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聖黒2

 案内されたステイルの部屋はかなり広く、壁際の棚には調度品が多数並べられている。


 部屋の中心には応接用の机とソファが置かれており、言われるがままカレン達一行はそこに並んで、ステイルとフォンに向かい合う形で腰を掛けていた。


「シグよぉ。この娘達にはここの事をもう説明してあるのか?」


「いや、まだだ」


「全くお前はいつも説明が足りないんだよ。お嬢ちゃん達もこんな怪しい所に連れてこられて不安だっただろ? 俺から説明してやるよ」


 シグに対し呆れた様な顔をしてから、ステイルはソファーに深くもたれ掛かり、足を組んで体勢を整えた。


「俺たちは『聖黒』という秘密組織の一員でな、ここは世界中にある俺たちのアジトの一つだ。そして俺はここら一帯を管轄してる支部のボスをやっている」


「聖黒? 秘密組織って何をしている組織なんですか?」


 カレンが質問すると、ステイルは隣にいるフォンに目配せをし、それを受けた彼女は小さく頷いた。


「私から説明するわね。聖黒は簒奪(さんだつ)の魔女リズの工作から世界各地を守るために活動している組織なのよ。リズは盗賊を使ったり、各国の要職、時には王までも懐柔し、それらを自らの工作員として混乱を引き起こすの。そんな工作員を諜報活動により特定し、拘束もしくは排除することが私達の主な活動内容よ」


「排除って……」


 カレンはオブラートに包まれても尚、物騒に聞こえる単語に引っ掛る。


「排除……それが殺すという意味を持つ事もあるわ。だから『聖黒』は各国の軍からも犯罪組織として認識されているの。そりゃそうよね、国の要職を殺されたりしてるわけだし。

 しかもそいつらがリズの工作員だと分かっても、国はそれを公表できるはずないもんね。国の重要なポストにスパイに入られていたとあれば、王だって責任追求を免れないわ」


 いつもヘラヘラしながら自分達とじゃれあっているフォンとは別人のようだ。そう感じながらカレンとライラは彼女の話に真剣に耳を傾けていた。


「それで、どうして私達はシグにその聖黒のアジトに連れて来られたの? そんな秘密性の高い組織のアジトに、一般人が簡単に入れるはずもないですよね」


 カレンの疑問はもっともである。三人はただの学生と、魔技師なのだから。


「それには二つの理由があるんだよ」


 ステイルがニヤリと意地悪く笑う。


「一つ目、シグとカレンはただの一般人ではない。

 まずはカレン、君は転道者だ。なぜ知っているかって? 解魔の儀式であれだけの事をやらかした人物の素性はしっかりと調べてある。

 転道者だってのがはっきりと分かったのはシグの情報のお陰だがな!!」


(そんな……シグは私に転道者であることは隠すように言っていたのに。どうしてそのシグが他人にそれを……)


 困惑するカレンであったが、ステイルにはその反応もお見通しであった。


「ショックを受けるのは仕方がないが、まぁシグを責めるのはやめときな。全部お前さんを守るためなんだからよ」


「私を守るため……?」


「あぁ、リズの再来と言われるほどの強大な魔法の素質を多くの見学者に目撃されたんだ。いずれそれはリズの耳にも入り、お前さんに何らかの接触があることをシグは予想していたんだよ。

 フォンが担当教官になったのだって偶然じゃないんだぜ?」


「可愛い可愛いカレンちゃんを守るために組織で裏工作をしたのよん」


 ステイルに続く形で、フォンはおどけながら言う。


 シグと出会ってからの平和で楽しい日々の裏に、彼らの行動があったのだと初めて知るカレン。何も知らずのうのうと暮らしていた自分が申し訳なく思えていた。


「シグ、私はずっとシグに守って貰っていたんだね……。気付かなくてごめんなさい」


「礼なんかいらない。俺がしたくてやっただけだからな。だが、色々隠すような事になってこちらこそすまなかった」


 どうしてシグが謝るのか。そう思いカレンは首を大きく横に振る。それを見て、それまで強張っていたシグの表情が微かに弛緩したが、すぐにそれは消えて元の表情に戻った。


 彼にはもう一つ伝えなければならない事があったからだ。


「それと、もう薄々勘づいているかもしれないが……俺も聖黒のメンバーの一人だ」


 シグから語られた彼の素性。しかし彼の言う通り、それを聞いてもカレンはもう驚きはしなかった。そうでなけばそもそもこのような秘密組織との繋がりを持てるはずがないと思えていたからだ。


「と言うわけで、これが理由の一つ目ってことだ。普通の学生と魔技師ではないってのは理解できたな。まぁ、ライラに関しては巻き込まれた形だがな……」


 ライラが巻き込まれた事に憐れみを感じているのか、ステイルは少し目を伏せて胸ポケットからタバコを取り出し、マッチで火を着ける。彼の口から吐かれた煙が四人の間を漂う。


 ライラを巻き込んでしまった。そんな事はカレンも十分理解していたが、改めて第三者から告げられることにより彼女の胸は締め付けられるように痛む。


「なんとなくそうじゃないかとは思っていたけど、アンタが転道者だったとはね。だけど、アタシは巻き込まれたなんて思っていないよ。だからカレン、そんな顔はしないでくれ」


 誰もが憐れむ境遇にいながらも、ライラは気丈に振る舞う。ライラのことをあまり知らないステイルとシグはそんな彼女の強さに驚きを覚える。本来、普通の女学生がこの様な状況に置かれて冷静でいられる筈がないのだから。


「もう一つ、理由があるんだろ? アタシ達がここに連れてこられた理由が」


 落ち込んだ素振りすら見せずに話を続けようとするライラの気概に、秘密組織の幹部ともあろうステイルが少し狼狽(うろた)えてしまう。


「あ、あぁ、その通りだ。もう一つこそが俺たち聖黒が今回の事件に介入した理由。それはな、この地方を納める侯爵、ゲール卿がリズの工作員であるということだ。」


 ステイルはタバコを灰皿に押し付けて火を消すと、深く息を吐いてから今までとは違う鋭い目付きになる。


 それは間違いなく闇の組織の住人と言うに相応しい残忍さを孕んでいた。

申し訳ございません(´Д⊂ヽ

更新がおそくなりました。



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