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ブライトウィン3

 カレンとアリスは木の上から目的の廃屋の内部を確認すると、四つの人影が向かい合って立っているのがわかった。そして建物の正面には三人の見張りの男もいる。


「さぁ、お姉ちゃん。アリス行ってきまーす!!」


 カレンがどうやって攻略するかを考えていると、アリスが突然木から飛び降りて正面の見張りへと突進していく。


 その速度は凄まじく、見張りの男達が気付いた時には既に全員がアリスの剣の間合いに入っていた。


「!!」


 男達が声を上げる寸前に、鞘から抜かれた黒い刃が走り、その直後には三人とも地面へと寝そべっている。血が出ていない事から峰打ちによる気絶だろう。


 上手くいった事にテンションが上がったのか、アリスはそのまま廃屋のドアを蹴破ろうと足を上げる。そして勢いよく前蹴りをくりだしたのだが、その足はドアに届くことはなく空振りに終わってしまった。


「いてて……お姉ちゃんなんで邪魔するのよ」


「バカアリス! なんでも正面から行けば良いってもんじゃないでしょ!! 確認した他にも敵が潜んでるかもしれないし、罠も張られてるかもしれないのに」


 寸前の所でアリスの身体を引っ張り、正面からの突入を回避したカレン。


「先ずはこっそり侵入して、話してる内容を聞いてみようよ」


「おぉーさすがお姉ちゃん。なんかスパイっぽくて楽しそう」


 わくわくした様子のアリスに若干呆れながら、カレンは魔法『幻惑霧(ミラージュミスト)』を詠み、二人の姿を周りから見えなくする。


「ちゃんと近くに居てね。効果範囲一メートルくらいしか無いんだから」


「はーい」


 二人は廃屋の裏手に周り、二階の壁面に穴が空いている事を発見する。そこからであれば、こっそりと一階にいる内部の人間に近付ける事が出来そうだった。


「じゃぁあそこから入ればいいんだよね?」


 満面の笑みを浮かべるアリス。その顔に不安しか湧いてこないカレン。


 一旦アリスを落ち着かせようと思ったカレンが言葉を発するよりも早く、お転婆な妹は行動を開始してしまっていた。


 アリスに腰を抱えられたカレン。次の瞬間、自身の身体が重力に逆らい天へと向かうような感覚。思わず声を上げそうになるが目を閉じ、ぐっとそれを飲み込む。

 

 そして次に目を開いた時には既に廃屋の二階に侵入し終わっていた。


 つまり、アリスがカレンを抱えた状態で二階まで跳躍してみせたのだった。


「な……なんて出鱈目な馬鹿力……」


「転道してから力がついちゃったみたいで」


 照れた顔で頭をぽりぽり掻きむしるアリスを見てツッコミたくなるカレンだが、大声で侵入をバラす訳にもいかず、再びぐっと堪えた。


「とにかく……さっさと奴らに近付いて話を聞かせて貰いましょ。ここからは一切お喋り無しだからね!」


 口を抑えコクコクと頷くアリス。やはりフラグを立てているようで不安しか感じないアリス。


 こうして二人は足音を立てないようにして、黒いローブを纏い、そのフードで顔を隠した四人がいる部屋へと侵入した。


(やっぱ侵入には幻惑霧(ミラージュミスト)はもってこいの魔法だね)


(役に立つってことは使い方によっては悪い事にも使えるって事だけどね。今度俺もこの魔法でカレンのお風呂を……)


(シっ!! うるさいよネコモドキ!!)


 声が十分に聞こえる場所まで近付くと、そこで二人の姉妹は身体を寄せ合い、その内容を盗み聞きし始めた。


 そこでは二人が話し合っており、残りの二人は黙って立っている。その声から二人は男であると判断できる。


 状況は大柄な男が、小柄の声を聞くに老年期の男から血を受け取った様だった。


「今回も1本だけか」


「そんな簡単に調達出来る代物ではありませんからのお」


「このペースじゃ間に合わんぞ。アノお方は期限までに200人分の血をお求めだ」


「無茶をお言いになる。ブライトウィンで血を調達しようと思ったら、一箇所でしかほぼ不可能なのですぞ? そこがどういう場所かを考えればそんな事言える筈もないと思うのですがな。」


「ふん。確かにそうだが、アノお方の希望に答えられなかった時には、貴様も唯では済まないと思うのだが」


「それは分かっておりますよ。間もなく大陸に四つ存在する魔法技学園が一同に介する『大魔法技大会』が開かれます。そこで一気に不足分を補うべく計画を進めております。大会に出場する優秀な魔法使いの血ならアノお方もきっと喜んで下さる筈じゃ」


 大柄の男は少し考え込んだ後で一応の納得をした様子を見せる。


 カレンはそろそろ捕らえる頃合いと思い、アリスに合図しようとするのだが……。


「へくちっ!!」


 やはりアリスがやってしまった。くしゃみをして侵入をバラしてしまったのだ。


「誰だ!!」


 声の方へ叫んだ後、そこからの敵の動きは迅速だった。大柄の男は自身の背後に風属性の魔法を放ち、廃屋の壁を吹き飛ばす。そして小柄な老人は自分達の前方に炎の壁を生成した。


 灼熱の壁により、男達が見えなくなってしまうカレンとアリス。しかしそれでは終わらない。更にはその炎の壁から、先程から話し合いには参加せずに、ずっと後ろで控えていた二人が現れたのだ。


 二人が燃えているローブを脱いでから投げ捨てることで、その素顔が明らかになる。


「?!」


 二人が先程の老人と同じかそれより少し低い身長であったことから、子供である可能性は考えていたカレン。そしてそれは的中していた事が判明した。


 さらに、その二人の子供は全く同じ顔。


「双子……」


 アリスが呟く。


 身体で燻る火を手で叩き消しながら、二人の子供が歪んだ笑顔を浮かべながら初めて声を発し、姿の見えないアリスの発言を否定した。


「双子? 違うよ。僕達は一人だよ。名前はルルラムって言うんだ」


 寸分違わぬ唇の動き、どちらからも確かに発せられているのに一人分にしか聞こえない声。


 その異様さにカレンは不気味さを覚える。


「一人じゃないじゃん。二人じゃん。ただの双子でしょ?」


 しかし、アリスは何とも思っていないようで、幻惑霧(ミラージュミスト)の範囲外へ出て姿を現すと、正論で返した。


「違うって言っているのに、お姉ちゃん頭悪いの?」


 突然現れたアリスに驚く事なく、ルルラムは見事に声をユニゾンさせながら、クスクスとアリスを小馬鹿にする。


 そしてカレンはここで魔力を温存するため、ほとんど無意味になった幻惑霧を解除する。


「明らかに二人なのに一人って言ってる方が馬鹿じゃん。あー、でも子供だから仕方ないよねー。だって、丁度アレでしょ? 厨二病」


(な、なぁ、今日のアリス滅茶苦茶喋らないかい?)


 えらく饒舌なアリスの態度に違和感を覚え、セロがカレンに問う。そして、その意見はカレンも全く持って同感だった。口調もいつもの彼女のものとは少し違う。


 そして、カレンの違和感はアリスの顔を見て更に大きくなる。


 ルルラムと名乗った二人を、今にも殺してしまいそうなほど鋭い目つきで睨みつけていたのだ。

 それはまるで、ゲールとの一件で対峙した時と同じ、本気でカレンを切ろうとしていた時の顔と同じだった。


「君達みたいな悪い子供はお仕置きが必要だね。お姉さん、怒ると怖いから覚悟してね?」


(この子達が悪者ってのはわかるけど、一体何にブチ切れてるのよこの子……)


「ちょっと、アリス落ち着いて!」


 ギロッ。


お兄ちゃん(・・・・・)は黙っててくれる?」


 なだめようとしたカレンにもとんでもない殺気が向けられる。


(アリス本当にどうしたのよ……)


(いや、そこじゃない。今アイツ……)


 セロがそこまで言ってからカレンもハッとする。そして、カレンとセロはルルラムに劣らぬユニゾンを脳内で決めたのだった。


(今、お兄ちゃんって言った!!)

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