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遭遇

魔法学園は優秀な王宮魔法士や魔法騎士の獲得を目的に近年、平民からの特待枠を増設した。

特待枠は一定以上の成績を保つ事、卒業後は王宮で魔法の専門職に就くことを条件に無償で学園の授業を受けられるシステムだ。


無償で教養を得られること、卒業後は王宮に引き立てられ、勲を立てれば爵位を貰う可能性もあり志願者は後を絶たないと聞く。


その激しい競争を乗り越え、リーナが合格を手紙で報告してくれた時は屋敷中を駆け回って喜んだっけ。そしてクリスに絞められたっけ。


そう、もうすぐ入学式が始まるからリーナも下町側の門から既に登校してるはず――


――。


「!!」


「どうしました!?お嬢様!」


学園の門を潜り数歩、突如振り向きはるか右側を凝視した僕にクリスの声が張り詰める。


「い……る……」


「一体何がいるのですか」


「り……リーナがいる!!!今確かにリーナの声が!!!」


興奮のあまり思わず袖を掴んだ僕に掴まれたクリスはなんとも間の抜けた顔をした。


「はぁ……?貴方が日々散々仰られている特徴の女性は視界におりませんが……」


「多分裏門と正門の中間あたりだ!」


校舎の裏手に続く道を駆け出そうとした僕の腕をクリスが止める。


「お待ちください、お嬢様。貴方のリーナ嬢への気持ち悪いほどの情熱は理解しておりますが、今一度貴方の入学目的を顧みてください。今此方からか接触してどうするのです」


気持ち悪いとはなんだ!……なんていちいちこいつの戯言に突っかかっていては埒が明かない。

……確かに僕の目的はリーナのいち同級生としてモブに徹し、陰から悪い虫を叩き潰しつつ健やかな学園生活をサポートすることだ。僕の正体に勘づかれる訳には行かない。


何より女装している状態で久しぶりの再会なんてしたくない。姿を見せる時は王子にも勝るカッコイイ姿で婚約を申し込むと決めている。


だが、初日でこの姿を晒してでもこの状況を看過できない理由がある。

「っ、お嬢様!」

僕はクリスの手を振り払い駆け出した。


現在リーナが居るであろう場所、タイミング。これは夢で見た一場面に酷似している。

僕の悪い予感が的中しているならば……。

「敵影発見!隠れろ」

後から追いかけてきたクリスを手で制止し庭園の茂みに身を潜める。

「敵影って……おや、あれはベイジル第二王子。唯の一度も直接お会いしたことも無いのにお坊ちゃまから謂れ無い妬みを受けてらっしゃる方ですね」

そう、あの風貌は社交場に出たことの無い僕でも知っている。王族の証たる輝く金の髪に蒼水晶の瞳、王家の輝石なんて謳われているベイジル・ディアマンド殿下その人だ。

聞いた話によれば彼は童話に出てくる王子様そのもののようだとの評判で、品のある甘い顔立ちに所作は物腰柔らか、しかし武闘派の一面もあり剣も魔法も器用にこなすという。

何でもできる完璧な王子様……そのため周囲からはご婦人ご令嬢方の黄色い歓声が絶えない。また護衛も居るため滅多に一人で居ることは無いと聞いていたが、今は一人のようだ。

僕の印象としてはリーナに近づけたくない奴第1位。

「今なら殺れるのでは……?」

僕はハッとした。

「慎みくださいお坊ちゃま。謀反を起こすおつもりですか」

「冗談だよ、気にするな」

ちょっと思ってみただけだ。私怨で殺人なんて、そんなことしてしまったらリーナに顔向けできない。


落ち着いて、状況を整理しよう。これは夢で見た状況と一致している。きっともうすぐここにリーナが現れるだろう。方向音痴のリーナは講堂へ向かう途中に庭園に迷いこんでしまう。講堂と逆方向へ向かってしまうリーナに、その様子を心配した王子が声をかける……。

つまりこれはリーナと王子のファーストコンタクト!このきっかけも手伝い、印象に残ったリーナは王子に気に入られてしまうのだ。王子殿下とか、なんて高級な虫だよ!?向こうがその気になったら払うのも厄介だ、何としてでも防がねばならない!

「ああ、彼女がリーナ嬢ですね」

僕が闘志を燃やしている間に愛しの守護対象が現れた。

「リーナ……!!夢で見たより千倍可愛い!!」

滑らかで美しい亜麻色の髪を揺らしながら歩いてくる少女がリーナだ。大きく優しげな瞳には今は不安げにさまよい、細く引き締まった脚は自信なさげに歩みを紡ぐ。実際に会うのは8年ぶりだ。幼少の頃から愛らしい女の子だったけど、今ではいっそう綺麗になったなぁ、リーナ。感無量、涙こぼれそう。

「あっ」

僕が一方的な再開の感動に浸るも束の間、リーナが石につまづいた。

僕は本来の目的を思い出した。リーナの体が傾くさまがスローモーションに見える。少し離れた場所にリーナを見て目を見開く王子。どうする?影から守るつもりだったのに…でも僕が行かねばリーナが怪我をしてしまう!迷っている暇はない!

そう思った時には既に体は動き出していた。普通に駆け寄っていては間に合わない距離、だが僕にはクリスに叩き込まれた歩法で瞬時に距離を詰めた。本来は敵に気付かれることなく接近するための戦闘術。こんな所で役に立つとは、身につけておいてよかった!

そのまま倒れ込む彼女の前に腕を差し出ししっかり受け止め支えると、その身体を持ち上げくるりと踊るように体制を立て直させた。

回るリーナは綺麗な髪とフレアスカートが拡がって可憐だ。ガラス玉のような瞳がまっすぐこちらを見つめる。

――しまった、この姿でリーナの前に飛び出してしまった……!モブ令嬢として目立たず陰から守る僕の計画が……。チラと、助けを求めて先程潜んで居た茂みを見遣れば、いつの間にやらクリスの姿は無かった。

「あの……」

おずおずとリーナが口を開く。リーナが僕に話しかけてる!ダメだ僕、取り乱すな。動揺を胸の奥深くにひた隠し、涼しく微笑んでみせる。

「怪我は無いかしら?足元にお気をつけなさいな」

「あ、ありがとうございます!助けていただいて」

通りすがりの令嬢として、何とか不審がられずに済んだようだ。

「君たち、大丈夫かい?」

「ベイジル殿下!?」

おっと遅い王子のお出ましだ。というか、無事だったんだからスルーしてくれればいいものを!

「危なっかしい場面に遭遇したものだからね。怪我が無さそうで何よりだよ、特待生のお嬢さん」

うおおおお勝手に声掛けてんじゃねーぞ!なんて心の声も虚しく、リーナがペコりと愛らしい動作で挨拶を返す。

「は、はい!リーナと申します。第二王子が共にご入学されるお噂は聞き及んでいました。どうぞよろしくお願いします!」

「どうぞよろしく。こちらも……見ない顔だね、どちらのご令嬢かな」

ぐっ、変に目立ってしまうから王子となんてお近付きになりたくないのだが、知り合ってしまった以上名乗らねばならない。

スカートの裾を摘み、度々の変装で板に着いたカテーシーを決める。

「お初にお目にかかります、ベイジル・ディアマンド殿下。わたくしはシャルロット・ソレイユと申します」

「ほう、あのソレイユ家の。貴女のような可憐なご令嬢を隠して居たとはね」

ああ、やはり関心を引いてしまった。それもそのはず、ソレイユ家は嫡子である僕はもちろんのこと、父上も滅多に社交場に姿を表さない。

ウチはディアマンド王国史上最も新しい貴族で、元は外来民族であるがゆえに旧来貴族との軋轢も少なくないのだ。

「お恥ずかしながら、ただの引きこもりなだけですわ」

その謎多きソレイユ家の隠された令嬢が現れたとなれば、誰しも興味を持つのが人間のサガと言うものだろう。平凡な令嬢であることを公然に晒して早々に見限って貰わねば。

その時、講堂の鐘が鳴り響いた。もうすぐ入学式が始まる合図だ。

「式典まで時間がないな。お嬢さん方、迷っていたのでしょう?講堂まで共に参りましょう。着いてきてください」

僕は今後の計画に頭を悩ませながらリーナと共に講堂へ急いだ。

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