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女王様


 訓練所で模擬戦を終えたあと何やらじゃれ合っているカレンとライラ。そんな二人をシグ、ステイル、フォンは少し離れた所から眺めていた。


「たった二ヶ月で二人共えらく実戦への対応力が付いたみたいだなぁ。これも教官が優秀なおかげだな、シグ、フォンよぉ?!」


 ステイルが機嫌良さそうに笑って言うと、それに対しまずシグが頷く。


「ライラに関して言えば、格闘術の心得のおかげで、接近戦は相当のレベルにある。龍顎(ドラゴンバイト)にこだわって練習していたが、強化系魔法を駆使して格闘戦を前提に戦えば、アイツは間違いなく即戦力だな。但しその戦闘スタイルから、あくまでも一対少人数が前提だがな」


 事実シグの言う通り、アジトにいる聖黒の戦闘員との模擬戦において、ライラはそれなりに勝利を収めている。ついこの間まで女学生であったにも関わらずだ。


 但し、それは決して聖黒の戦闘員のレベルが低いという訳では無いく、ライラの持つ格闘技能が極めて高いのだ。


「次にカレンさんに関して報告しますね。彼女の魔法のセンスと、内に秘めた魔力は異常と言えますねぇ……」


 魔法のセンス。その言葉にシグはニヤリと笑う。


「あぁ、さっきの幻惑霧(ミラージュミスト)は驚いたなぁ。話には聞いていたが俺も実際に目にしたのは始めてだぜ。一瞬にして姿が見えなくなる六重特性魔法。そんなものを若い魔法使いが使うんだから、魔法の才能ってのは残酷だよなァ」


幻惑霧(ミラージュミスト)も凄いんですが、その前の爆炎監獄エクスプロードプリズンや無数の水弾を生み出す水砲乱弾(ウォーターバレット)、他にも効果範囲の広い強力な魔法を使いこなしています。

 カレンさんは遠距離からの大規模殲滅に向いていると言えますね。近接戦に関しては、幻惑霧(ミラージュミスト)を用いた暗殺なんかは効果的だと思いますよ。

 敵からしたら複数属性使い(マルチ)というだけでも脅威なのに、上級魔法がポンポン飛び出すんですから、動揺しちゃうでしょうねぇ……」


 大半の魔法使いが単一属性使い(シングル)である事を考えれば、複数属性使い(マルチ)の魔法使いはさぞ脅威であるだろう。


 現時点でも、そんなカレンの才能が世界に知れ渡れば、伝説級の魔法使いとして、さぞもてはやされる事だろう。


「ただ……」


 少し言いにくそうにフォンが続ける。


「武術、剣術、槍術その他あらゆる肉体的戦闘術のセンスは皆無どころかマイナスレベルなんです……。生粋の運動音痴としか言い様がありません。

 但し、模擬戦でも見せたように、攻撃をかわす事にかけては並々ならないセンスを発揮していますが……」


 残念ながら、カレンは転道前においても運動神経が良くなかった。それはこちらに来ても変わらず、格闘はいくら訓練しても上達していないのだ。


 ただし、フォンの言う通り、攻撃を避けることに関しては魔法同様に並々ならぬ才能を見せていた。

 身体強化されたライラの攻撃も避けるほどである。普通では考えられないレベルであった。


 ステイルは胸の内ポケットからタバコを取り出し、火をつけて吸引した後、口から大量の灰色の煙を吐き出した。


「フー。なるほどなァ、近接特化の格闘お転婆娘に遠距離戦術兵器級の爆弾娘……、面白い組み合わせだぜ」


「聖黒で匿うどころか、かなりの戦力になりそうですね……」


 フォンの言葉にステイルはニヤリと笑う。その笑みには二人の将来への期待だけではなく、これほどの逸材を敵に回したゲールへの皮肉も込められていた。


「でもカレンさんには少し問題があるんです。いいえ、カレンさん本人が悪い訳じゃないんですが……」


 そう言って複雑な表情をするフォンに、彼女が何を言おうとしているのかわからないステイルは、その太く頑丈そうな首を傾げる。しかしシグには、フォンが言わんとしている事が分かっていた。


 結局フォンが躊躇している間に、シグが小さな溜息を吐いてからそれを語ったのだった。


「カレンが人を惹きつけすぎるんだ。組織内でもあの娘に惚れた男が何人もいる」


 余りにも二人が深刻そうな顔をしていたので、どんな重大発表かと身構えていたステイルは、それを聞いて拍子抜けしたと言わんばかりに大笑いしてしまった。


「ハハハハ!! そいつは結構な事じゃねえかァ。こんな殺伐とした環境で暮らしてるんだ。息抜きがてら色恋があったって大した問題にはならんだろ?」


 聖黒は秘密組織であるが、別に恋愛が禁止だとか

、娯楽が禁止だとか、そういった類の縛りはない。組織へ危険が及ばないのなら基本的には自由なのだ。


 だからこそシグの話を聞いても、ステイルは大きな問題だとは思わなかった。

 しかし事がそれほど簡単な話ではないことは、二人の悩ましい顔が物語っている。


「ステイル。お前の言う通り、恋愛なんてものは各個人が好きにすればいい。だが惚れたもの同士で、下手をすれば相手を殺しかねないほどの本気の決闘が行われたんだ。馬鹿げたことに、それも一ヶ月で三組だ」


 流石に驚くステイル。思わず彼は、咥えていたタバコを地面へと落としてしまう。その顔は半分呆れている様にも見えた。


「はぁ?! 惚れた者同士の殺し合いだとォ? 組織にそんな馬鹿共がいるっていうのか……。いったいどんな奴がーー」


 そこでステイルを遮り、フォンが対象者、ステイルの言う馬鹿共の名を口にする。


「戦闘班からはルーサー隊長、カイル隊長、メッツ、それから暗殺班のリヒト、諜報班のカーン隊長とチャックです……」


 名前を聞いてステイルは頭が痛くなってくる。秘密組織の、それも半数は隊長格の人間が色恋に流されて味方同士で争ったというのだ。彼はこれまでの自分の方針が甘かったのだろうかと後悔していた。


「馬鹿野郎!! なんでもっと早くそれを言わなかったんだ!!」


 そしてダメだと分かっていながらも、目の前の二人につい怒りをぶつけてしまう。しかし自分でも分かっている。この二人は自分に報告しなくても、しっかり対処していると。それでも、あまりのアホらしさに八つ当たりせずにはいられなかった。


「で、そいつらはどうなったんだ?」


「それはですね……、ルーサー隊長は肋骨数本を骨折、カイル隊長は左腕を切られ靭帯断裂、それからーー」


「もういい……。大体想像できた」


 深いため息を吐きながらフォンを制止し、新しいタバコに火をつける。


「しかし何故どいつもこいつもカレンに執着するんだ。確かに容姿端麗で気立てもいいが、仲間と争ってまでっていうのはどうもな……」


 そうは言いながらも、スティルもまた彼女を何故か放っておけないと感じていた。しかし、彼が問題を起こした者達の様にならないのは、彼が持つ内面の強さによるものだった。


 人々はカレンの持つ魅力値によって、良くも悪くも彼女に惹かれてしまう。アランがそうであったように。そしてその様な者は、時としてカレンを求める欲求が理性を上回る程に魅了されてしまうのだ。


 そうなる者と、そうならない者の違いは何なのか。それはその他の内面的ステータスの高さによる抵抗力だ。とりわけ自制心が低いと欲望に支配された行動をとってしまう。

 つまり、シグ、フォン、ステイル、ライラ達やその他のカレンに友好な人々はしっかりとした自制心を兼ね備えているという事だ。


 人並みの自制心があればいくら魅力値が高くとも凶行に走ったりはしないのだが、あらゆる者を惹き付けるカレンは、自然と自制心が低い人間の標的となる確率が高くなってしまうのだ。


「出会った時から、アイツは人を惹き付ける何かを持っていると思っていた……。しかし、それに当てられて組織内で問題を起こす奴まで出てくると厄介だな……」


 シグの言葉にステイルも頷き、そして問題を起こした者達の処分をフォンに伝える。


「今回の問題を起こした隊長共は全員降格だ。全員担当を戦闘や諜報から外せ。自分を律する事が出来ない奴らはいずれ命を落とす」


「わかりましたステイル。私からもたーっぷりお仕置きしちゃいますね」


 笑顔でスティルの指示を承諾してから去っていくフォン。その後ろ姿は心なしか嬉しそうにも見える。


 そんな彼女を見つめながらスティルとシグの顔は青ざめていた。


「なぁシグ。指示しておいてなんだが、俺は少しアイツらが気の毒に思えてきたぜ」


「気にしたら負けだ」


 るんるんと軽快な足取りで爆乳を揺らしながら、アジトへと戻っていくフォン。彼女は聖黒メンバーから影でこう呼ばれている。


 『拷問女王』と。



【お願い】


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