第二章:異世界での邂逅《婁アシュビー》2-8 第三の質問と羞恥
「なるほど、ありがとう。なんとなく理解できました。じゃあ、第三のこれからの話って何?
経営方針とか?」
「はい、第三なのですが、その話をする為にも、まずは、こちらの用紙をみてください」そう言いながら、アシュビーさんがポケットから取り出したのは、折りたたまれた一枚の紙であった。だけど、僕は、これに関しては一瞬で何の紙なのか理解した。
親の顔よりみたもの。これは、営業指標のシートだ。でも、これがどうしたんだろ?
「この用紙。山田さんもご存知の、この指標シートが、基本的には私達の行動指針になります」
なにを言っているのかな?
「例えば、今出ている指標は、一つ、店舗の土地探し。二つ、人員補充。三つ、鉄塔設置。といった具合ですね。必要な要素が浮かび上がり、それを達成する度に、報酬や、ポイントが貰えます」
なるほどね。仕様は、理解しました。基本、業務時と変化なしってことね。
でも、この用紙を使うとか、新手のいやがらせかっ?あ、いや働きに来たんだった。
しかし、納得いかない。業界人からするとできれば見たくない胃がキリキリするシートだぞ。
「でも、なんで、営業活動指標の紙なの。もっと他に、例えば、直接、指示くれる形式とかなかったのかな?」苦笑いしながら、アシュビーさんに尋ねた。
「そこなんですけどね~。声付きでの指示の通信って、異なる世界間で移動しようとすると、容量大きいんですよ。ましてや、映像とかになると、その容量はとても莫大で。その上、世界間の通信をするのに、とっても精密な調整が必要になるんです。で、やっぱり、メールとかと同じで、文字の媒体が、コスパ的にも良いんですよね。
それで、この世界で活用する上で、この世界に干渉する力の弱い、一番違和感のない形になってしまった訳なんですよ。なので、残念ですが、諦めてください」
ハハハハハ、はぁ。そんな明るく言われると受け入れるしかない。しかし、異世界でもパケットと同じ方式とは思わなかった。
「――、わかりました。諦めます」思うところはあるが、了承した。また、この指標に追いかけられる日々か。涙が出そうだ。
とはいえ、疑問点は、あらかた聴けた。とてもスッキリはした。
「では、この世界の説明も一通りすみましたので、下に降りましょう。ヘレーさんが、いつ山田さんが目覚めても良いように、山田さんの分も食事をご用意してくださっていますから」
ズイッと再び顔を近くにもってきた、アシュビーさんに、そう言われると、三日間もご飯を食べていない僕のお腹の虫は、空腹であることを思い出したように、ぐぅ~、と鳴いた。
「はい、さっそく行きましょう」少し、照れを感じながら、僕はそういって勢いよく立ち上がった――。
のだが、僕は、三日間も寝込んでいたのを、すっかり忘れていた。つまり、激しい立ち眩みを起こして、倒れそうになったのだ。こんなこと、激務に追われていた時ですら、そうそうなかったのに。いかに、異世界へ渡るのが、肉体に負担をかけるのかを思い知らされた。
「もう~。三日も寝ていたの、忘れないでくださいっ!」そう心の底から心配そうに、言われた僕は、気が付くと、アシュビーさんに再びお姫様のように軽々抱きかかえられていて、抵抗むなしく、一階へ連れていかれるのだった。
おかしくない?この場合って僕が、抱えられて、下に運ばれるんですか?普通、料理をトレーとかに載せてこの部屋まで運ばれてきたりするんじゃないんですか。いや、贅沢は言えないけれどさ。でも、この体勢やだ。とても恥ずかしい。
そして、アシュビーさん、すっごいニコニコなんですけど、何がそんなに嬉しいんですかね。は、は~ん。さては、ドSですか。そうですか。僕が恥ずかしがっているの楽しんでいるんですね。鬼っ!心の中で叫びながら、僕は恥ずかしさに耐えきれず、そっと顔を両手で隠した。
そんなことを思考している間に、アシュビーさんに抱えられながら、一階へ降りてきた。
そこには、村長のアタマスさんが食卓に腰掛け、娘のヘレーさんが料理を釜のようなもので温めていた。が、お二人は、階段から降りてきた僕たちに気付いてくれたらしい。
まぁ、つまり、僕のこの恥ずかしい状況をご覧じられたわけだ。辛い。
しかし、そんな僕たちをみて、村長のアタマスさんは、「ほっほ、仲が良いですなぁ」なんて、言い、娘のヘレーさんも「ええ、ほんとに」とかいう始末である。
いや、普通、ツッコむでしょ!27歳のおっさんが、女性にお姫様抱っこされながら、階段から降りてくるんだよ? 違和感しかなくない? いや、確かに僕の見た目は子どもみたいだけれども!それでも、この関係性を知っていたら、変に思うでしょう?
ん? 関係を知っていたら……?もしかして……。
「ほんとに仲の良い姉弟なんだから――」
そう、ヘレーさんに言われて、僕は気づいた。二人の僕たちを見る目がやけに温かい物になっていることに。
朝6時に連投とか、狂っているな自分。