第二章:異世界での邂逅《婁アシュビー》2-3 お姫様だっこされる人
前回までのあらすじ
美女とショタ(疑似)が、おでこ と おでこ、こっつんこ。
いや、考えてもみてほしい。絶世の美女、もとい女神さまに見間違えそうな女性が、おでことおでこくっつきそうな程、顔を近づけてきていて、その上、僕の両手を合唱する様に包み込み、お話をしてくれているのだ。普通の健全な男性ならば、緊張しないことがあるだろうか。いや、ない!心の中で、うん、うん、と頷きながら、秘書さんの質問に、ゆっくり回答した。
「安心してください。秘書さん。僕は、この通りピンピンしていますよ。身体に痛むところはないですし、秘書さんの顔も見えています。秘書さんの声も聞こえていますよ。心配かけてしまいすみませんでした」
安心してください、秘書さん。この通り、元気ですし、秘書さんの、美しいご尊顔も、鈴のようにコロコロなるような美しい音色のお声もちゃんと聞こえていますから!まぁ、なんてことは言えないけどね。
しかし、と考える。はてさて、どうやって僕は、ここまで来たのだろう?
「ところで、秘書さん――」と言いかけたところで、口のところに秘書さんの人差し指がそっとあてられた。え、え?指が唇に触れた。あーなんか、色々質問とかどうでもよいような気がしてきた。きっと僕は、前世でかなりの徳を積んだんだろ。うん、うん。
「もう、私の名前は先日、お伝えしたじゃないですか。私の名前は、|《・》婁《たたら|》《・》アシュビーです。
是非とも、秘書さんでもなく、婁さんでもなく、気軽にアシュビーと呼んでください。ね? 山田さん?」この至近距離で、首を斜め75度に傾ける動作はだめだ、破壊力高すぎる。消滅しそう……。
「わ、わかりました。では、あ、アシュビー、さんと呼ばせていただきます。改めて、よろしくお願いします。アシュビーさん」緊張しながら、名前を呼んだ。いや、女性の名前呼ぶだけで緊張て、思春期の男子か!と自分で自分にツッコむ。
「そ、それで、ここは――」と質問仕掛けたタイミングで、僕が何を聴こうとしたのか察してくれたようで、アシュビーさんは、説明を始めてくれた。
さすが、大手企業の社長秘書。対応が敏腕すぎる。
――アシュビーさんが教えてくれるには、どうやらここは、さっき落下してきた地点からほど近い、村落のようだ。で、膝枕で気絶した僕を助けるために、いわゆるお姫様抱っこの状態で、この村まで運んできてくれたらしい。その際、事情を門番に話したら、村長さんを案内してくれたらしく、村長さんが自宅の一室を開放してくれた上に、看病に村長さんの娘さんをつけてくれたらしい。で、村長さんの名前がアタマスさん。娘さんがヘレーさん、というらしい。
なるほど、先ほどの茶髪の素敵な少女、もとい、ヘレーさんは、村長さんの娘さんだったのか。であれば、丁寧な仕草も、闊達そうな雰囲気も合点がいく、ような気がする。というか、構図的にはどうかは知らないが、実体としては、大の大人である僕が、アシュビーさんにお姫様抱っこで、この村まで運ばれてきたのか。
……なんだ、その羞恥プレイ。恥ずかしすぎるよ!
ん?そういえば、さっきから看病、看病って言っているけど――、
「なるほど、アシュビーさんが、この村まで、抱えてきてくださり、その上で、村長のアタマスさん、娘さんのヘレーさんにお世話になっていたんですね。その説は、皆さま、大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございます。おかげ様で、僕の体調はすこぶる健康です」僕は腕をぐるぐる動かして見せた。
「ところで、先程から、看病と言葉がよくでてきていますが、僕はどのくらい倒れていたのでしょうか。一時間?」
「それとも、半日ほどでしょうか?」すると、部屋にいた三人とも目をあわせ、少し気まずい空気が流れる。え?何?僕はまずいことでも言ったのかな?
「三日、三日よ? ボク」そう口を開いたのは、ヘレーさん。
へ?みっか?MIIKA?三日!?
「え!僕、三日も寝込んでいたんですか?」うそでしょ……。
「うん、三日寝込でいたの。その間、主な看病は、私もお手伝いさせてもらったけれど、主にしていたのは、アシュビーさんよ。」
「て、ことは、着替えているこの服とかも?」恐る恐る、僕は聴く。すると、今度はアシュビーさんが答えた。
「はい」
「し、下着も?」
「はい、もちろんです。村長さんやヘレーさんには、お部屋まで開放して頂いておりますのに、そこまで迷惑おかけできませんから。私が、全身をくまなく汗を拭き、お召し物を変えさせていただきました。」朗らかに笑うアシュビーさん。
うそ、うそ、ウソッ!!!――ッ。あっつい。顔があっつい。殺してください。
もう、無理。膝枕で!興奮して!気絶までして!絶世の美女に姫様だっこされて!
三日も寝込んで!その上、着替えまでしてもらう!そして、僕の聖剣まで見られたとか、どこの男性ですか!それ!あ、僕か。あーもう、羞恥プレイなんてものじゃないよ!あついあつい、ヤバい、まじで顔がアツイ!直視できない。
一通り悶絶している僕を他所に、アシュビーさんは笑顔で語ってくる。さすが、敏腕社長秘書、何事もなかったかのように説明するなんて、さすがだ。いやでも、さすがに、僕も男なので、その反応は、それはそれで傷つくよ?
僕が、くだらない思考を巡らせている間に、アシュビーさんは、なにやら、村長さんやヘレーさんと話をして、頭をぺこりと下げた。どうやら、二人に部屋の外に出てもらったらしい。
「少し込み入った、その、すごく大切な、お話がありましたので、恐縮ではあるのですが、アタマスさんと、ヘレーさんにはお席を外していただきました。」
二人きりになった途端、急に真剣な表情をされるアシュビーさん……。素敵……。いやいや、違う、大切な話?なんだろう。僕は、ベッドに座っている身体を、全体的にアシュビーさんの方に向け、瞳を真剣にみつめた。
「ヒ、ヒャイッ、なんでしょう。アシュビーさん。」アシュビーさん、やっぱ瞳もすっごい綺麗だぁ。なんて思いながら、また声を裏返してしまう。あ、だめだ、まだ緊張している。
「はい、大切な話。二人のこれからについてです。」
その時、僕は自分の心臓の鼓動がいつもよりうるさく鳴り響くのを感じた。
何が正解なんだぁぁぁ。