カレンの目覚め
カレンが目を覚ました時、まず目に入ったのは今にも泣き出しそうなライラの顔と、怒っているのか心配しているのか分からないシグの顔だった。
二人の顔はカレンにとって、最も親しみがあり安心を与えてくれる顔であるはずだった。しかし、その安心感を吹き飛ばすように、おぞましい記憶が彼女の頭にフラッシュバックする。
「嫌ぁ!!!」
頭を押さえて絶叫するカレンをライラが抱き締める。
「大丈夫だから……アンタは何もされてない」
ライラにも確信があるわけではなかったが、セロが彼女の中にいる限り、一線を越えているとは思えない。彼ならば確実にそれを阻止していたはずだ。
ライラはカレンを愛しているがこそ、自分に近い感情をもつセロに共感しているのだった。
カレンが落ち着くまでの間、シグはどうすることもできない歯痒さを感じていた。突然リビングに展開された魔方陣から二人が出てきてからというもの、未だに何があったのか知らない彼は戸惑うことで精一杯だった。それまで自身が高熱に苦しんでいたのも忘れるほどに。
「そろそろ……二人に何があったのか話してくれ」
ある程度の落ち着きを取り戻したカレンはライラと目を会わせ、こくりと頷き合ってから顛末を話し始める。まずはカレンが、路地裏でアランに敗れて気を失うまでを説明した。
「私はここから先は分からないの……。でも、意識を失ってからセロの声を聞いた気がする。安心して休んでろって……」
「セロ? なんだそれは」
それまでの話だけでも、シグの怒りは爆発しそうな状態であったが、最後まで聞かなければいけないとなんとか自制し、初めて聞くセロの名についてのみその疑問を口にした。
「それについてはカレンの意識が失われてからも含めてアタシが話そう」
「あぁ……頼む」
「セロは自分について、カレンを守護する大精霊だと言っていた。アタシが駆け付けたとき、カレンは丁度乱暴されそうになっている所だった……」
そしてライラはカレンを救おうとしたものの、アランが禁忌により複数属性の能力を獲ていたことで、それに敗れて自らの命も尽きる寸前であったことを話した。
ライラの味わった苦しみを思い、カレンは再び涙を流している。そんな彼女の頭を撫でながら、ライラは話を続けた。
「だけどアタシの命が燃え尽きる寸前、突然発動した超級魔法によって、アタシを噛み砕こうとしていた土龍は消滅、アタシの負傷も完全回復したんだ。
そして……、その超級魔法を放ったのが、カレンの身体をその時動かしていたセロだ……」
「瀕死の重症が完全回復だと?!」
「あぁ、アランもアタシも同じ反応をしたよ。そこからは、カレンの身体は精霊装とかいう服のお陰で魔法を受けても無傷だし、もうセロの独壇場だった。三度目の禁忌で獣の様になったアランも全く歯が立たない。そして最後は『識属性』とかいう聞いたこともない属性の魔法で……、アランの下半身は吹き飛ばされたよ」
ライラはこの先を話すべきか躊躇する。凄惨なアランの最後を。
「ライラ。私は大丈夫だから話して」
ライらの躊躇を感じ取ったカレン。しかし、真相に至るには続きを聞かなければならない。そう考え、ライラに話すよう促す。
「わかった。アランは禁忌の代償として、血に貪り喰われ絶命した……。文字通り、血が生き物のようにうねり、アイツの残された上半身をついばんだんだ。その後はセロがここに転送してくれて今に至ると言う訳さ……」
アランの最後を聞いて、カレンとシグは暫く黙りこんでしまったが、沈黙を先に破ったのはカレンの方だった。
「アランは大嫌いだし、されたことも許せない。だけど、禁忌を侵してまでどうして……。アイツは代償を知らなかったのかな。そもそもどうやって禁忌を知り、魔法使いの血を手に入れたんだろう」
怒りと悲しみの入り雑じった複雑な表情を浮かべながらカレンが言うと、突然シグが壁を強く殴り付けた。その音に、びくりと身体を硬直させる二人の少女。
「ゲール卿だ。おそらく息子は父親から禁忌を知り、血を得たのだろう」
そう言ってシグは壁に突き立てた拳を離すのだが、壁には拳から転写された血が付着していた。
しかしその行動とは逆に、あくまでも冷静な声でシグは言う。
「禁忌、それは国家の中でもかなりの上層部以外には知り得ない秘匿された呪法だ。
しかし、侯爵であるゲールならそれを知っていてもおかしくない。理由は分からないが、アランの父、ゲールが噛んでいるのは間違いないだろう」
「そんな……。自分の息子に狂人となるように仕向けたと言うの!?」
シグの予想にライラは食って掛かる。
「あくまでも可能性の話だが、限り無く高い可能性だ。そして俺の予想が当たっていた場合、お前達二人はゲールにとって……」
「失脚しかねない情報を持つ厄介者……」
シグの言わんとする事をライラが先に口にし、それに対してシグは無言で頷く。
二人のやり取りを見ていたカレンにも、これから自分とライラが如何に危険な状況に置かれる事になるのか容易に想像できた。
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