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イエコイ  作者: 我有一轍
一章
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五話

 放課後になり、光誠は葵と落ち合うために美術室を訪れていた。


 美術部の活動場所だったが、今日は活動していない。


 ノックをすると、中から葵の返事があった。



「入って大丈夫です」



 光誠は引き戸を開けて入る。


 すっと入ってくるのは絵の具とは違う画材の匂いだった。

 キャンバスは放置され、書きかけのデッサンが完成するのを嫌そうに待っている。



「今日は休みなんだ」


「ええ、ですから貸し切りです」



 葵は、キャンバスに囲まれた台座に腰掛けていた。

 隣にある石膏像と並んでも遜色のない整った顔をしている。

 美術室の照明はなく、カーテン越しに入る光が、ぼんやりとした怪しいドレスを葵に纏わせていた。

 薄闇を身につけた葵の表情は、学校や家庭でも見たことのない裸の顔をしている。

 美術の得意でない光誠でもキャンバスにその姿を写し取りたくなるほどだった。



「あっくんも書いてみますか?」


「え」



 胸の内を読まれたような感覚にぞわりとする。


 葵の顔に表情はなく、目だけが生き生きとし、くっきりと浮き上がっていた。



「いや、いいよ。相談があるんだろ?」


「そうでした。私、ヌードモデルになろうと思うんです」


「は?」


「知りませんか? こういう場所で裸になって絵のモデルになるんです。やってみましょうか?」



 葵が冗談とも本気ともわからないことを言う。


 本気っぽくタイを取り、胸元のボタンを二つほど外した。



「や、やらなくていい!」



 姉の理解しがたい行動に混乱しつつも、これ以上の悩ましい姿は毒だと思った。



「見たくないですか?」



 葵が悲しそうな顔をする。


 されても困った。



「そうじゃない。相談があるんだよな。そのヌードモデルになるっていう進路の?」


「そうなんです。私が裸になったとして、私は描くに値するカラダをしてるか不安で」



 光誠は思わず、葵の胸元を見る。


 光誠だったら迷わずその豊満な胸を描く自信があった。


 家族の中でも、母の藤華紗に次いで大きな胸をしている。


 光誠の手は男子でも大きな方だが、その手から確実にこぼれ落ちるくらいの大きさだと推測できた。



「あっくんは、おっぱいが好きなんですね」


「はっ」



 ジト目の葵が視線に気づき意地の悪い笑みを浮かべ、光誠はばつの悪い顔をする。



「すまん。いや、そうじゃなくて、なんでそういう話をするんだ?」


「大丈夫です。私の調べでは、おっぱいを見る人は天才になります」


「話を聞いてくれ姉さん!」



 葵は、光誠の抗議を受け入れず、得意顔で語り出した。



「歴代の天才は、美しい風景を見たことがあるそうです。その美しい風景を図形として分解すると、三角形か円。あるいは曲線が美しいものの条件になっています。だから、あっくんが大好きなおっぱいはこの要素をすべて持っているので、あっくんは間違いなく天才になります。今すぐ天才になりますか?」



 アップデートを促すオペレーションシステムみたいなノリで、葵がブラウスの胸元を開き深い谷間を覗かせる。


 谷間から視線を引き剥がして顔を見れば、あの悪戯っぽい笑みが極限まで弓なりになっていた。


 からかわれているのだ。



「真面目に話をしないなら帰るぞ」



 光誠は、葵の返事も聞かずに美術室の出口へと歩いた。


 シャっとカーテンを開ける音がする。嫌な予感を憶えて振り返った。


 美術室は二階にある。葵が立つ窓の向こうにも校舎があり、美術室をのぞき見ることは容易だった。


 その窓辺で葵がブラウスのボタンを次々に外しているのだ。



「待った待った待った!」



 光誠は慌てて葵に走り寄り、ブラジャーのフロントホックへ伸びた手を取り上げる。



「なに考えてるんだ!」



 もう片方の手でカーテンを閉め、葵の奇行を問い詰めた。



「やっと近くに来た」



 はだけたままの姿で葵は嬉しそうに光誠を見上げている。


 窓辺だからか気温が高く、葵の咲き誇るような微笑みに反射された熱が光誠の脳を沸騰させた。

 目眩を感じる。

 人間の出せる雰囲気ではない。

 葵の放つ歪んだ感情が、光誠の脳を揺さぶった。

 これは姉弟の距離感ではなかった。

 葵が、男女の距離を縮めようとしているようだった。


 光誠は無自覚にも生唾を飲み込んだ。



「あっくんになら見せてもいいですよ?」



 囁くような声で理性が吹き飛びそうだった。



「あ、う」


「その手を離してくれれば。約束します」



 光誠が、とっさにつかんだ細くすべすべとした葵の柔らかい手のことを今更ながらに思い出す。

 手に吸い付くような肌と肉感が、まだ見ぬ葵の胸を想像させた。


 光誠は誘惑を振り切り、手を離した。


 そして、葵が胸をさらけ出す前に美術室から飛び出した。


 これはなにかの間違いだと自分に言い聞かせた。



「先輩! こっち! 急いで!」



 逃げ隠れできる場所を探していたところへ声を掛けられ、光誠は声の主、瑠璃の誘導に従って上へ上へと登った。


 とにかく葵から距離を置きたかった。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


「いやー、よくわかんないけど、大丈夫?」


「ああ、助かった」



 放課後の屋上は、夏の日差しで熱せられて、快適な場所ではなかった。

 照り返しも有り、一瞬でも姉を異性として見てしまった熱が下がり切らないでいた。



「じゃあさ、助けたお礼にこっちも助けてよ」


「いいぞ」



 光誠は、また告白を受けたのだと思った。



「合唱部の自主練をしてたんだけど」


「ああ」


「どうもキュンってなるような感覚がわからないんだよね」


「そ、そうか」



 キュンってなんだ、と思いつつ光誠は相槌を打った。



「だからさ、先輩。ルリを一回だけギュってしてくれるかな?」



 屋上というのは風の吹き抜ける場所だというのに、瑠璃の意味不明な言葉を流しはしなかった。


 光誠の耳にもしっかりと聞こえた瑠璃の要望を聞き返す。



「なんだって?」


「は、恥ずかしいだから何度も言わせないでよ。だからね、ルリをギュってして欲しいの!」



 上目遣いの瑠璃は、確かに恥じらいの色を見せていて、なんども光誠の目から逃れるように反らしたり合わせたりを繰り返す。



「どうしてそんなことをする必要があるんだ。瑠璃は歌が上手いんだし、そんな必要ないだろ?」


「うう、ルリは今まで男の人と付き合ったことないから、恋の歌とかよくわかんないまま歌ってるの。それで、普通の人は騙せるけど、歌の上手い先輩とかには、ルリがまだ恋を知らないってバレちゃうんだ。それが嫌なの。だから、ギュってして?」



 葵とのこともあり、光誠は瑠璃の言葉に従うことはできなかった。


 今日は何かがおかしかった。


 これまで姉や妹たちから親しくされることはあっても、こんなにスキンシップを求められることはなかった。家庭内恋愛禁止というルールがある以上、こんなことはやってはダメだと言い聞かせる。



「やらないぞ。いくら兄妹とはいえ、これはおかしい」


「ふんだ。じゃあ、別の人に頼むからいいよ」


「べ、別の人?」


「その辺にいる男の人」


「瑠璃、そういうのはダメだと言ってるだろ? また、告白されて追いかけられる」


「なら、その人と付き合う。それなら文句ないでしょ?」



 兄として見逃せない精神状態だった。

 なにかを埋めるために付き合うというのは、立場の優劣ができてしまう。

 相手は瑠璃を好きなだけむさぼり尽くすだろうと妄想が膨らむ。

 とても健全でない被害妄想だった。

 世の中の男性が悪人ばかりではないのに、光誠の妹に手を出す男はみな悪人に見えてしまう。

 相手の言いなりになるだけの瑠璃を想像し、光誠は瑠璃を放っておけないと結論づけた。



「それもダメだ」


「じゃあ、ルリはどうしたらいいの? お兄ちゃんは、ルリの歌がバカにされたままでいいの?」



 お兄ちゃん呼びに戻っているルリの精神に気づかず、光誠は提案した。



「一回だけだ。一回だけならやってやる」



 苦渋の決断だった。


 歌のためだという大義名分がある。

 やましい気持ちもない。兄妹でやるのはおかしいという指摘にも耐えられる。

 そういう計算が働いていた。



「ホントに?」


「ああ」


「え、どうしよ?」



 今度は、瑠璃が動転し始めた。


 兄が、折れるはずはないと思っていたらしい。



「やめとくか?」


「う、ううん。お願いします」



 瑠璃は、か細い声で返事をする。

 胸元で祈るように手を握り合わせたまま体を硬くしていた。

 そうなると華奢な体がより小さくなり、光誠はギュッとするのに躊躇する。


 光誠は誰かに見られたら、人生が終わるという崖っぷち感で卒倒しそうだった。


 目を見開いて、今か今かと待ち続ける瑠璃を包むように腕を回す。



「ぅ」



 普段からは想像もできないほど小さな声で、瑠璃がうめいた。



「い、痛いか?」


「ち、違うの。もうちょっと強く、して、欲しい、かな?」



 さらなるリクエストに光誠は頭がおかしくなりそうだった。

 今抱きしめているのは、半分だけ血の繋がった妹だ。

 半分といえども妹だ。

 それなのに腕の力を強くしたい衝動に駆られた。

 胸板に押しつけられた瑠璃の体を絞るように抱きしめる。

 鯖折りにならないように瑠璃の反応を見ながら続けた。


 瑠璃は、光誠の顔を見たまま固まっていたのが、光誠の腕に圧迫されるうちにふにゃふにゃと力が抜けていく。

 膝から力が抜けて、とうとう立っていられなくなり、ヒンジラインのように光誠が抱き留めることになった。



「お、おい! 大丈夫か瑠璃!」


「は、はひ」



 呂律の回らなくなった瑠璃を抱き起こし、塔屋の壁を背もたれにして座らせる。


 呆けたようになってしまった瑠璃の隣に腰掛け、光誠も高鳴る鼓動を休めた。

 妹とは言え、女の子を初めて抱きしめるのは刺激が強すぎた。


 二人で屋上の風に吹かれていると、兄妹であることがだんだんと思い出されてきて、どちらともなく笑い出した。



「なにをしてるんだか」


「ホントだよ。お兄ちゃんのくせにドキドキしちゃって」


「き、聞こえたのか?」


「うん。すっごい緊張してたね」



 妹に緊張を悟られるというのは癪だったので、復讐とばかりに問い返した。



「それで、キュンとなるのは理解できたのか?」


「ふぇ!」


「いや、それが知りたくてギュっとされたんだろ?」


「そ、そうだった! うん。よく憶えてないけど、たぶん大丈夫だよ。うん」


「もうしないからな」



 妹の頼みとは言え、やるべきではなかったと後悔し始めていた。

 離れて暮らしていたからといって、兄妹が他人になるわけもなく、まして血のつながりが消えるわけもない。

 それなのに、光誠は瑠璃をもっと抱きしめたいと感じていた。


 瑠璃が意外そうな顔をしている。



「なんだ?」


「本当はしたいでしょ?」



 光誠の心臓に矢を打ち込むような目で、瑠璃が言う。男性心理をまっすぐに言い当てた。


 それは兄へ向けるような言葉ではないはずなのに。



「も、もう行くからな。自主練、頑張れよ」



 光誠はそういって立ち上がった。

 立ち上がって、再び逃げねばならなかった。

 光誠の中に芽生えたあってはならない感情を瑠璃に見られたような気がした。


 瑠璃の目が訴えていた。


 私はしたい、と。


 妹の中に、そんな感情があることなど知りたくなかった。


 光誠は屋上から一階まで一段飛ばしで降りていき、下駄箱へ急いだ。

 家庭内恋愛禁止というルールのない学校が、恐ろしかった。

 一刻も早く家に帰り、葵や瑠璃と兄姉妹に戻りたかった。


 そんな光誠が下駄箱へ息を切らせてやってくると、また妹がいた。



「兄さん。今、帰りか?」



 紫織が待っていた。


 光誠が見た限りでは、紫織からは光誠をどうこうしようという雰囲気はなかった。

 船長を待つ船のように碇を打っている。



「ああ、帰るところだ」


「少し手伝って欲しいことがあるのだ」



 さして困った様子でもなく、他意もなさそうな顔で言うので、光誠は紫織なら大丈夫だと思えた。

 悪いと思いつつも、紫織が女性らしい行動をするところが想像できなかった。


 光誠は、紫織につれられて科学室へと寄り道することになった。


 科学室には人がおらず、光誠は二人きりの状況に危機感を覚える。

 思い過ごしかもしれないと言い聞かせた。紫織は、葵や瑠璃のようにはならないと思いたかった。


「棚の上に検査キットがあるんだが、降ろしておいて欲しいと先生に頼まれた。でも、誰も届かなくて、私の兄さんが背が高いと言ったら任されてしまったのだ。すまない」


「そ、そうか。そんなことなら気にしなくていい」



 薄情な科学部の連中を少し恨みつつ、光誠は安心していた。

 紫織に不純な目的はなかった。

 疑ってしまったことを心の中で反省する。


 教室の天井ギリギリまである薬品棚の上に、段ボールの箱が一つ乗せてあった。

 椅子に登ったとしても、紫織やそれより少し大きいだけの人間には届きそうになかった。



「慎重に頼むのだ」


「ああ」



 父親譲りの百八十センチの背丈を使い、検査キットと呼ばれる道具が入った段ボール箱を慎重に持ち上げて、丁寧に作業台の上に降ろした。


 紫織が、絞った雑巾で箱の埃を拭き取り、手を洗ってから箱を開けた。



「どうだ?」


「うん。壊れてない」


「なんの検査キットなんだ?」


「細胞の染色体を見る薬品や道具一式だ」


「へー」


「これで細胞を取って、薬品でバラバラにして、色を付けるのだ」



 綿棒の入った筒を見せながら、紫織が説明をする。

 その熱心な姿は、光誠の心にあった悪感情を洗い流してくれるようだった。



「そうなのか」


「うむ。あ、そういえばサンプルも用意するんだった」


「サンプル?」


「ほっぺの細胞なんだけど」


「ん?」



 紫織が中途半端なところで言葉を止めた。手元にある綿棒の入った容器を見つめたまま固まっている。



「兄さんの細胞を分けてほしいのだ」



 性格に光誠の目を捉えると、真剣な眼差しで訴えた。



「え」



 紫織の頼み事は独特だ。独特でまともだった。



「別にいいけど」


「助かる!」



 興奮したように声を上げた。

 椅子を運んできて光誠を座らせると、シャーレを持ってきて細胞を取る準備を整える。



「口を開けてほしいのだ」


「自分でやるけど」


「私が言ったから、私がやる!」


「わ、わかった」



 スイッチの入った紫織に押し切られて、光誠は口を開けて口内を綿棒でかき回された。

 頬の裏側を小さな塊がぐりぐりと動き回るのでくすぐったかった。



「う、動かないでほしいのだ!」


「ひゃあい!」



 紫織が、口腔くすぐりに免疫のない光誠の頭を左腕で抱きかかえる。


 ひんやりとした紫織の手が光誠の目を隠した。


 真っ暗になった視界で、光誠は情けない返事をした。

 身に起きた出来事に混乱していたのである。


 なぜなら、光誠の顔の右半分が紫織の胸に沈んでいた。

 右耳がブラウス越しの柔らかい塊で塞がれている。

 下手に動けば、よりその柔らかさを堪能することになってしまい、忍の一字を決め込むことにした。


 身もだえしないように耐えていると、ふいに紫織の手が止まった。

 細胞を取った綿棒を持ったまま光誠から後ずさっていく。

 その表情はびっくりしたような顔で固まっていた。


 光誠もまた、それが胸を押しつけていたことに気づいた顔だと理解する。

 無意識な分、光誠としても反応に困る出来事だった。


 二人で固まっていると、下校時間を告げる放送が入る。



「か、帰るか?」


「う、うむ」



 紫織は光誠の口内から取った細胞をシャーレに塗りたくり、薬品もつけずに冷蔵庫へとしまった。


 光誠は、荷物を教室に置いてきていることを思い出し、校門で待つように紫織へ言ってから教室へ戻った。

 それは言い訳で、少し紫織から距離を置きたくなった。

 今日一日で、姉妹たちから、これまでにない感情を向けられていると感じた。


 教室へ戻ると、窓の戸締まりを確認する生徒指導の教師がいた。

 根っからのラガーマンで光誠よりも背が高く、筋肉の塊かと思うほど鍛えてあった。



「日高! こんな時間になにをしている?」


「す、すいません。色々と野暮用がありまして」


「下校時間だ。さっさと帰れ」


「はい。失礼します」


「あ、待て」


「はい」



 帰れと言ったり、待てと言ったり面倒な教員だった。



「今日の戦績はいくつだ?」



 面倒な理由はこれだった。

 光誠が、姉妹たちに告白する男子たちを返り討ちにすると、その人数を確認してくるのだ。



「四人です」


「そうだな。保健室の先生からもそう報告が来ている」


「はぁ」


「毎度のことだが、姉妹たちには穏便な断り方をしろと言っておけ。保健室が失恋した男子のたまり場になっていて、女子が休めないとクレームが来ている」



 姉妹に直接言って欲しかった。



「いいな。日高」


「はい」



 光誠は、荷物を取りに来ただけなのに余計に疲れた。


 光誠が校門へ向かうと、姉妹の三人と同級生の美奈星が待っていた。



「美奈星も帰りか」


「うん。朝練やったからね。居残りはナシになるんだ」


「そうか」



 美奈星は姉妹たちとは違い、なんの緊張もなく話せる相手だった。



「ん? なんだ?」


「はぁ、なんでもない」



 単なる友人ではない女子は、光誠を熱心に見つめたあと溜め息を吐く。



「みんな揃いましたし、帰りましょう」



 葵の呼びかけで、一家で下校する。



「ねぇ」



 美奈星が声を潜めて、光誠のワイシャツの裾を引っ張った。



「ん?」


「今日、大丈夫だった?」



 光誠は心臓が止まりそうだった。

 まるで姉妹たちとなにかあったと知っているような問いかけだった。



「あ、ああ」



 じっと光誠の目を見て嘘がないか探るような間があった。



「そっか」



 光誠の答えに美奈星が安心したように表情をリラックスさせる。



「ふぅー」



 それから急に気合いを入れ直した。

 恋人の意味不明な行動に戸惑いつつ、肩を並べて歩くことに満ち足りた気持ちになる。


 二人が付き合っていることを姉妹たちは知らない。


 姉妹たちと妙な距離感になってしまったことを美奈星は知らない。


 家に帰る足取りは、軽くなったり重くなったりと忙しなかった。

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