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赤い瞳と監察医  作者: スグル
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序章

 この度、初めて小説を書かせていただきます。

 内容から警察、医療、戦時中などに関する知識が必要と感じられましたが、これらの、私が参考にしたものは『踊る大捜査線』や『相棒』や『科捜研の女』、知人の放射線技師さん、そして今年、戦後七十五年目という節目の取材や記事、平野耕太さんの『ヘルシング』、レ・ファニュの『カーミラ』になります。

 捜査や、司法解剖、戦時中に関してはドラマやネットの記事を元に、私の想像で書いておりますゆえ、当小説内の捜査、司法解剖、戦時中の出来事は実際と違うかもしれません。ご了承下さい。そして、このお話はフィクションであり、私の頭の中のお話ですので、実在する人物や団体名、場所、建造物は一切関係ありません。



 昭和二十年三月十日、午前〇時。東京都旧浅草区の某所。

 瓦屋根の、真っ暗な民家に白衣姿の男が入っていった。

「ただいま……って、もう寝てるか……」

「お父さん! お帰りなさい!」

 玄関で出迎えてくれたのは寝間着の浴衣姿の小さな女の子だ。

 この家は父子家庭で、父は浅草で開業医をしており、今年十一歳になる娘は女子挺身じょしていしん勤労令きんろうれいにより来年から近くの工場で働き出す。

 今日本は太平洋戦争の真っ最中だった。

「ご飯あるよ? おにぎり一つだけだけど……」

 娘は慣れた手付きで蝋燭に火を灯した。

「ありがとう。じゃあ食べようかな?」

「うん!」

 たとえ戦時中だったとしてもこの親子は二人三脚で頑張ってきた。

 五年前に母親が病気で亡くなり、家事全般を娘が率先して行っていた。

「あっ。おいで」

 父が手招きをする。

「なあに?」

 娘が駆け寄ってきた。

「お誕生日おめでとう」

 父が差し出してくれたのは銀製のクラシカルな土台に淡い水色の石が、タイルのように嵌め込まれたシンプルなペンダントだった。

「キレイ……」

 娘は目を輝かせた。

「アクアマリンと言ってね、三月の誕生石で幸せをもたらしてくれると言われてる。お前さんももう立派な女だ。着けて見せておくれ」

 娘はすかさず、ケースからペンダントを取り出し、首から下げて父に見せた。

「どう?」

「似合ってるよ」

「いひひっ! ありがとう! 大切にするよ! お父さん」

「……女性が『いひひ』と笑うのはなぁ……」

 父が呆れた顔をした。

「何かこう笑っちゃうんだもん……」

 今日も何時もと変わらない日になると思っていたのに……。

 その時だった。

 ドォオンッ!

 外で何かが落ちてきたような轟音が鳴り響いた。

「なにっ?」

「空襲だっ!」

 父はすぐさま医療道具の入ったカバンを持つと玄関へと急ぐ。

「お父さん! どこに行くのっ?」

 娘が父を引き止めた。

「怪我人がいるかもしれない。お前は防空壕に行きなさい。絶対に『防空法』には従うなよっ!」

「ヤダ! お父さんも!」

「行きさい。ちゃんとお父さんも行く」

「……分かったよ……」

 娘は泣くのを堪えて、父を見送った。直後だった。

 ドオォォオオンッ!

 再度轟音が鳴り響いた。今度のはとても近かった。

「お父さん!」

 堪えきれず、家を飛び出すと浅草の街は火の海と化していた。

 人々は逃げ惑い、上空には暗い夜空の中、爆撃機ばくげっきが何機も飛び交ってはたくさんの焼夷弾しょういだんを振り落としていった。

「お父さぁぁああんっ! どこなのっ!」

 刹那――。

 真上から焼夷弾が落ちてきた。逃げる間もなく娘は爆風で吹っ飛んだ。



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