表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/64

家族3

 風穴が空いたアルティ像の前で、カレンが助けを求めるような目をしたのに気付くシグ。驚きで硬直していた司祭が、カレンに語りだしたのを聴いて、シグは急いで一階へと向かった。


 シグの焦りは次の二点。カレンはこの世界を殆ど知らない。ボロが出て転道者だと知られるのは、今後を考えて得策ではないだろう。それにこの結果の責任を取らされて治安兵に拘束される可能性もあると考えたからだ。


 しかし、そんなシグの不安は幸運にも外れ、それどころか司祭は魔法技学園への推薦を提案する。


 しかし、カレンが全くその内容を理解していなさそうな様子を見て、シグは提案の回答を一旦保留にして貰った。


 そして去り際に崩壊するアルティ像。司祭の青ざめた顔を見て、こうなる前に損害の不問を取り付けておいて良かったと心底安堵したシグであった。


 帰りの道中、シグはカレンの指先から放たれた閃光の色について考えていた。

 解魔の儀式で放たれる魔力は、加護を受けている精霊の属性によって性質を変える。

 ここまでは解魔の儀式を受ける者なら常識の範囲だ。


 属性とは『地』、『水』、『火』、『風』、『空』の五つがあり、ちなみに複数の属性の精霊から加護を受ける者はかなり稀であり、基本は一人一属性だ。


 放たれた魔力の属性は、光の色とそれを受けた水鏡の中の聖水の反応で判断することが出来る。


 司祭が言っていた聖水が爆ぜたり、波紋を生み出すというのは『風』の属性だ。その時の光色は碧。稀な二属性持ちで『火』と『風』なら二色が絡み合った光が発せられる。強い加護を受けた『火』属性の魔力なら、赤い光で、聖水は沸騰して蒸発するだろう。


 聖水の蒸発。これはカレンの時に起きた聖水の反応と一致する。しかし、カレンの放った光は白であり、光色が一致していなかった。それにカレンの引き起こした蒸発は、沸騰を経ていない。恐らく圧倒的なエネルギーを受けた事によるものだろう。


 カレンの属性光は『白色』。しかし五大属性の属性光に『白色光』は存在しない。


 シグの知識ではそれ以上は分からなかったが、司祭は簒奪の魔女リズと同じ事象だと言った。

 そして魔女リズはあらゆる属性の強大な魔法を行使すると言われていることをシグは知っている。


 カレン本人は未だに自覚していないようだが、今回の結果から、彼女が転道者と言う点を除いても異常な存在であることは明らかだった。




 シグがこのままカレンを放り出せば、彼女はその異常性から間違いなく過酷な人生を歩むように思われた。彼女の素質を利用しようとする者や、リズの様に危険視する者が現れるのは明らかだった。



 そして今、シグは強く悩んでいた。


 家族を亡くしてから無気力となり、そしてあらゆる事に無関心を貫いてきたシグであったが、しかしあの娘もそう言って放り出しても良いのかと葛藤していた。


 どうして今回そのような葛藤が生まれたのかは、シグにも理由が分からない。本当に分からない。


 しかし、彼の凍りついているはずの心の中で、妻と娘が、カレンを放り出しては駄目だと言っているように思えてならないのだ。


 

 自宅に戻ってから、カレンに夕飯を出してやろうとキッチンに向い調理をするシグ。男一人で七年過ごしても料理は全く上手くならなかった。


 昔家族に振る舞った事もあったが、妻は顔をしかめていたのが懐かしく思う。娘も大半は同じ反応だったが、今作っているスープだけは美味しいと言ってくれたのは良い想い出だ。


 自分が葛藤し、今考えている事は、カレンと死んだ娘とを重ねているだけだ、と誰かに言われても仕方ないのかもしれない。

 しかし、それは悪いことなのだろうか。この七年、なにもない白黒のような世界で生きてきたが、自分にも何か心の拠り所が有っても良いのではないか。シグがそう考えていた時だった。


 ーーシグ、その通りよ。


 シグの中で妻の、セリカの声が聞こえた気がした。そして、それによりシグの意志は決まった。


 カレンはスープを食べ初めて暫くすると大泣きをしてしまった。


(料理はやっぱり駄目だな)


 分かってはいたが、実際反応を見ると内心少し落ち込むシグ。しかし、カレンはこのスープを好きだと言って手で涙を拭い彼に微笑んでから、また泣き出してしまう。

 

 カレンが落ち着くのを待ってから、シグは自身の中に生きるセリカと決めたことをカレンに伝える。ここにいてもかまわない、と。


 それに対してカレンは、ここにいたい、学園に行きたいと答える。その言葉を聞き、シグはこれからこの娘を守っていってやろうと決めた。


 シグが自室に戻ろうと階段を上っていると、大きな明るい声でお休みなさいと声を掛けられた。


 先程からずっと耐えていたが、その言葉で目頭が熱くなり、思わず鼻を啜ってしまうシグ。


 なんだか恥ずかしく思い、振り返る訳にもいかず、彼はそのまま無言で自室へと向かうのであった。


 この日、シグには再び家族が出来た。


 そしてシグとカレンのこの出会いは、カレンの今後の人生において小さいとは言えない影響を及ぼすことになるのだ。


【お願い】

もしよろしければ感想、もしくはご評価頂けますと有り難いです!!

(このまま下にスクロールして頂くとフォームがございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ