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アミカ

 スペクトの森にいるモストールは、確かにレンにとって戦いやすい相手だった。ここにいるモストールは草食動物から変異したようなものばかりで、逃走力には長けているがどれもその巨体と見た目に反して戦闘能力は低い。

 4人はスペクトの森に数日間通い続けてモストールとの戦いを繰り返した。

 ベンは方角を見失いそうになるスペクトの森の中を的確に案内してくれた。時に休息の場を、時にモストールの居場所を。

 ここにいるモストールは必ず複数で群れをなすがベンは違った。レンはベンと相通ずるものを感じていた。


 戦いではモストールを葬った後に残る(エピソール)を街の技能交換所へ持って行けば新たな技や能力、そしてお金へと交換してもらえた。

 レンは日頃の喧嘩で培った経験をここぞとばかりに発揮し、より攻撃力の高い技を覚えたがスペクトの森に住むモストール相手に使うには勿体無いほどの威力だった。

 雷人は回復の魔法『レスティア』を得た。彼が覚える魔法は攻撃系以外のものに限られていた。

 アミカは一定時間だけ敵の動きを止める魔法『フリズド』を覚えた。アミカは雷人とは違い、魔法を駆使して敵を攻撃する才能を持つ。

 戦士であるカケルはさらにパワーアップをした。彼は新しい技を得るよりもパワーアップをして攻撃力を高めていく。


 戦いが終わればベンとはモストールヴァーデで別れる。いくら仲間とは言え境界線をまたぐことはベンの命が危ぶまれたからだ。

 4人はテーブルに広げた地図を囲み、明日からの旅の行程について話し合っていた。


「まず、スペクトの森でベンと合流。そして森を縦断してイコルマの街を目指そう」


「その先ベンはどうするよ?」


「そうよ、そこでお別れってこと?」


「イコルマの街には自在に姿を変えられる変化の術(ディファパレール)を持つ賢者がいるそうだ。少し時間をもらうことになるけど彼にそれを習いたい」


「そしたらベンと旅が続けられるてことかいな?」


「そうさ」


「俺は賛成。その間、1人でも戦いに出て鍛えておくからさ」


「もちろん私もいいよ。せっかく仲間になったんだし! たまには違う街でゆっくりもしたいしね」


「よし、じゃあ明日の朝に出発しよう。長旅になるからよく休んで」


 頭では休息の必要を理解しながらもレンはなかなか眠りにつけなかった。いよいよ本格的に始まる旅に興奮を覚えていたのだ。旅がいつまで続くのかレンには想像がつかない。ただ、いつまで続こうが構わない。どこかでそう思うレンがいた。

 朝はいつのまにか訪れた。レンにそれほど倦怠感はなく、むしろ体が軽く感じたのは思いのほか熟睡できたことを証明していた。


 身支度を済ませるとレンは庭へ出て空を見上げた。アナーウェルトがどこに存在しているのかわからないが、太陽が近くて大きい。いや、それが太陽なのかどうかもわからない。しかし、確かなことは澄みきった空、時おり緩やかな風が草花を揺らす今日というこの日が、旅立ちに相応しいということだった。


「何してるの、レン」


 振り返るとアミカがいた。


「今日から本格的に旅立つんだなぁと思ってさ」


「不安なの?」


「んなわけないだろ、むしろワクワクしてるぜ。アミカは?」


「私は……レンがいるから大丈夫かな……」


 アミカは少し上を向き呟くように言った。アミカの横顔を見つめるレン。初めて会った時、アミカは気が強そうに見えたが、その横顔はどこにでもいる普通の少女だった。


「なんで、アミカはここへ来たんだ? 俺は停学になった罰だけど、アミカや雷人やカケルはそんなんじゃねえだろ」


 アミカは視線を足元に咲く白い花に向け、いつもの活気に満ちた声とは違う精一杯絞り出したか細い声で言った。


「私は……ほら、よくあるいじめってやつ」


「いじめ?」


 アミカは黙ったまま頷いた。


「女子のいじめって嫌よね。陰湿でさ。始めの頃は物を隠されたり、机に落書きされたり……だんだんエスカレートして、上履きに画鋲入れられたりね。ひどい時はプールの時に制服隠されたり……」


 レンは何も言えなかった。視界の隅の方に映るアミカの目には、薄っすらと涙が浮かんでいることだけはわかった。


「死にたかった、本気で。そしたら、花田先生がここを教えてくれたの」


「わりぃ、嫌なこと思い出させたな。けどさぁ、もし戻れたら俺が助けてやるから大丈夫! なっ!」


「……ありがと、けど、帰る場所が違うのよ」


「アミカは白鳳じゃないのか?」


 アミカはゆっくりと首を振った。


「私は令凌女子よ」


「おっ、隣町じゃんか。そんなら近くだから大丈夫だ」


 何も言わずにアミカは再び首を振った。


「私は2005年からやって来たの」


 もちろん、レンは2019年の時代からやって来た。


「へ? マジか?」


「皆んな、来た時代が違うみたい。雷人は1999年、カケルは2005年」


「そうなのか……」


 もはや、異世界に来ているレンにはそれは大して驚く要素にはならなかった。


「おーい、早く飯食って準備しぃやぁ!」


 カケルの大きな声が響き渡る。

 レンは手を挙げて応えた。そして、アミカの肩を優しく2度叩いた。

 アミカは大きく深呼吸をして、笑顔を浮かべて頷いた。

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