日常へ2
「中々良い所じゃないか。店舗側もとても雰囲気が良い」
「人通りもそれなりにあって、治安も良さそうだね」
合流したライラと共に、シグか新居の中を一通り見回ってから言う。
カレンとアリスの新居。それはメインストリートから一本外れた、しかしそこそこ人通りの多い通りにある、一軒の店舗兼自宅として建てられたものだった。
カレンは日常に戻るにあたり、魔法技学校を辞めることを決めていた。何故なら彼女が学校に通えば、その間アリスを一人にしてしまうことになってしまうからだ。そして、『R&N』の様に外に働きに出る事も同様の理由から出来ないと考えていた。
そこで考え出したのがアリスと一緒に商店を営む事だった。
この結論を伝えた所、ライラからは猛烈な反対に遭い、自身も学校を辞めるとまで言い出す程だったのだが、最後は彼女も納得してくれた。
「お姉ちゃん!! アリスもここ気に入ったの!! 早くお店始めたいね」
はしゃぎながら言ったアリスの何気ない一言で、ライラは思い出したかの様に一つの疑問をカレンへと投げ掛けた。
「そう言えばカレン。アンタ、ここで何を売るつもりなんだい?」
「え?」
その質問に虚を突かれたかのように、目を点にするカレン。
この時、その場にいる彼女以外の誰もが思った。アリスまでも……。
ーーまさか。
「もしかしてアンタ……」
「え?!」
相変わらず目が点のカレン。
「お、お姉ちゃん、もしかしてお店で売る物決めてない……の?」
「アハハハ。ちゃんと考えてるってば!! ちゃんと……」
この反応は、考えていないんだな。そう誰もが思いこの先に不安を感じるのだが、それ以上追求する者はいなかった。
持ってきた荷物を片付けシグが去った後、残った三人はテーブルで紅茶を飲みながら団欒する。
いつの間にかセロも余った椅子の上でミルクを舐めていた。
「さっき話してた売り物なんだけど……一つ思いついたモノがあるんだけど……」
髭についたミルクを小さな前足で拭き取りながらセロが言う。
「アクセサリー見たいな装飾品に幸運を籠めてはどうかな?」
「幸運を込める? それは幸運の魔機を作るってこと?」
「あぁ、そうさ。空属性の魔法を込めれば可能だよ。空属性魔法は時空に干渉する魔法ってのは知ってるよね? それはつまり因果にも少なからず干渉出来るんだ。ただ、いくらカレンの魔法の才能とはいえ、干渉出来る因果なんて極めて微々たるものだから、少し運が良くなる程度だけどね。人によっては実感すら出来ないこともあるレベルさ」
空属性魔法。それは以前、カレンがアリスと戦った際に用いた『断空』と同じ。その属性を使えば人の運も上げることが出来るそう。
「それ、とてもいい考えだよセロ!! ぜひやってみようよ」
こうして何気ないセロの提案は採用され、カレンとアリスは幸運のアクセサリーショップを営む事となったのだった。
但しそれは、あくまでも表の顔として。彼女達は聖黒。指令があれば闇の存在として、この国に蔓延ろうとしているリズの勢力を駆除しなければならない。
表と裏、二つの顔を持つカレン達の生活はこうして幕を開けたのだった。