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一夜明けて1

「まぁ、及第点だろうなぁ」


 アジトに帰ったシグから報告を受けるステイル。


「もっと上手くやれれば良かったのだがすまない。アリスの存在はともかくとして、ドルガの強さは想定外だった。それに奴がゲールを殺すとは……」


「気に病むな。及第点と言っただろ? 失敗って訳じゃねえよ。こっからは俺に任せてゆっくり休め」


 シグはこくりと一度頷くと、スティルの部屋を後にする。そして、それを見送ったステイルは屋敷から得た情報がまとめられた紙に目を通す。


「アリスとかいうお嬢ちゃんにも話を聞かなきゃならんな。さて、俺は俺の役割を果たすか」


 ステイルは部下を呼びつけると、今回の作戦を本当の意味で終わらせるために出掛ける準備を始めるのだった。




 激闘から一夜開けた次の日の朝。カレンはアジトの自室で目を覚ます。


 まず目に入ったのは、彼女の腹部に丸まって座っていた菱形の大きな耳を持つ黒い小動物であった。


「おはようカレン。よく眠れたみたいだね」


「セロ……。私達、無事にアジトに戻って来れたんだね」


 寝起きで半分頭がぼーっとしながらも、カレンは今では見慣れた部屋の景色を見て安心する。


「そうだね。フォンは負傷しているけど、命に別状は無いってライラがとシグが話していたよ」


 その言葉を聞き更にホッとするカレン。


「良かった。フォンちゃんも無事なんだね……」


「あぁ、皆が無事だったのはカレン、キミのお陰だよ。なんたってキミがアリスを無力化出来ていなかったら」


 ドクンッ。


 アリスの名を聞き、カレンは思わずセロの言葉を遮った。


「アリス!! アリスはどうなったの?!」


「あ、あぁ……アリスもアジトに連れて来られていたよ。って落ち着くんだカレン。キミはまだ本調子じゃないんだから……」


 しかしセロの静止も聞かずにカレンはベッドから飛び起き、クローゼットから服を取り出して急いで着替え始める。


 やれやれと半ば諦めた様に首を振ってから、セロは彼女に飛びつき腕輪に変化した。


 部屋を飛び出し、走ってシグやライラを探すカレン。セロの言うとおり未だ本調子ではない彼女の息は直ぐにあがってしまうが、それでもカレンは走るのを止めなかった。そして、フォンの病室の前で二人を発見したのだった。


「カレン!!」


 二人はカレンを見るや、彼女へと駆け寄り、息荒くふらつく身体を左右から支える。


「アンタまだ無理しちゃ駄目じゃないか!! こんなにフラフラになって……」


 ライラの心配も聞こえていないのか、息切れしながらカレンはここに来た目的を伝える。


「アリスは何処?! あの子と話さなきゃいけないの」


 そう必死で訴えるカレンの瞳を前に、シグは思わず目線を逸らしてしまう。


「アリスは今は居ない……。スティルが早朝に何処かへ連れて出たらしい」


 何故スティルが? それに何処へ?


 カレンは困惑し、力が抜けて膝から崩れ落ちた。


「俺達が起きた時には既にここを発っていた。だがアイツの事だ、お前との事情もそれなりに理解しているだろうし、考えあっての事なのだろう。どうか信じて待ってやって欲しい」


 実際、今はシグの言う通り信じて待つ以外に出来ることはない。それに確かにあのスティルがアリスに危害を加える様な事は想像できなかった。


 カレンは落ち着きを取り戻すと二人に付き添われ自室へと戻り、ベッドへ再び横になる。そしてシグとライラはその前に椅子を置いて腰を掛けた。


「フォンちゃんは大丈夫なの?」


「あぁ、命に別状はないそうだ。まだ気を失っているがな。アイツはああ見えて頑丈なんだ。その内目を覚ますだろう」


 それを聞いて安心するカレン。そしてそれから三人は昨晩の事を振り返る。


「カレン。昨日はお前のお陰で助かった。俺とライラではアリスに歯が立たなかったからな」


「そうだよ。アンタが居なかったら……」


 そこまで言って、ライラが口籠る。その先を言うのはカレンに対して無神経に思えたからだ。しかし、カレンはそれを理解する。


「確かにあのままアリスが二人を殺してしまってたかもしれないね。ごめん」


「なんでアンタが謝るのさ」


「それはアリスが私の妹だから……」


 それについてシグがカレンへと疑問を投げ掛ける。昨晩のやり取りで、二人が肉親であるかのような発言があったものの、彼らにはアリスがカレンの妹である事は信じ難い理由があった。


「明らかにアリスのほうが年上に見えるのだが……」


「うん、私の知っているアリスよりも歳を取っているのは確か。それについては推測だけど順番に説明するね……。

 でも、先ずは黙っててごめんね。始めてアジトに連れてこられてステイル達と話した時にライラに転道者って知られてから、ずっとこの事について話さなきゃって思ってた。だけど、なかなか言えなくて……」


 それからカレンは自分が転道することになった切っ掛けを話し出した。


 家族共々皆殺しにされた事。


 アルティと出会い、半ば強制的に転道を選択させられた事。


 そして自分達を殺した男も、殺された家族もこちらへ転道した事。


「それから、こっちの世界に来てセロと出会ったの」


 聞き覚えのある名前にライラが反応する。


「セロってまさか大精霊の……」


「あの時お前の身体を乗っ取って救ったという奴か?!」


 こくりと頷くカレン。


「シグもライラから話は聞いてるもんね。セロ、出れる?」


 カレンが装着した腕輪に語りかけると、それは紫色の炎を纏いやがて黒猫の様な小動物へと変化する。


「やぁライラ、お久しぶり。とは言ってもこの姿で会うのは初めてだね。そしてそっちのシグは始めましてだ。

 俺はセロ。カレンを守護する大精霊だ」


 突然現れ、そして人語を話す小動物。それを見て驚愕しない者は居ないだろう。例に漏れずシグとライラもその通りとなる。


「アンタ暫く眠るって言ってなかったか?!」


「それがね、なんか作戦開始の前日くらいから目が覚めてたみたいなの」


 セロは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、何故か堂々としている。まるで、ヒーローは何時でも都合の良い時に目覚めるものだとでも言いた気だ。


「このセロと出会った後、森で襲われているところをシグに助けてもらって今に至るって感じが、私が転道者になった経緯……」


 言葉にすると数分。しかし、カレンの経験は想像し難い苦痛を伴っていたであろう。目の前で家族を殺されているのだから。二人はカレンを思うといたたまれない気持ちになる。


 とりわけシグは同じ様に家族を奪われる苦しみを知っているからこそ、カレンに掛ける言葉が思い浮かばない。


 暫し沈黙した後、再びカレンが語り始める。


「それから、ここからは推測なんだけど、同時に死んだとしても転道する先の時代は同じとは限らないんだと思う。今までもそう思える事が何度かあったの。

 だけど、だとしたらこっちで家族と会える可能性が低くなるから考えないようにしていたんだけどね……」


 今回のアリスとの出会いを受けて、カレンはそれを認めざるを得なくなってしまった。


「つまりアリスはカレンより数年早くこちらに来ているという事か」


 シグの理解で間違いないだろうと、カレンは頷いて同意する。


「はっきり言って、私はアリスに『お兄ちゃん』って言われるまで気付けなかったけどね……。体型も少し違うし、仮面もしてたし。だけど私の容姿は殺された当時と殆ど変わってないから、アリスはすぐにわかったんだと思う」


 自分が気付けなかった事に罪悪感を感じているのだろう。カレンの顔は暗い。


「ちょっと待ってよ」


 カレンはライラの少し大きな声にびくりと身体を硬直させる。ライラが今から言おうとしていることは容易に想像出来た。そしてそれはシグも疑問に思っているだろう。


 転道というそもそも異常な事の説明の中で、それよりも際立つ違和感について。


「どうしてアリスは……」


 カレンは焦る。二人に嘘は付きたくない。だけど正直に話せば、転道してから今までの数カ月間、自分との間に生まれた関係性が壊れてしまうのではないかと不安に駆られる。

 ズルいと理解していながらも、カレンはライラがそれ以上を口にしない事を願ってしまっていた。


「アンタを『お兄ちゃん』なんて呼んだんだ?」


 その願いは届かなかった。

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