第三章:山田の受難 3-4 お着替え回
絶望した山田。運命やいかに!?っていうけれど、きっと大丈夫なパターンだ。
「え、うそでしょ。そんなレベルの話なの? だってさっきアシュビーさん縫合できるって言いましたよね?」
「えぇ、できますよ? 技術が公にされていないだけで、出来る人はいらっしゃいますよ?」
なんで、そんな情報を知ってんだよ。でたらめ言ってないよね?
「ですが、まぁ、私はいつまでもこの状態でいいですけどね?冗談ですけど?」何が冗談ですけど?ですか、発言も二度目だと冗談に聞こえないんですよ。変態さん。
それに、何されるかわからないし。ジトーと変態さんを見上げ、彼女の大きな瞳を僕はみつめる。
「も、もう、本当に冗談ですよ。冗談!」やですよぉ、と笑いながら言う変態さん。どうみても、目が本気でしたよ?
「そ・れ・に、ほら、山田さんみてください。この指標」話をそらすようにポケットから取り出したのは、指標シートだった。
「ここに、項目追加されていますでしょう?」
そう言われてよく見ると、「村の医師の元へ向かえ」と記されていた。
なるほど。こんな風に適宜、指針は示してもらえるのか。
「なので」とアシュビーさんはパンッと手を叩き、
「まぁ、そういうことですし、村のお医者様が一番近いのでしたら、そこから頼りましょう!ダメでしたら、最悪私がなんとかして差し上げますので、ご安心ください!」
そんなことを言われて、僕は、余程、不安そうな顔をしていたのだろうか。
「あー、もう! そんな母性本能くすぐるような不安気な顔しないでください。大丈夫です。大丈夫ですから!」などと言われた。いや、だから、さっき僕このままだと消滅するって言って不安にさせたの貴女だったよね?
「うふふ」と笑っているんですけど、ほんとなに、この人。
「まぁ、そうと決まれば、向かいましょうか!」僕を抱えたまま、すくっと立ち上がるアシュビーさん。
え、この目線たかっ。180cmの高さって地面から、すごく離れている。
今までは、お姫様抱っこをされていたから、あんまり気付かなかったけれど、片腕に載せる様にして立ち上がられると、地面との高さを実感してしまうね。
考えるよりも先に身体が恐怖を感じたのか、僕は思わず、アシュビーさんの首にぎゅっと抱き着いていた。
キュン、キュン、キュウン‼「~~~~⁉⁉⁉⁉ッ!」
「あーもう! 可愛い! ほんと可愛い! 可愛い過ぎます! もう限界でsッ」またもや、暴走するアシュビーさんを制してくれたのはヘレーさんだった。
肘のぶつけたらブィィィンンってする症状――えーと、たしか上腕骨内上顆とか言った気がする。――を、手に持っていたお玉のようなもので、アシュビーさんの肘にコツンッと当てて、発生させたようだ。ヘレーさんって、意外と急所知ってる?
痺れに悶えるアシュビーさんに「暴走しすぎです!」と言い放ち、
ヘレーさんは、僕をアシュビーさんから掴んで床に下ろした。
そんな僕に視線を合わせながら、「ヤマダサンも、不用意にアシュさんを興奮させる行動は慎んでくださいね?」と叱られた。
なんというか、27歳にもなって子どものように叱られるのは、なんともむず痒いものがある。
「さぁ、では、出かけられるとのことでしたら、私さっそく、アシュさんとヤマダサンの服持ってきますんで、少し待っていてくださいね?」
「え、いや、私はこの服で構いませんよ?」肘のむず痒さに悶えながら、アシュビーさんは返答した。
「いや、僕も別に着てきたスーツが、」あ、そうか、縮んでいるから、ぶかぶかなんだ。
「アシュさんは、その独特な衣類はとても悪目立ちします。小さい村ですから、あまり警戒されるのは、避けた方が良いでしょう。村人も不安がりますので。それに、ヤマダサンは気づかれたようですが、サイズが合わないかと思います。気がついています?また、さっきより少し縮んでいますよ?」
「え?」慌てて、身体を調べる。確かに、裾の丈が、長くなっているような気がする。
「あ、本当だ! さぁ、山田さん! 私の魔素を沢山吸引してください!」
そういって、すかさず、脇に僕の顔を押し当てる変態。背に腹は代えられないので、吸引する僕。
スーハー、スーハー。
そんな酷い絵面の二人を見ながら、「はぁ」とため息を漏らし、ヘレーさんは服を取りに家の奥へ入った。
しばらくたって、アシュビーさんと僕の二人が呼ばれた。ただし、離れたら、魔素の補充ができないとのことから、僕はもちろんのこと、アシュビーさんも何をしでかすかわからないので、同室で目隠しをしたまま着替えさせられた。
目隠しの状態なので、二人とも、仕上げは、ヘレーさんに手伝ってもらったが、何とか着替えは終わり、目隠しは外された。
アシュビーさんは、ヘレーさんと同じような、木の靴を履き、薄茶色のロングスカートに白いエプロンを身に着け、長袖のゆったりしたシャツに紅い肩なしの胴着の服を着用、
特徴的な白く長いフワフワの髪の毛は、後ろにくくらず下ろされていた。
いやぁ、ほんと綺麗だ。黙っていれば、めちゃくちゃ綺麗なんだけどなぁ。
で、対して僕なんだけど、
「いやぁぁ、山田さん、可愛っ! 小さい靴に、膝まで見えるハーフパンツ&半そでのシャツ! そして、サスペンダーに茶色のバケット帽! なんですか! この衣装なんですか!
とっても素敵です! ドストライクです!」鼻血を抑えながら、パシャパシャ写真を撮り、相変わらずうるさい変態さん。き、気持ち悪い。
「アシュさん、その手に持ってるの、なんですか?」
「これ? なんでもないよ?」
いや、そうなるよね。違和感の塊だもんねソレ。
「なんでもないですか。そうですか。」あら、やけに素直に納得した。まぁ、そういうこともあるか。
「でも、この衣装、どうみても子供用だよね?」僕はヘレーさんに尋ねた。
「だって、ヤマダサンに合うサイズの男の子のお洋服ってこれくらいしかないですし。これが嫌なら、後は、私のおさがりのスカートってことになりますが……?」
「あー、いや、贅沢言ってすみません。満足しました。大満足です」
後ろで、スカートというキーワードに興奮して、ぐふぐふ言っている、危険人物約一名を放置したまま、話は進む。そうしないと本当に履かせられるからね。それは避けなければならない。絶対に。
「じぁ、着替えも済ませましたし、さっそく一緒に、お医者様のところに向かいましょうか」
ヘレーさんにそう言われ、僕は、驚いた顔でもしたのだろう。
「だって、お二人とも、どこに向かうか知らないじゃないですか。それに、アシュさんは暴走しそうですから、一緒についていきますよ」
たしかに、ごもっともなご意見である。
それから後、僕は、アシュビーさんに抱えられ、ヘレーさんは黒板のような道具に書置きを残し、一緒に家を出た。
焦った、投稿できなくて焦った。(焦った)