第三章:山田の受難 3-2 朝の喧噪
ベッドの下から忍び寄る綺麗なお姉さん。
そして、捕らえられるショタ(疑似)
よし、力が緩まった!その隙に、僕は逃げ出した。
「はぁ、はぁ」
これは、暴力ではない、正当防衛だ。だって、体格差、その、認めたくないけど大人と子どもくらいあるし?前より、身体縮んでいるのなら、ダメージ少ないだろうし?
…………。
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にしても、全然起き上がってこない。え、うそ、気絶とかしてない?大丈夫だよね?
「えーと、あのアシュビーさん、大丈夫? えーと、逃げる為とはいえ、ごめんね?」心配になり近づいてしまった。
僕は、バカだ。実にバカだった。
「はっはー! 待っていましたよ、山田さん! よくもやってくれましたねー!」
そういうや否や、満面の笑みで僕を再度、捕縛しようととびかかってくる、アシュビーさん。
咄嗟に身を翻し、その猛攻をよけると彼女は壁にぶつかり自滅した。
「な、なにするんですか! めっちゃびっくりしたじゃないですか! 反省してください! 心の底から反省してくださいっ!」
大声で叫ぶ僕。
壁に頭を打ち付け悶えるアシュビーさん。
早朝から、全く何をやっているんだろう。こんなことで、携帯ショップ本当にオープン出来るんだろうか。
アシュビーさんを置いて、一階へ降りていこうとした時である。
「待ってください」とアシュビーさんに呼び止められた。
「まだ、用があるんですか? 変態さん」
「おかしいです。文字がおかしいですっ! いえ、そうではなくてですね。実は、結構、やばい事態に、想定外の事態に、山田さんの身体はなっています!」
僕の身体はこの世界に来てからというものやばい状態にしかなっていないし、僕にとっては、想定内のことがこの世界に来てから、ないのだけれど。そう思ったが言うのはやめた。
たしかに、身長の件本当なら、相当ヤバいが。
「何がどう、ヤバい状態なんですか?」そう、質問返すと変態さんは、僕が興味を示したことが嬉しかったのか、犬が尾を振るように喜んだ。
「はい! おそらくですね! 元の世界から、こちらの世界に来る際の調整エラーだと思われるのですが、身体の中の魔素がどんどん抜けていっています。こんなこと今までなかったのですが、早く対処しないと山田さんはどんどん小さくなって消えてしまうかと思われます!」
なんで、そんなテンション高めで恐ろしいこと言えるの?ネジでもぶっ飛んでんの?いや、ぶっ飛んでたわ。この変態
「で、そんな危険な状態の僕は、どんな対処をすれば良いんですか? そこまで、知っているなら、解決策も知っているんですよね変態さん? というより、そんな危険な状態なら、変態してないで、早く言ってくださいよ。変態さん」
「ひ、人を変態の代名詞みたいに呼ばないでください! 私は変態なんかじゃありません!」
このアシュビーさんが変態でなければ、一体だれが変態だというのだろうか。これほど、貞操の危機を感じたのは前に監禁されて以来だ。ま、まぁ、あの時と違って、恐さは感じないんだけれども。
「はぁ、で! 僕は、どうしたら良いんですか? というか、早く降りて朝食を食べないと流石にヘレーさんに怒られると思うんですけど。お世話になっている身でこれ以上迷惑かけたくないんで、早く結論言ってください、変態さん。これ以上、引き伸ばすのなら、僕はもう、変態さんと口ききませんからね!」ぷいっと僕は、そっぽを向いた。
質問の回答を急かす為にしたことだったけど、思ったよりも効果は覿面だったようで……、
「う、うぅぅ、わかりましたぁぁぁぁ。わかりましたからぁぁぁぁ。口きかないとか言わないでください! ダメージ大きすぎます! ちゃんと言いますからー!」ボロボロと泣きだした。じ、情緒不安定なのかな、この人。もう!
「駄々っ子ですか! 泣きすぎです。わかりました。わかりましたから! もう、口きかないとか言いませんから、ですから、その! ……、泣きやんでくださいませんか?」
ほんと、僕は甘い。いや、仮にも命の恩人でもあるので、そんなに強く当たれないのもあるんだけど、なんだが、アシュビーさんだけには、辛い思いはしてほしくない気がしてしまうから質が悪い。
「本当ですか?」ぐすっぐすの顔を上げてこちらを見る。
しかし、芸術的に綺麗な人が、ペタリと床に腰を下ろした状態で涙ぐんでいるのは、何かドキリとする妖艶さがある。開けてはいけない扉が開いてしまいそうだ。
そんな考えを振り払うように顔を大きくブンブンと左右にふり、アシュビーさんの大きな瞳を見つめて、「本当です!」と返答をした。
途端に彼女の表情は明るくなり、「やっぱりぃぃ、山田さんは優しいです~」なんて宣いながら、飛びついて来た。む、胸がまた当たっている!プヨン?プヨン?
ええい、
「だから! 解決手段!」まったく、この変態さんは。
「あ、あぁ。そうですね! えーと、解決策なんですけどね、
まず、今の山田さんの状態ってイメージでいうところの、血液垂れ流しの状態に近いんです」
「血液垂れ流し」ゴクリと唾をのんだ。
プニ?プニ?
「人間って大量出血で死んじゃうじゃないですか? この世界でも、もちろん生物には、血液は流れていますので、出血でも生命活動停止しちゃうんですけど、それと同じくらい重要なのが、魔素脈っていうものなんです。この脈が途切れちゃうと、そこから、この世界での構成物質の魔素が垂れ流されちゃって、どんどん存在をたもてなくなっちゃうんです」
パフン?パフン?
「たぶん、緊急で調整された、魔素脈だったので、昨夜暴れた時にでも、プツンっと切れてしまったんでしょうね」
パイン?パイン?
ぞぉーと血の気の引く僕を、未だに僕を抱きしめたまま変態さんは語る。
ということは、やっぱり変態さんが変なことをしなければ、こうはならなかったんじゃないだろうか。あー、いや、今は振り返っても仕方ない。
「で!」プニュ?
「はい。なので、対応策は簡単で、魔素脈を縫合しちゃえば良いんです。出血したら縫って血を止めるのと同じように」なるほど。それで助かるのか!ズリュン?ズリュン?
「ええい、乳を擦り付けるな! しかし、まぁ、それだけご存知ならアシュビーさん。縫合、お願いします!」
「いやいやー、私では、出来ませんよ。多分、山田さんの魔素脈触ると色々あって多分、死んでしまいます」
「いやいや、なんでそうなるんですか!」
「なので、多分、お医者様がいらっしゃると思うので、お医者様に治してもらいましょう!」
聞いてねぇ。でも、お医者様かー。正直この世界レベルはわからないけれど、門番とか、キャラバン隊とかの響きから文化レベルは中世くらい。異世界転生の鉄板だろう。背に腹は代えられないけれど、その時代レベルの医療は怖い。すごく怖い。床屋みたいな所に連れていかれて、瀉血だけとかありそうだから、ほんと怖い。
「あれあれ~、どうしました。山田さん。そんなに、青ざめて。もしかして、お医者様怖いんですか~?」急に煽ってくるんだけど、なに、この秘書。
「べ、別に怖くないです! そこに行けば治るんですね! で、あれば、すぐ向かいましょう。今すぐ向かいましょう!」
別に医者が怖いわけではない。それに、本性を現しはしたが、腐っても、超優秀な人物がいう事である。きっと大丈夫だろう。たぶん……。きっと……。
「いいですけど、私どこにお医者様いらっしゃるか知りませんよ。それに、ご飯にも多少なりとも魔素は含まれていますから、摂取しておかないと、病院着く前に消えちゃうかもしれません。ですから、やっぱり朝食は、食べとておきましょう!」
くそう、いつの間にか、立場が反転している。だから、僕は朝食を早く食べようと言ったのに。――