第二章:異世界での邂逅《婁アシュビー》2-10 山田と婁と時々ヘレー。ルコス村について。
アシュビーの凶悪な双丘に苦しめられた山田は――。
「アシュビーさん! アシュビーさん! ボクくん、苦しそうです!アシュビーさん!」
救いの声を掛けてくれたのは、ヘレーさん。言われて、我に返ったのか、ハッとしたように、抱きしめていた力を緩め、僕を自身の体から引き離して地面に下ろしてくれた。
「あ、あの、山田さん。その、ごめんなさい。大丈夫ですか?私、その、無力な感じとか、恥ずかしがる雰囲気とか、あまりにも反応が可愛くて、その、自制できなくてつい……、えーと、痛いところとかないですか?」
未だ、くらくらしている僕に、アシュビーさんは、申し訳なさそうに謝った。
…うー、やっとくらくらするの治まってきた。
普通だったら怒る所なのだろうなぁ。だけれど、こんなに捨てられた子犬のようにしょげている彼女をみていると、なんだか怒る気力もなくなってくる。僕は、ほんとお人よしだ。
「あー、もうっ! 大丈夫ですよっ。そのかわり、ちゃんとこれからは自制してくださいね?
こ、これでも、僕も大人の男ですから、そんなことされたら、その、アレです! お、襲っちゃうかもしれませんよ?」
がおーっと両手を大きく掲げて、少し、照れ隠しをしてみる。
僕もかなり甘いな。というか、考えてみると、27歳にもなってがおーって、かなり痛いやつなのでは。そう思い巡らせながら上目遣いで、彼女の顔を見上げると、今度は、瞳を大きく見開き、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「あっ、えっ」
「ちょっと、え、どうしたの。アシュビーさん。どうして泣いているんですか? こ、恐かったですか? 不快でしたか? あの、その、うー、ごめんなさい!ほ、ほら、僕を抱きしめたかったら、思う存分抱きしめていいですから!」
突然のアシュビーさんの涙に僕は大変困惑して、自分でも、何を言っているのかもわからないことを口走りながら、必死に泣き止まそうとした。
実際、女性に目の前で突然泣き出され対処できる男がこの世に何人ほどいるのだろうか。
よほどの場数を踏んでいるプレイボーイは違うだろうが、女性を泣かせるような場数など、僕は踏みたくはない。そもそも、経験がない。ゆえにこういう時には困惑してしまう。
それに、27歳男性が、公衆の面前で女性を泣かせているわけだ!
いや、客観的に見たら、子どもの前で泣く大人の女性という構図だけど、僕はそんな構図、断じて認める訳にはいかないし。
わたわたしている僕に、今度は、クスクス笑いだしたアシュビーさん。
つ、ついに壊れてしまわれました?
「大丈夫、大丈夫ですよ。山田さん。こんな、自制効かない女にも優しい山田さんの気持ちが嬉しかったんです。だから、大丈夫です」涙を拭いながら、アシュビーさんはそう言った。
良かった。セクハラじゃなくて良かった。安堵した。
「あのー、少し良いでしょうか?」そんな矢先、ヘレーさんの声がした。
「お取込み中のところ、すみません。さっきの話、本当なのですか? ボクくんが、大人の男性だとかって話。まさか、冗談ですよね? 二人は歳の離れた姉弟なのですよね?」動揺しながら、困惑顔で尋ねるヘレーさん。
その質問に応えたのはアシュビーさんだった。凛と姿勢を正し、直角に頭を下げた。
「まず、アタマスさん、ヘレーさん。行き場のない、私達を温かく迎え入れそのうえ、一室お貸しいただいて、本当にありがとうございました」
「お部屋をお貸しいただき、安静にできなければ、山田は死んでいたかもしれません。心よりの感謝を申し上げます」
「そして、嘘をついてしまってすみませんでした。門番の女性の方に、この村は、手形が無ければ、大人の男性の入村が出来ないとお伺いしたので、山田を助ける為とは言え、とっさに弟と偽ってしまいました。本当に申し訳ありません」
深々と謝罪を続ける、アシュビーさん。
なるほど、そんな理由があったのか。なら、話は少し変わってくるよね。
「いえ、アシュビーは、何も悪くありません。私が、倒れたことが、すべての原因であります。ですので、何卒、アシュビーはお許しください。僕は、なんでも罰則を受けますので」
そうと分かれば、当然、アシュビーさんにだけ、謝罪をさせる訳にはいかない。過程はどうあれ、全ての原因は、僕が倒れたことなのだ。
僕を救おうとしてくれたアシュビーさんに、これ以上負担をかけさせるわけにはいかないだろう。
そう考えた僕は、アシュビーさんと同じく、深々と謝罪をした。
ヘレーさんは、頬をポリポリと掻きながら、「もう、顔を上げてください!」と溜息交じりに言ってくれた。
「私たちも、鬼ではありません。いくら、原則男性の入村禁止でも、重症の方を拒否したりなんかしません!」腰に両手を当てながら、半ば呆れる様にヘレーさんは言葉をつなぐ。
「それに、元々、男性の入村禁止にしたのも、この村の男性たちが、山向こうまで出稼ぎに行っていて、その間、この村には、女性と老人や子どもだけしかいなくて危ないですから、自衛のために、仕方なく男性の入村を禁止しただけなんです」
「ただ、ボクくん、いえ、ヤマダサンがあまりにも大人の男性には見えず子どものように愛らしかったものですから、驚いてしまっただけで……。それに、女性の腕の中から、自力で抜け出せない男性なら、警戒する必要性もないですからね」
片目をパチリと閉じながら、ヘレーさんはそう言ってくれた。
それに関しては少し複雑ですけどね。そんな思いを抱きながら、僕は、心の中で自身を嘲笑した。
「そうじゃ。嘘をつくのはいかん事じゃが、わしからみても、ただの子どもにしか見えんわい。これは、どうじゃろ、わしらは、警備の強化を、ヤマダサンらは、虚言の過ちを学んだということで、痛み分けでどうじゃろうか?」そして、村長のアタマスさんが温かく場をとりなしてくれた。
なんと、優しいのであろう。素性のわからぬ二人を三日も置いてくれた上に、嘘を許してくれるなんて。こんな人がいるんだな。
「温かいお言葉感謝です。誠にありがとうございます!」僕とアシュビーさんは心より感謝を述べた。
「じゃ、とりあえず、ご飯にしましょ」そう言うと、ヘレーさんは温かいシチューのようなスープとパンのような食材をテーブルの上に用意してくれた。
そこからは、食事をしながら、いろんなことの話をした。
アシュビーさんから異世界人だとバレてはいけないと耳打ちがあったので、そこは隠しながらだけど、お店の出店や鉄塔というものを建てる為の土地を探している事。従業員を集めたいこと、などだ。
アタマスさんとヘレーさんからは、村の状況を教えてもらった。
この村も昔は、キャラバン隊の通り道ということもあって栄えていたこと。
しかし、道中でのキャラバン隊への何者かの襲撃が多発した為、迂回ルートがつくられ殆どのキャラバン隊はそちらを通るようになったこと。
犯人は土地の特性を利用しているのか、一向に捕まらないこと。
結果として、村にお金が落ちなくなり、仕方なく、男たちが、山向こうの街へ出稼ぎに行っていること。しかし、依然として村は衰退していっていること、などの話を聴いた。
とりあえず、僕たちは、もう一晩、このルコス村に泊めてもらえることになった。
もちろん、僕と、アシュビーさんの部屋は、姉弟じゃないと判明したので、しっかりと分けられた。個人的には、3日間同じ部屋だったことに衝撃を覚えたりしたけれどね。
部屋分けの結果、アシュビーさんはヘレーさんと一緒の部屋に寝ることになった。
この一晩の間にも、アシュビーさんが僕の部屋に侵入しようとしたり、ヘレーさんに怒られたりと色々あったけれど、楽しい夜になった。
やっと2章抜けたーーー!!!次より、やっと、山田に色々な体験をしてもらえます。(多分)