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トゴウ様  作者: 真霜ナオ
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04:リスナーからの提案


「リスナーのみんな、こんばんは! さっきのコラボ配信観てくれた人もいるかな。感想とか話したいし、時間も早いから雑談枠を取りました。良かったら片手間にでも聴いてって」


 先ほどのコラボ配信よりも、視聴しているリスナーの数は圧倒的に少ない。半分くらいは減ってしまっただろうか?

 ゲーム配信以外には興味が無い人もいるだろうし、それは仕方がない。


 だが、俺自身には興味が無いとストレートに言われているような気がして、気分が沈みそうになってしまう。

 配信者自身にファンがつかなければ、長くは続かないものだろう。新規のファンがやってきても、すぐに他へ流れていってしまう。



『いつもより賑やかだったね』


『カルアちゃん初見だったけど可愛かった』


『ユージだけならサクサクプレイだったよ』


『今日はもうゲームは無し?』



「カルアちゃんのリアクション良かったよなあ。特に中盤の……あ、ネタバレ含むからまだ観てない人はぜひアーカイブからよろしく。ゲームは今日はもうやらないかな、明日朝早いんだよね」


 雑談枠にまで残ってくれるリスナーは、やはり俺に対して好意的な人間が多い。

 コラボ中には荒れそうなコメントも見られたが、今は純粋に配信を楽しんでくれていたらしいコメントで埋まっている。


「けど、リスナーのみんなに楽しんでもらうために、もっと面白い企画考えたいよなあ。せっかく俺の枠に時間割いてくれるわけだしさ」


 特に案があるわけではなかったが、俺は登録者数が増えない焦りが見えないよう、普段の調子でリスナーに話しかける。

 自分自身で考えつく企画というのにも、正直にいえば限界がある。そんな面白い企画を考えつく頭があるなら、とっくに動画にしているだろう。

 あわよくばコメントから何か良い案が拾えれば(もう)けものだ。



『来週発売の〇〇の続編やってほしい』


『ユージはエイムいいからFPSのゲームが観たい』


『オフ企画とかはやんないの?』


『24時間耐久ゲーム配信』



「オフ企画なあ……」


 大半が好みのゲームを挙げていく中で、まったく異なる方向性の企画を提案するコメントが目に留まる。

 実際に考えはしたが、自分には向いていないと思ったばかりだ。

 オフ企画なんて、大抵は体を張らなければ面白くならないだろう。俺は芸人枠としてやっていくつもりはない。


「オフだったら、たとえばどんなやつが観たい? 何か希望とかあるもんなのかな」


 とはいえ、オフ企画といってもかなり幅は広いだろう。

 高額商品を購入した開封動画をアップしている配信者もいれば、ネタを考えてコントのようなことをやる配信者もいる。

 やりようによっては、美味しい企画になる可能性もゼロではない。


 俺の場合はマスクをしながらの顔出しをしているとはいえ、外に出て何かをするような動画を配信したことはない。

 逆にいえば、これまでやったことがないからこそ、外に出るというだけで興味を持ってくれる人も増えるのかもしれないが。



『サバゲ―行っちゃう?』


『顔出ししてみた動画希望』


『踊ってみたやって』


『オフはあんまり興味ないからゲームでいい』


『心霊スポット巡りとか』



「心霊スポットかあ。動画の再生回数見てても思うけど、みんな怖いの結構好きだよね。俺あんまり怖がんないけど面白い?」


 心霊スポットに足を運んだことはないが、少なくともホラーゲームで叫ぶような経験はない。

 基本的に幽霊の(たぐい)を信じていないので、どこか一歩引いた目線で見てしまうというのもあるのだろう。

 いわくつきの事故物件に住めと言われても、特に抵抗なく住めてしまうと思う。



『怖いの無理』


『怖がりな人とコラボとかどう?』


『心霊スポットっていえば、最近不審死のニュース無かったっけ』


『幽霊とツーショしてきて』



「コラボか……今日のカルアちゃんとの配信でもそうだったけど、やっぱリアクションしてくれる人がいた方が面白いよね。絶対にやるとは言い切れないけど、ちょっと前向きに考えてみるかなあ」


 前向きな俺の言葉に対して、コメント欄では期待する言葉が並んでいく。

 中には反対する意見もあるが、何にでも異を唱えたい人間はいるので仕方がないことなのだろう。

 やはり普通にホラーゲームをやるよりも、実際に怖さを体感できるような場所に足を運ぶ方が、視聴者数も稼げるのかもしれない。


 その後も企画についてだけでなく、何でもない日常的な雑談をして、俺は今日の配信を終えた。

 シャワーを浴びている間も、リスナーからの提案は俺の頭を離れずに残り続けている。

 もしも心霊スポットに行くのなら、身バレをすることを考えてもあまり近場でない方が良いのだが。


「……あれ」


 そんなことを考えながら部屋に戻ると、ベッドに放り投げていたスマホに通知が入っていた。

 見てみると、Tmitter(ツミッター)にDMが届いているようだ。

 送り主の名前は、『ゆきまろ』と書かれている。マロ眉をした雪だるまのアイコンが印象的で、俺の配信を欠かさず観てくれている熱心なリスナーの一人だ。


『ユージくん、こんばんは。マロです。今日のコラボ配信も雑談も、すごく面白かったよ。特にゲームの後半での謎解きの速さが……』


(この人、やっぱり今日も観てくれてたんだな)


 マロ、というのはゆきまろさんの一人称だ。

 他のリスナーとの差別化を図るためなのかキャラクターを作り込んでいて、未だに性別もわからないのだが。

 俺にとっては貴重でありがたいリスナーであることに違いはない。


『ところで今日の雑談で、オフ企画について話してたよね? それを観てて、マロからひとつ提案があるので、DMを送りました。良かったら検討してみてね』


「……都市伝説の、トゴウ様?」


 そこに書かれていたのは、とある都市伝説を試してみてはどうかという内容だった。

 俺はホラーゲームをプレイすることはあるものの、現実のオカルト話にはあまり興味が無い。

 口裂け女やテケテケなんて有名なやつくらいは把握しているが、ゆきまろさんの送ってきた都市伝説は、聞いたことがないものだった。


 記載された詳細を読んでいくうちに、俺はその内容に引き込まれていくのがわかる。

 まるで、面白いゲームの発売告知を見つけた時のような高揚感だ。


「へえ……これ、確かに面白そうだな」


 単純に心霊スポットに行くだけでは、つまらない映像になってしまうことを懸念(けねん)していた。

 だが、この都市伝説を試すのであれば、事実はどうあれ面白い映像が撮れそうな気がする。


 普段は当たり障りのない返信をしているが、今日ばかりはゆきまろさんに感謝の意を込めて、丁寧な返事を書くことにした。


Next→「05:いざ廃校へ」

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