初陣1
「ちょっと、なんでフォンちゃんの所に二人で私の所に四人も向かって来るのよ!!」
カレンは四人の男たちの攻撃を避けながら、不満を爆発させていた。
(ほーう。これは大した連続回避術ですなぁ)
四人に取り囲まれながらも一撃も喰らわないで避け続けるカレンにセロは関心していた。
(だけど、このままだとスタミナ切れ起こしちゃうよ? さっさと倒しちゃわないと)
(わかってるから黙ってて!!)
確かにこのままではセロの言うとおりだ。攻撃をしなければ、やがて攻撃を食らってしまう。精霊装は魔法のダメージを低減できても、物理的なダメージに対してはただの服と同じ。斬撃を喰らえば服は裂かれてしまう。
「こいつ闇市場に売ればかなりの金になるんじゃないか?」
「俺も今考えてたんだ。これだけの上玉なら変態貴族が金を惜しまないだろうぜ。捕らえてドルガ様に差し出そう」
攻撃を休めることなく会話を始める警護兵。カレンが攻撃をしてこないので余裕が出てきたのだろう。
(さすが闇市場。人身売買もしてるって訳ね。悪人のテンプレじゃない。トルガとかいうのはこいつ等のボス、つまり闇市場の元締めね。それにしても……)
盗賊もアランもこいつ等も。どいつもこいつも自分を見ては勝手な事ばかり。カレンはそう思うと腹が立って仕方なかった。
そしてその怒りが、攻撃を未だ躊躇っていた彼女に火をつけた。
いくら覚悟して来たとはいえ、最初の魔法で二人の男を焼いた事に少なからずショックを受けていたのだ。
もちろん死なない様に手加減して放った魔法ではあるが、自分の手で人を初めて傷付けて平静でいられる人間は少ないだろう。その動揺により彼女は反撃を躊躇っていたのだった。
しかし、カレンが対峙している悪党達。彼らの言葉がカレンの持つ躊躇いを吹き飛ばしてくれた。
カレンは思った。普段から人身売買をしているから、自分を見て平気であの様な事を言えるのだと。ならばここで倒さなければ、自分が負けてしまえば、今後も被害者が出てしまう、と。
(こいつらはゴミね。私から家族を奪ったアイツと同じ。人から幸せを奪い金に変えるゴミ!! それなら遠慮しないからっ!!)
ーーブチッ
カレンの中で何かが切れた。そしてこの感覚こそ、ステイルやフォンがカレンとライラに実感させたかったものだった。
悪党と戦うことで自分だけでなく、これから先の被害者を救うことが出来る。と言う事を。
「水属性六重特性魔法ァ!!」
カレンが大きな声で叫ぶ。
対峙している兵達はその声を聞き、攻撃を中断してから、そのまま数歩後ろに下がった。決してカレンの声そのものに驚いた訳ではない。それは半信半疑ながらも、発せられた単語を警戒してのものだった。
『六重特性魔法』それは上級最上位魔法。一般的な魔法使いが相当な修練を積んでも、一部の者しか使用する事が出来ない高み。目の前の美しい少女がそれを行使しようと言うのだから驚かない筈が無い。
カレンの前には蒼く光る六つの魔法陣が重なって展開されていた。そこで初めて警護兵達は、少女がハッタリを言ったわけではないと理解する。
「幻惑霧」
声と共にカレンの周囲の景色が一瞬歪み、彼女の姿を跡形も無く消し去ってしまう。
「くっ、消えやがった。お前ら、気配を感じて攻撃しろ!!」
「そんな無茶な!! 姿の見えない敵とどうやって戦えって言うん、ヒっ!!」
反論していた男の目の前に突然姿を現すカレン。驚きのあまり男は情けない声を上げてしまう。
「風属性三重特性魔法、風破」
姿を現すと同時に放たれた魔法により、強い衝撃を受けて後方に吹き飛ぶ男。そして再びカレンは姿を消す。彼女はこれを繰り返し一人ずつ確実に無力化していく。
とうとう最後の一人になった男は、闇雲に剣を振り回して応戦するも、姿の見えない相手を斬れる筈もなく、他の三人同様に倒されてしまったのであった。
(効率は悪いけど、なかなかやるね)
(それはどうもありがとうございます)
効率が悪いという言葉は要らないだろと思うが、この猫モドキはそういう正確なのだからいちいち腹を立てても仕方ない。それに四対一の戦闘を終えたばかりであり、息を切らしているカレンには怒る気力も無かった。
「カレンさん凄いじゃない!」
実はフォンは戦闘中に駆け付けて居たのだが、手助けの必要は無さそうだったので、カレンの戦いを眺めていたのだ。しかし、敵を倒す事に必死だったカレンはその事に気付いてはいない。
「はぁ……はぁ……、フォンちゃん……遅すぎだってば」
「ごめんねぇ、カレンさんの戦いぶりに見惚れちゃってたのよ。本当は三人目くらいから手助け出来そうだったんだけどね。ごめんなさぁい。
あと、一つアドバイスするならもう少し効率的に殲滅した方が、体力的にも楽になるわよ」
「フォンちゃんも非効率って言うのね……。はいはいわかりましたよーだ!! まったく皆初心者に厳しいんだから……」
「え? 他の人にも言われたの?」
ついつい口を滑らせてしまったが、そこはなんとか誤魔化すカレン。
これで屋敷外の警護兵は一掃できた。次はさっきの騒動に乗じて、既に屋敷内へ侵入しているシグとライラに合流しなければならない。
カレンは息を整え、フォンと共に屋敷の玄関へと向かおうとした、その時だった。
屋敷の二階からドンと大きな音がし、壁を突き破ってシグとライラが落ちて来た。二人はなんとか受け身をとって着地するが、疲労と身体のあちこちに出来た切り傷によって苦悶の表情を浮かべている。
「シグ! ライラ! 大丈夫?!」
「カレン……。こいつはちょっとヤバイかもしれないね……。アイツめちゃくちゃ強いんだ」
ライラがそう言って二階の外壁に出来た穴へ向けて指をさす。
そこには黒い仮面をつけた、女性と思しき者の姿が。そしてその手には日本刀が握られている。
「ゲールがこれほどの強者を飼っているとは……」
シグが額の汗を拭い、よろよろと立ち上がる。その時、二階からカレン達を見下ろしながら、女が初めてその口を開く。
「私の名はアリス。ゲール様を守護する者。ゲール様に仇なしておいて、このまま生きて帰れると思わないことね」
アリス。その名前を聞いてカレンは妹を思い出す。しかし、彼女の声は妹に似てはいるものの、妹のそれよりも大人なびている。それに、体型も妹とは少し違うように見えた。
(同名なだけか……)
そう結論づけるカレンであったが、それはアリスと名乗った女の言葉によって否定されてしまう。
「そんな、嘘……、お兄ちゃん?」
(は?! 何て言ったの?!)
かつて一人の男によって殺され、離ればなれとなった兄と妹は、今敵対する立場で対峙していた。
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