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アムス王

「頭を上げろステイル。大体の話は分かった。しかしゲールが殺されてしまったのは痛手じゃな」


 その言葉に従い頭を上げ、スティルは目の前の玉座に座している老人へと目をやる。


「申し訳ないアムス王。しかし、ドルガと言う男は超級魔法をも行使する強者。この娘、アリスとの戦闘で消耗した部下達では、太刀打ち叶わぬのも仕方ないかと」


 スティルにアムス王と呼ばれた老人は、両腕を拘束された状態で目の前に跪くもう一人の人物、アリスへと視線を移した。


「転道者の娘か……。お前と同じじゃなカイト。ゲールが転道者まで囲っておったとは」


 アムス王は玉座の横に立つ男に声をかける。


「ゲールの所有の屋敷を捜索した結果、大量の戦闘用魔機(マキナ)が発見されています。それに魔法使いのモノと思しき血液もね」


 眼鏡を直しながら答えるカイト。その目は細く、常に笑っている様な印象を持つ青年。彼は続ける。


「捕えた者達によると、そのお嬢さんはゲールの側近だったようです。彼女に聞けばあの者が何を企んでいたのか分かるかもしれません」


「それはそうなんだが、この嬢ちゃんは抜け殻みたいになっちまっててな、何を話しても反応すらしないんだ」


 確かにアリスの瞳には光がなく、自分の話が目の前でされているにも関わらず、全く反応を示さない。


「そうですか。心を病んでいるようですね」


「なんでも、ゲールから教育(・・)とか言うのを受けて……」


「いゃぁぁぁぁ!!! アアアぁぁぁ!!!」


 ステイルの説明が終わる前に、これまで無反応だったアリスが突然叫び出した。


 そんな彼女を見てアムス王とステイルの二人は驚いている。しかし、カイトだけは冷静沈着。彼は叫びながら泣きじゃくるアリスの元へゆっくりと歩いて行くと、彼女の前で膝を付き、自らの手を彼女の額へと当てる。それだけでアリスの咆哮は治まった。


「……」


 さらにカイトが何かを耳打ちすると、彼女の四肢の力が完全に抜ける。床に頭をぶつけない様に彼はアリスの身体を支え、ゆっくりと床へ寝かせてやったのだった。


「ステイル様、無神経ですよ。トラウマを刺激するなんて。それじゃ女性におモテにならないのでは」


 相変わらず笑顔の様な表情は崩さずに、ステイルの失言を諫めるカイト。


「す、すまない。つい口走ってしまった。だが、モテないってのは一言多いだろう」


「おっとこれは失礼致しました。言わずにはいられない性分でして。だから私も女性にはモテないのですよ」


 この人を食った様な態度。謝罪する気のない謝罪。スティルは笑顔を崩さない目の前の青年の事が以前から苦手だった。


「ステイル、カイトよ。これからどうするつもりじゃ」


「そうですね。取り敢えずこのお嬢さんを私に一週間程預けて頂きましょう。心に深く食い込んだ楔を少しでも抜いてあげることで、話してくれるようになるかもしれません」


 そんな事が出来るのか。スティルの疑いがカイトへ伝わったのだろう。


「私、転道前は医者でして。それも少し特殊なね。どちらかと言うと彼女の様な症状は専門分野なのですよ。

 ステイル様は治療の間、古巣でゆっくりとお寛ぎ下さい」


 いちいち要らない言葉を会話に混ぜてくる男に少し苛立ちながらも、渋々カイトの言う事に従うステイルであった。


「あまり長い時間人払いしておくと周りが煩いのでな、今日はそろそろ終わりとしよう。取り敢えず禁忌関係は伏せた上で、ゲールは犯罪者として発表し、新たな領主を立てるように進めることとする。

 それで良いのじゃなステイル」


「仰せの通りで結構。ご協力感謝する。……色々手間を取らせてすまない」


「なに気にするでない。お前達をサポートするのは我は義務だと認識しておる」


 話がまとまった所でカイトはアリスを抱き上げ、王に向かって一礼すると部屋の出口へと向かう。


「それではステイル様。また一週間後に」


「宜しく頼んだぜ」


 カイトが去った後、スティルもまた部屋を出て行こうとする。しかし、アムス王の声が彼を引き留めた。


「ステイルよ。本当にすまないと思っている」


 アムス王はステイルの背中に向けて、先程までとは違う少し弱々しい声で言う。


「王よ。貴方は何時だって国の事を思って動いて来た。それは俺も理解しているからな。恨んでなんかいねーよ。それにな、俺は今、割とこの立場を楽しんでるんだ。

 ……だから二度と謝ったりしたら許さねえぜ」


 ステイルは振り返らず答える。何故か最後の方では怒りを滲ませながら。その態度は、一国の王に対して余りにも不敬であり、それはもしこの場に側近達がいたならば捕らえられても可笑しく無いものだ。


 しかし、アムス王は怒るどころか黙って俯いている。それはまるで、ステイルの言葉を聞いて反省しているようにも見て取れた。


「それではアムス王。一週間後に再び拝謁しに参ります」


 結局、最後まで振り返ることなくステイルは部屋を後にしたのだった。

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