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ブライトウィン1

 カレンの肩に、白くふんわりとした小さな塊が落ち、それが瞬く間に水となって消える。次にそれは鼻先を濡らし、そのひんやりとした刺激を受けてカレンは空を仰いだ。


「雪だ……」


 灰色掛かった空。そこからは無数の白い雪が舞いながらゆっくりと下降してくる。


「こっちでもやっぱり雪が降るんだ」


 店の前を箒で掃いていたカレンであったが、身体の冷えに耐えきれず、清掃そこそこに店の中へと戻る。


 店内は火の魔機(マキナ)によって暖かく保たれており、カレンの頭や上着の肩に積もり初めていた雪は、瞬く間に溶けてなくなってしまった。


「あ、お姉ちゃん。外寒かったでしょ? 大丈夫?」


 アリスが商品の陳列棚を拭きながらカレンヘ声をかける。


「うぅー。滅茶苦茶寒いよ外。雪まで降って来ちゃったし。これは今日はお客さんこないかもね」


 雪と聞いたアリスは掃除の手を止め、上着も着ずに一目散に外へと出ていく。

 カレンはそれを特に咎めることもなく、店内に置かれたテーブルに腰を掛けた。



 アリスとカレンが店を始めてから数カ月、季節はカレンにとって始めての冬を迎えていた。店の経営はまずまずで、二人が生活していくには十分な稼ぎを上げていた。


 巷ではこの店『ワンダーランド』の幸運のアクセサリーは小さなブームとなっており、ブライトウィンを歩けばかなりの確率で身に着けている人を見かける程だ。セロの提案は見事に当たったと言える。


 ただ、幸運というキーワードやデザインだけで繁盛している訳でもない。女性向けの商品が殆どというラインナップにも関わらず、男性客が半分を占めているのだが、その理由は店主である美人姉妹の集客力、とりわけカレンの魅力によるものだ。


 店でアクセサリーを購入した客が、そのままカレンへと告白と共にプレゼントしようとしたのは一人や二人ではない。


 もちろん、カレンが受け取る筈も無く、男性客は見事に撃沈していくのだが……。その後、購入したアクセサリーがどうなったのかは、彼女も気にはなっている。


「雪なんて久しぶり過ぎて、なんだかアリス嬉しい! あとで積もったら雪だるま作ろうよー」


 店内に戻ってきたアリスは、頬を赤く染めながら冷たい手でカレンの腕に抱きつく。


「お店開けなきゃ駄目だからそんな暇ないでしょ」


「ぶー。けちー」


 客が来ないだろうと言っておきながらカレンが断るのは、実は彼女、生粋の寒がりなのである。アリスのはしゃぎ様とは反対に、寒い中で冷たい雪で遊ぶなど、どこが楽しいのかもわからない。


「ほら、そろそろ時間だからお店開けよ」


 なにやら文句の止まらないアリスを無視し、カレンは店を開店したのだった。




「今日は本当に暇だねぇ……もうお昼なのに全然人来ないよ」


「そうだね。少し早いけどご飯食べに行こうか。どこがいい?」


「アリスはR&Nのカレー!!」


 この寒い日にスパイスの効いたカレーも悪くない。カレンもその案に賛同し、一旦店を閉めてR&Nへと二人は向かった。




 カレンとライラはブライトウィンに戻ってからすぐ、アランの件で迷惑を掛けた事についてR&Nへ謝罪をしに行っていたのだが、店主のロイドと、その妻ロリメイドのカトリーヌは、深々と頭を下げる二人を全く咎めること無く許してくれた。

 それどころかロイドは二人に対して、また働いて欲しいとまで申し出てくれ、ライラはそれを受け入れ、カレンはアリスのこともあり丁重に断ったのだった。

 カレンの集客力を逃し、少し残念そうなロイドであったが、カトリーヌに説得され渋々諦める事を決めたようだ。


 それ以来、カレンとアリスは時々、ロイドのカレーを食べにR&Nを訪れている。


「ん〜やっぱりロイドさんのカレーは絶品だね」


 カチャカチャと音を立てながら、大盛りのカレーを次々と口に放り込んで行くアリスを横目に、カレンはカトリーヌと話している。


「お店、順調なの?」


「はい、お陰様で二人で食べて行く位はなんとか」


「それは良かったわ。まぁその分うちは、カレンさんが去ってから売り上げ激減だけどね〜」


「うぅ……ごめんなさいカトリーヌさん……」


「嘘よ、嘘。真に受けないで!! うちは大丈夫よ。こんな寒い日でもこれだけのお客さんが来てくれるのだもの」


 子供とも見えなくなはない小柄な身体で両手をいっぱいに広げるカトリーヌの背後には満席の店内が広がっている。


「確かに。これなら全然大丈夫そうですね。うちの場合、ず〜っと寒さが続いたら潰れちゃうかも」


「あら、ずっと寒さが続くなんてことは絶対ないけど、そうなったらアリスちゃんも連れて、またこのお店で働いてくれれば良いのよ。あ、お客様がお呼びみたい。ゆっくりしていってね」


 そう言ってカトリーヌが自分達のテーブルを去った後、カレンもカレーをゆっくりと味わう。スパイスが身体をポカポカと温めて行く感覚に、なるほど冬こそカレーだな、と思いながら一気に完食したのだった。


 お金をテーブルに置いて、厨房のロイドに手を振ってから店を出る二人。未だやまない雪の中、二人は身体を寄せ合いながらワンダーランドへと帰っていくのだった。


出張が続き、更新頻度が落ちてしまっています。

お待ち頂いている方には大変申し訳ございません。


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