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カフェ『ルージュ&ノワール』

 そんなに遅い時間でないのにも関わらず、カレンが家に帰るとジグがリビングのテーブルに突っ伏して寝ていた。


 それを見たカレンはシグの身体を揺すり、彼を起こして声をかける。


「シグ、体調悪いの?」


「帰ったのか。すまない、少し風邪を引いたようだ……」


 彼の額にはうっすらと汗が滲んでおり、確かに顔色が良くない。カレンがシグの額に手を当ててみたところ、かなりの熱が彼女の掌に伝わってきた。


「凄い熱じゃない!?

 早くベッドに行って休んでて。夕飯は私が作って持っていくから……」


 シグが自室に行ったのを確認してから、カレンははキッチンで野菜スープを作り、それから彼の部屋へとそれを運んだ。


「シグ、食欲無いかも知れないけど、少しでも食べて」


 ぐったりしているシグの口にスープを運んで食べさせてあげるカレン。ゆっくりと時間をかけて、持ってきた器の中身は空になった。


「私、明日仕事休もうか?」


 明日は学園ではなく仕事の日なのだが、心配なので休もうかと考えているカレン。


「いや、俺は大丈夫だから仕事に行ってくれ。寝てれば治るだろう」


 そう言うと彼は咳き込みながら寝返り、壁へと向いてしまった。

 

「そう……じゃぁ、なるべく早く帰って来るようにするよ。スープはキッチンに残ってるから明日また食べてね。おやすみなさい……」


 シグの弱ってる姿は初めて見るカレン。不謹慎とは思いつつもぐったりしてる彼を見て少し可愛いいと感じていた。





 次の日の朝、シグの部屋の扉を少し開けてカレンが中の様子を伺うと、カーテンが閉じられた暗い部屋の中に微かな寝息が聞こえる。


 心配ではあったが、うなされてもいないので大丈夫だろうと、昨晩のシグの言葉に甘えてカレンは仕事へと向かったのだった。




「おはよーライラ」


 店に着き更衣室に入ると、一足先にライラが着替え終わっていた。


 カレンとライラが働いている『ルージュ&ノワール』はブライトウィンのメインストリート沿いにある人気のカフェだ。


 カレンはロッカーから制服を取り出し、ライラと話しながらそれに着替える。


「着替えおわったかい? 」


 声と同時にガチャリと開くドアから、ふくよかな愛想の良い中年の男性が現れる。


 既に着替え終わっていたカレンは、元気よく小太りの男性に挨拶をした。


「あ、ロイドさん。残念でした。もう着替え終わってますよ!」


 笑顔を崩してはいないが、一瞬残念そうな目をするロイドと呼ばれた男性。彼はこの店のオーナーである。


 この店の女性店員は、ロイドによって何度も着替えを覗かれており、カレンも働き始めた頃は何度もその美しい下着姿を晒していた。


(そう何度も易々と身体を見られてたまるもんですか)


(俺はカレンの裸を見たい気持ちは分かるけどね)


 しかし最近では、十分に警戒して速攻で着替えるために覗かれることはない。


「ふーむ。二人とも何時見てもウチの制服がとても似合ってて、すんごく可愛いよ!」


(確かにこの服、センス良いね!!

 カレンにとてもよく似合ってると思うよ)


 セロが先程から何かうるさいが無視を決め込むカレン。


(このネコモドキとロイドさんは気が合いそうだなぁ……)


 セロとロイドが絶賛するこの制服もカレンはどうかと思う。

 一見差し色の赤が可愛らしい黒色のメイド服だが、上半身はウエスト周辺が絞られて胸がかなり強調されているし、スカートは少し前屈みになるだけで下着が見えそうなほどに短い。


(これも絶対、あのスケベオーナーの趣味ね……)


 しかし、このカフェはそんなロイドの趣味に付き合うウェイトレスと、彼の料理の腕によってかなり繁盛していた。可愛らしい店員を売りにした店であるにも関わらず、意外と男性客だけでなく女性客も多い。


(料理の美味しさはおまけで、繁盛の一番の理由は私達店員みんなの可愛さだろうけどね!)


 カレンとライラがホールに出ると、数人のウェイトレスが既に開店の準備を進めていた。


 二人もそれに加わろうとすると、まるで十代前半のような可愛らしい声が二人の背後から聞こえてくる。


「店内は私達がするから貴女達は外をお願いね」


 『ロリメイド』という言葉がこれほど似合う人は他にいないだろう。声の主はカトリーヌ。


 彼女は何処から見ても12歳くらいの少女なのだが、なんとカレン達よりも遥かに歳上らしい。


 ちなみに正確な年齢は非公表である……。


 そして更に驚く事に、このロリメイドはなんとロイドの妻なのだ。


 この二人がどうして結婚したのかは今世紀最大の謎だと思うカレン。こっちの世界に世紀という概念が有るのかは、未だに彼女は知らないのだが……。


 カレンとライラはカトリーヌの指示に従い、店の外に出て花の水やりや、はき掃除をする。

 そしてそれが終わる頃には既に、オープンを心待にする客の列が店の前に出来ていた。


「カトリーヌさん、外終わりましたよ! お客様も並んで待って下さってます」


「ありがとうカレンさん。それじゃぁ、あまりお待たせしても悪いし、お店開けちゃいましょうか」


 カトリーヌが店の入り口にある札をひっくり返して表示をクローズからオープンにすると同時、カランカランと鳴るベルの音と共に、大勢の客が店内へと押し寄せる。


「いらっしゃいませ。ようこそルージュ&ノワールへ!」


 声を揃え軽く腰を折って客を迎えるカレンたちウェイトレス一同。


 しかし、彼女達は知らない。その背後ではロイドが満足そうな笑顔でうんうんと何度も頷いていたのを……。

 



 本格的な昼のピークが過ぎて、それまで右へ左へと動き続けていたウェイトレス達にも落ち着きが戻ってきた。


 少し空席がではじめた店内。カレンが常連の男性客に接客していると、カトリーヌが休憩に行くように指示をする。


「カレンさん、ライラさんお昼ご飯食べて来てね」


 カトリーヌに言われて二人でスタッフの控え室に入ると、空腹を刺激するスパイスの香りがそこに充満していた。

 

「おおぉ~、美味しそうだね! 」


 テーブルの上の賄い料理に思わず涎がでそうになるカレン。


「落ち着きなよ。いつも食べてるじゃないか」


「ライラは何でそんな冷静なのよ。だって見てよコレ! ルージュ&ノワール名物のカレーライスだよ! 」


 そう、転道者が伝え広めたのか、こちらの世界にもカレーが存在する。


「ま、確かに美味しいけどね……ってアンタ……」


「ふぇ? なに?」


 ライラの話を聞き終わる前に、カレンは既にカレーをパクパクと夢中で食べている。ライラはやれやれと呆れた様子でカレンの口に手を伸ばし、ナプキンで彼女の口元についたカレーを拭ってやる。


「アンタってめちゃくちゃ可愛い癖に、なんか時々男みたいな所見せるよな。でも、アタシ以外にそんな姿見せたら、きっと幻滅されるよ。

 ……だから、二人きりの時だけにしときなよ?」


 突然のドキッとするような言葉に困惑するカレン。


「ねぇ……ライラって最近、百合展開系の行動とか発言多くない? もしかして本当に私の事好きになちゃった?」


「そうだって言ったらどうする? 結婚する?」


 悪ノリで冗談を言ったつもりのカレンだったが、ライラは真剣な顔をして答える。


「そんな、困るよ! ライラといるの楽しいし、とても綺麗だし、格好いいし、大好きだけど、その……好きって言うのは恋愛的なものじゃなくて……。

 それにライラと一緒になったらシグはどうしよう……。

 いっそシグと私達の三人で暮らすとか?!」


「ぶっ、アハハハ、何を焦ってるんだよ!

 冗談だよ。そんなこと有る訳ないだろ?!

 本当にカレンは可愛いんだから」


 カレン焦り様に、ライラは大笑する。腹が捩れるほど笑う姿にカレンは恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。

 それに気づいたライラは笑い疲れて目に涙を浮かべながら、カレンの頭をよしよしと優しく撫でる。


「もう。最近ライラは意地悪ばかりするんだから!!」


 女神アルティは言っていた。転道者の一度目の人生はベリーハードである、と。


 にも関わらず、カレンは幸運にもシグとライラに出会ったことで、幸せな日常を手に入れていた。


 そしてそんな穏やかな日々は、カレンが転道者となった目的を曇らせる。ずっとこの生活で良いのではないか……と。


 しかし、世界はそれを許さない。カレンの甘い考えなど。


 間もなく彼女の運命は大きく動き出す。



【お願い】

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