表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

大精霊セロ3

「やっぱりこの程度の魔法でもかなりの魔力を消費してしまうなぁ。せっかく普段カレンと会話するのを極力我慢して、魔力を溜めてきたのに……」


 セロが独り言の様に呟いている間に、アランが火、土、風の属性魔法を連続で放つ。そしてそれは全て避けられる事なくセロへと直撃するが、結果的に傷一つ負わせることは出来ない。


「ガァア"ア"ア"」


「さて魔力も底をつきそうだし、アラン君。君にはそろそろこの責任を取ってもらうとしようじゃないか」


 攻撃が効かず激昂するアランにセロが幕引きの宣言をする。しかしアランにはそれを理解するだけの理性が残っておらず、今尚がむしゃらに魔法を放ち続けていた。


「無駄撃ちだとも分からないか。魔法はこうやって使うんだよ」


 セロは再び拳銃を形作った左手でアランを指す。


「識属性、九重特性魔法(エニアマギア)


「九重?! それに識属性なんて聞いたこと、」


 ライラが疑問を言い終えるのを待たずして、セロはその魔法名を詠む。


滅光(レイ)


 先ほどと同じく指先に球状魔法陣が展開され、そこから放たれる光線。アランが連射した魔法は全てそれに貫かれ消滅していく。


 そして閃光がアランの下腹部に到達した瞬間、彼の下半身は丸ごと跡形もなく消え去ってしまったのだった。


 下半身が消えたことで一瞬だけ宙に浮いていた上半身は、一呼吸後にぼとりと地面に墜落する。

 アランはそこで自らの血溜まりの中をもがきながら、腕が落とされた時とは比較にならない叫び声を上げている。


「ヴガァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア」


 この凄惨な状況をただじっと見ているライラは、アランがこのまま出血多量により死んでいくのだと思っていた。


 しかし、彼女は禁忌の代償の更なる恐ろしさを目の当たりにする。


 そして、その光景はライラにトラウマを与えるには十分なものだった。


 アランの下に出来た血溜まり。その血溜まりの中から、血液でできた三本の触手が生えてきたのだ。その先端には真っ白な大きな歯が綺麗に生え揃っていた。


「『逆食み(さかはみ)』だ。縛られていた精霊の復讐だよ」


 セロに『逆食み』と呼ばれたそれは、不気味な白い歯がむき出しになった口を大きく開け、突然アランの残った上半身を食い千切り出す。


 路地裏にグチャグチャと肉を噛み締める音と、アランの断末魔。狂人となった筈の彼は涙を流し、その顔は恐怖と痛みによる苦悶の表情に覆われていた。


「うっ……」


 既に空っぽであるはずのライラの胃が再び激しく動き出す。もう早く終わってくれ、ライラはそれだけを考え目を強く閉じていた。


 やがて咀嚼音が止み、アランの声も途切れる。


「もう大丈夫だよライラ」


 カレンの優しい声でセロが言う。ライラが目を開くと、そこには真っ赤に染まったアランの着ていた服と、食べ残された肉片が少し残っているだけだった。


(何が大丈夫だ……)


 今尚残るおぞましい光景。しかし、ライラにはリアクションをとる気力も無かった。


「ありがとうライラ。君が駆け付けて時間を稼いでくれなかったら、今頃カレンは……。とにかく感謝しているよ」


「礼なんてよしてくれ。アタシは何も出来ず、ただアイツに殺されそうになっていただけだ……」


 彼女は謙遜したつもりは全くなく、自分の無能さに打ち(ひし)がれるだけだった。


「慰めるつもりはないけど、二人分の魔法使いの血を摂取した人間に、魔法を覚えてそう長くない者が勝つのは難しいよ。

 禁忌により得られる魔法の力は、元々の血の持ち主の力をそのまま受け継ぐからね。俺から見ても、アランの使った血の持ち主はかなりの手練れだよ」


 セロから語られていく禁忌の真実。それを自分に話してどうしたいのだろう、とライラが思っていると、セロが突然片膝を地面についた。

 ライラはふらつく足でセロに駆け寄り、カレンの身体を両手で支える。


「ふぅ……精霊が人間の世界に直接干渉するのは膨大な魔力が必要でね。もう空っぽみたいだ。そろそろカレンに身体を返さないといけないんだけど、伝言をお願いしてもいいかな」


 気だるそうに目を細めて見つめてくるセロに無言で頷くライラ。


「暫く話も出来なくなるけど、カレンの中にちゃんといるからね。また話そう。そう伝えておいて欲しい」


「わかった。アンタの伝言はちゃんと伝えておくよ……」


「ありがとう。このまま此処にいるとまずいだろ? 最後に魔法でカレンの家に転送するから、そこで今後についてよく話し合っておくんだ……。カレンのこと、頼んだよ」


 そう言い終わると同時に二人の足下に展開される魔法陣。そして二人の身体はその中へと沈み込んでいき、やがて二人の姿は路地裏から完全に消えてしまったのだった。


 その少し後、十人ほどの治安兵達が路地裏へとなだれ込む。しかし一足遅く、そこには魔法による戦いの痕跡と、血濡れの服と、小さな肉片だけが残されていたのだった。


 彼らの捜査により、その服はすぐにアランの持ち物であると判明する。しかし、この事件が世間の明るみに出ることはなかった。


 それはアランの父、この地を治めるゲール卿が揉み消したからだ。


 彼は自身の保身のため、それを隠蔽する必要があったのだ。


 ゲールは知っていた。息子が禁忌を犯していたことを。この事が王に知られれば自分の地位が揺らいでしまう。禁忌に関わったということで、死罪も十分にあり得る。


 そう考えたゲールには、もう一つやるべき事が残っていた。


 息子と対峙し、真相を知ったであろう者の口封じが。

2019.8.9 夜にはもう一話投稿します。



【お願い】

もしよろしければ感想、もしくはご評価頂けますと有り難いです!!

(このまま下にスクロールして頂くとフォームがございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ