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日常へ

 仕事に向かう者や学校に向かう学生が行き交う、ブライトウィンのメインストリート。通り沿いの商店では、開店に向けて商品を陳列したり、店の前の掃除をしている。


 そんな人の往来をどこか懐かしそうに見つめる三人。カレン、ライラ、そしてシグは約三ヶ月ぶりにこの街へ帰ってきていた。


「人がとても沢山だね。お姉ちゃん」


 カレンの背後にピッタリと張り付き、顔だけをキョロキョロと動かしながらアリスが言う。


「そうだね。これからアリスもこの街で一緒に暮らすんだよ」


「楽しそうな街だね! お姉ちゃんと一緒なら何処で暮らしてもアリスは幸せだけど」


 街へ入ってから、終始嬉しそうに声を弾ませるアリス。これからの生活が楽しみで仕方ないのだろう。


「さて、アタシは一度家を見てくるよ。アンタ達ももシグさんの家に一度帰るだろ?」


 久々の自宅に戻れるというにも関わらず、ライラはどこか憂鬱そうだ。それもそのはず。この街から逃げ出す時、ライラの家にもゲールの刺客が送り込まれ、家の中を荒らされているのは確実だったからだ。


「そうだな。取り敢えずある程度家を整理してから、午後にもう一度集合してカレンの新居に向かうとしよう」


 シグの提案を聞いたアリスが口を膨らませて、その間違いを指摘する。


「お姉ちゃんの新居じゃないの!! お姉ちゃんとアリス、二人の新居なの。ねー、お姉ちゃん?」


「そ、そうだね…あはは」


 突然話を振られ苦笑いで取り繕うカレン。そして、シグは今までカレンには感じなかったやり辛さをアリスに対して感じていた。


「じゃぁまた後で」


 暫くその様子を見ていたライラであったが、少し小さなため息を吐いてからそれだけ言うと、自宅へと帰って行くのだった。




 ブライトウィンへの帰還を果たした三人とアリスであるが、その経緯を知るには少し遡る必要がある。


 ステイルがアリスとカイトを連れてアジトに戻った日。カレン達聖黒のメンバーは彼から今後の計画について説明を受けた。


 まずはゲールの死について。ゲール亡き後、彼の領地には新たな領主が立てられる事となった。禁忌自体は伏せらた上で、国家を転覆させかねない反逆行為が判明したとして処刑された事となっている。また、彼の一族や関係者にも厳罰が下された。

 

 次にカレン達について。


 カレン、ライラは聖黒や禁忌といった、一般には知られていない『裏』について知ってしまっている。つまり只の一般人として生活させる訳には行かないと言うのがステイルの結論だった。彼女達に選択肢はなく、今後も聖黒の一員である事を強要されたのだ。しかし、その点に二人は異論は無かった。


 そしてステイルは、カレンとライラにはシグやフォンの様にブライトウィンに潜伏して生活するよう命令したのだ。


 つまり普段は一般人に紛れて生活し、命令があった際に作戦へと参加する。秘密さへ漏らさなければ情報収集の一貫として、再び学校に通うも良し、働くも良しとのこと。


 これに二人は抱き合って喜んだ。一部制限はついたものの、当初の目的であった、命と自由をゲールから掴み取ることが出来たからだ。


 そしてアリスの処遇について。


 カレンに依存した状態のアリスを引き離す事は、彼女の心の修復こ妨げになるというカイトの進言をステイルが聞き入れた形となった。

 つまり、アリスもカレン達とブライトウィンで生活する。


 そして、これはカレンが言い出した事であるのだが、彼女は今暮らすシグの家を出て、新たに家を借りアリスと共に暮らしたいと言ったのだった。


 シグと暮らす家。そこに戻ってきたカレン。逃げる様に出て行ってから、もう数年は経過したのではないかと思えた。実際には数カ月であるにも関わらず。


 シグはリビングをの散らかり様を見ながらため息混じりに言いその場を片付け始め、カレンは二階の自室へと向かい片付けがてら引っ越しの為に私物をまとめ始めた。


(うーん。シグと気まずい……)


(気にしすぎじゃないのかい? 今生の別れでも無いんだし、しかも近くに住むんだろ?)


 セロの言う通り、聖黒の用意した引っ越し先はシグの家から歩いて十分程の近場だった。だとすると、このシグとカレンの噛み合わなさと言うか、気まずさは何なのか。


その理由は簡単だ。


 二人がお互いを家族と認識するが故に、別居に対してなんとなく寂しさを感じているに過ぎなかった。


 アリスも家の片付けを手伝ってくれたため、午前中には家の片付けはほとんど終わった。


「こんなもので良いだろう。さぁ、ライラが来ても良いようにお前達の新居へ向かうとするか」


 そうして三人はシグの家を後にしたのだが、出掛け、カレンは玄関でシグを呼び止めた。


「シグ、今までの一緒に暮らしてくれてありがとう。そして……ご近所なんだからこれからも宜しくね! たまにシグの作ったスープ食べに来るから」


 シグはフッと小さく笑う。


「あぁ、いつでも歓迎だ」

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