第二章:異世界での邂逅《婁アシュビー》2-7 第一・第二の質問
いや、なんとなく、支店長や社長の口ぶりで旗艦的な役割は、予想はしていたけれど!
でも、と思い僕は小さな口を開いた。
世界を救うってなんだ?それに、携帯ショップのオープンと世界を救うことって繋がりある?
「質問いい?」おもむろに紅葉の様に小さい手を挙げると
「はい。どうぞ」と、ビシッと教師が生徒を指名するかのように、手を指された。
「なんで、わざわざ、異世界にきて、携帯ショップをだしたりしないといけないの?」
「通信網を広げるなら、通信インフラの業種の方が、適任だし、もっというと自衛隊でも良かったんじゃないかな?」
「というか、なんで異世界?こっちがどんな世界か知らないけれど、あのタコみたいなの。あれが本当に神様なら、神の力とか使って、一瞬でできたんじゃないの?」
「元も子もないけど、世界を救うなら、僕じゃなくて、もっと適材がいたんじゃない?」
矢継早に、しかも超早口で質問してしまった。いや、でも、突拍子なさすぎるのだ。このくらいの質問は出る。と思う。
そんな、僕の質問にアシュビーさんは嫌な顔一つせず、うんうんと深く頷き、にっこり笑いながら、
「さすがです、山田さん。着眼点が鋭い! 本来であれば、そういった方法もあったのですが、残念ながら、それらの手法は、無意味なんです。山田さん以外では、この世界は救われませんし、携帯ショップを出店して、通信網を整えることでしか、この世界は護られません」と、言い切った。
「それは、なぜですか。理由は。それに、なんでアシュビーさんは、そこまで詳しいんですか?」とにかく疑問が止まらない。
「うーんと、ごめんなさい。山田さん。不安なのはわかります。疑問に思われるのも、尤もです。でも、こちらにも色々事情がありまして~、まだ、お伝えすることが出来ないんです」
コツコツと教師の様に歩いていたアシュビーさんは立ち止まり、「申し訳ありません」と、
僕なんかに頭をさげた。弱った。お気づきだと思うが、僕はいささか押しに弱いきらいがある。
「わかりました。わかりましたから。アシュビーさん」
お願いですから、僕なんかに頭を下げないでください。と彼女の頭を上げてもらった。
「ありがとうございます。本当に変わらず優しいですね。山田さんは……」小声で何か言った後、アシュビーさんはにっこり微笑んでくれた。
しかし、この世界で携帯ショップを運営して、果てには世界を救うと来たもんだ。僕なんか凡夫にできるとは、到底思えない。わけわかんないし。いや、まぁ、頭まで下げられたんだもの、頑張るけどね。
そこまで考えて、新しい疑問が出てきた。
多分、携帯ショップを運営して世界を救えってことなら、その中で、携帯を普及させることは前提条件のはずだ。でも、異世界って、電気なんかあるのかな?それがないと、そもそもの根底が揺らいでくる。さすがに電気から作れなんて、やり方知らないよ?
「また、質問いい?」
「はい、お応えできる範囲でしたら、どんどんしてください」なんだか、本当にアシュビーさん嬉しそうだな。
「いや、さっき、この世界で携帯ショップ運営していくって言っていたけれど、そもそも、この世界に電気ってあるのかな。というか、電波塔とかの通信インフラもどうするの? あ、あと、商品。携帯本体とか、充電器とか!」
いや、我ながら、さっきから質問しすぎでは。
それでも、嫌な顔一つせず、答えてくれる、アシュビーさんマジ女神。
「ふふっ。それはですね、全く問題ないんですよ。例えば先程、山田さんは、ヘレーさんと、何の支障もなくお話をされましたよね。それって実は不思議なことだと思いません?」
そう言われてみると、僕は海外の語学も正直あまり得意ではない。
それなのに、海外でもない、それも異世界の人間と会話が成立していたって、確かにすごく不思議だ。
「本来であれば、違う世界、違う文化形態なのですから、会話はおろか、単語すらわからないのが普通です。ましてや、異世界です。本来であれば、認識すら不可能です。しかし、問題なく会話ができ、認識できた。何故だと思われます?」
そういって、質問している側が、回答者になった。
うーむ、なんでだろう。
はっ!気付かなかったが、実は本当に特殊能力に目覚めていたのか!
「えー、僕が、色々な言葉が一瞬で理解できるような能力に目覚めたとか?」
「……残念ながら、違います。山田さんにそんな力はありません。あくまでも、貴方は、普通の人間の山田さんです」
なにも、そんな、ハッキリ言わなくても良いんじゃないのかな。と、僕は思うのです。異世界に来たのだから、少しは能力に目覚めているとかおっさんでも、期待するんだぞう。また、僕の黒歴史が増えた。辛い。
なのに、アシュビーさんは本当に楽しそうだなぁ。今の僕には、その笑顔、沁みるなぁ。
「正解は、調整される。です」
「調整?」
「はい、調整です。この世界に存在しない異物の存在。それが、異世界にやってくる人の状態です。つまり、あちらの世界にいる山田さんが、そのままこの世界に来ちゃうと、この世界から、異物とみなされ、存在を消されます」え?消されちゃうの、僕。
「なので、基本的に、世界間で移動の際は、双方に影響のないように変更されます。山田さんの元居た世界では、山田さんの影法師が存在し、従来通りの生活を送っています」
え、僕はここにいるのに、元の世界では、もう一人の僕が生活を続けている?
どんどん意味が分からなくなってきた。
「で、こちらに無事来ることができた山田さんは、世界を渡る時に、この異世界に受け入れられるように、身体を作り替えられるのです。ですから、調整です。ちなみに、そちらの世界の都市伝説。彼のドッペルゲンガーの正体は、実は、影法師現象だったりします」
すっごい笑顔。アシュビーさん。ねぇ、なにが、そんなに楽しいの?
僕、身体を作り替えられたとか、聞かされてめっちゃ怖いんですけど。
「あの~、僕の身体、作り替えられたの?」
「はい♪ この世界になじめるように完璧に作り替えられました。なので、すっごい心配したんですよ。調整が馴染まなかったら~とか。下手すると、存在消えちゃいますから。三日寝込まれた時はどうしようかと思いました。まぁ、私は、絶対にそんな展開にさせませんけどね♪」
むふーっと鼻息荒く、腰に手をあて、自慢するように言うアシュビーさん。だから、なんでそんな嬉しそうなのよ。いや、まぁ、悲しまれるよりはいいけど。
「なるほどね。調整はわかったけれど、それと、スマホや、インフラがどう関係するの?」
「はい、そちらなんですけどね。ようは、原理は一緒なんですよ。対象が、魂の乗らない機械な分、成功率も高くて。山田さんの世界から、この世界に、移動させちゃうんです。そうすることで、この世界に合致する仕様に調整されます」
「例えば、ご質問にあった電気。突き詰めると、電子ですね。たしかに、この世界にそれはありません。かわりに、この世界には、魔素と呼ばれるものがあります。なので、スマホは、魔素で動くように調整されますし、インフラも、魔素が送受信できるように調整されるのです」
なるほど、大まかに理解できた。
で、あれば、商材や、環境は問題ないのだろう。どうやって持ってくるのかは、「その時になれば、わかる」らしい。話するより見た方が理解しやすいとのことだ。確かに、詳しく聞きすぎても、僕の頭がパンクする。