍をもって討伐に当たられて、最後の一人まで皆殺しにされてしまうぞ?」
「まったく、同感ですわ。そもそも領主息女の私自身が外出する場合、護衛につくのはまさしく正規の騎士団の者であり、その実力のほどは野盗の方なんかとは段違いの精強さを誇り、残念ながら現代日本のWeb小説のように、野盗の方に襲われたくらいで、絶体絶命の大ピンチに陥ることなぞ、万に一つもございませんの。しかも何ですか? その際に何脈略もなく、本来は人っ子一人いないはずの深い森の中から突然現れて、奇妙なチート能力や人間離れした身体能力をもって、たった一人で屈強な野盗の集団を退けることを成し遂げるという、どう考えても野盗なんかよりも怪しげな人物を、全面的に受け容れて、あまつさえ貞淑なる貴族の深窓の令嬢が一方的に惚れ込み、以降何の疑いも持たずに自分の屋敷に引き入れて、前世の記憶を取り戻したばかりで右も左もわからない転生者が快適な異世界ライフを送れるように、何から何まで面倒を見てあげるなんて、どう考えてもおかしいでしょうが?」
「俺がお貴族様のお嬢様だったら、当然のごとく、そいつと俺たち野盗が、グルだって思うけどな」
「普通、そうですわよねえ」
「「ねー?」」
そのように、現代日本のWeb小説における異世界モノの冒頭部の、ワンパターンで考えなしな有り様を、ディスるだけディスるや、相変わらず仲良く顔を見合わせて頷き合う、お嬢様と野盗の頭目。
──そんな、正論で能なしWeb作家の皆様のガラスのハートを容赦なく傷つけんとする、鬼の所行に堪りかね、ついに私の堪忍袋の緒が切れた。
「てめえら、ふざけるんじゃねえ! 何度言ったらわかるんだよ⁉ 今回の『転生法』制定の最大の趣旨は、『現代日本からの転生者の皆様に、何よりも快適な異世界ライフを満喫していただくこと』だろうが! てめえらネイティブの異世界人の事情なんか、知ったこっちゃないんだよ⁉ てめえらはただひたすら、我々転生局の指示に従って、転生者様たちにとってのゲームワールドに過ぎないこの異世界において、『NPC』として役割をきちんと果たしていれば、それでいいんだよ!」
「「なっ⁉」」
「この世界が、ゲームワールドに過ぎないですって?」
「それに俺たちが、単なる『NPC』だと?」
私のあまりの暴言──否、『至極当然の事実』を耳にして、血相を変えて口々にわめき立てる『NPC』たち。
「てめえ、今すぐ訂正しろ! いくら転生局のお役人だろうが、ただでは済まさねえぞ⁉」
「そうよ! お父様に言って、転生局の上層部に手を回して、首にしてもらうわよ⁉」
野盗お嬢様共に、それぞれのやり方によって、確かに十分効果的に、私に向かって脅しをかけるものの、
「……無駄ですよ、そもそも『転生法』を制定して、現代日本からの転生者を全面的に受け容れることを決定したのは、この世界そのものの上層部の方たちなんですからね。──そう、我々は気づいたのです、たとえ彼らの、あらゆる面で異世界を見下しきった横暴極まりない振る舞いにより、国辱的な目に遭おうとも、現代日本人からもたらされる最先端の科学技術等を享受することによる、利益のほうが遙かに重要だと」
「「……え」」
「頭目さん、あなたたちだって、転生者が増えてくれたほうが、何かと都合がよろしいでしょう?」
「……ああ、確かになあ。この世界の危険性を甘く見ているやつらが、何の警戒心もなく、俺たちのシマである大森林に迷い込んできてくれたら、物騒なチートを持っていない限り、ただのカモだからな」
「お嬢さん、地方貴族の皆様のほうは、どうですか?」
「……あ、はい。確かに父も、転生者の方々がもたらした新技術によって、領内の各種産業の能率が大幅に向上したし、よその貴族領との交易の規模も格段に拡大し、全体的な収益が毎年倍々ペースで伸び続けているとのことです」
「……そして領内や国全体が潤えば、俺たち野盗の獲物も増えるし、しかも御領主様自身も潤っていることもあって、俺たちに対するお目こぼしも多くなり、ますますやりたい放題に稼げるという、好循環になるってわけだ」
相変わらず複雑な表情ながらも、転生者たちの近年ますますの増加による、弊害を無視しても余りある利益については、認めざる得ないお二方であった。
「ようやく、おわかりなられたようですね。そうなんです、誰だって本当は、よその世界の人間なんかを、無条件で受け容れたいとは思っちゃいませんが、今や彼らからもたらされる確実なる『利益』についても、けして無視できなくなっているのですよ。──そう。一度『甘い汁』を吸ってしまった、我々異世界人は、もはや後戻りできないのです。だったらむしろ開き直って、プライドすらも捨てて、転生者たちが望むがままに、『NPC』に徹して、転生者が何よりも、この『異世界』という物語の舞台において、思う存分快く『主人公』として演じていけるように、全面的にサポートしていくしかないのですよ」