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剣の達人

「ディファパレールを使える人を探してるって言ってたよね?」


「知ってるのか?」


 サシャは黙って頷いた。


「マジか! そりゃ話が早い、どこにいるんだ?」


「確かに以前は、いたわ」


「ん? いたわ? って、今は?」


「いない」


「なんだよぉ、期待させといていないのかよっ! じゃあ俺たちがこの街に来た意味がねーじゃんか」


「ごめんなさい……」


「いや、サシャちゃんに会えたから良かった! うん、俺はそれだけで満足だけど、他の皆んなが何て言うか……」


「なぁ、レン。これを見てくれないか」


 ノエルは右足の裾を捲り上げるとレンに脛を見せた。そこには広範囲に及ぶ傷跡。何かに引っ掻かれたか噛まれたような、いずれにせよ鋭利なもので肉を抉られたような傷だ。その痛々しい痕跡はレンから言葉を奪った。


「5年前、モストールとの戦いでやられたんだ」


「モストールと戦ったってことは、お前たちもゴッデストールを探してるのか?」


 ノエルは黙ったまま首を横に振った。


「俺たちは狩りをして生計を立てている。動物の肉はモストールヴァーデで獲るしかないんだ。貴重なタンパク質は高く売れるからな」


「なるほど、だから弓矢の名手てわけか」


 名手という響きに少し照れくさそうなノエル。


「そうでもない。ただ、足をやられてから走ったり長い距離を歩くことができなくなった。だから離れた場所から獲物を狙える弓を練習しただけさ」


「このダラウドリンクも貴重なタンパク質なの。だからお客さんをもてなす時には振る舞う習慣なのよ」


 サシャがグラスを手にする。


「だから、どこ行っても出てくるのか」


「話は戻るけど、今はディファパレールを使える者はいない、だけど、今でもそれをする方法はあるわ」


「えっ、どうやって?」


 サシャは窓の外に視線を向けた。

 深い緑に覆われた標高の高い山が見える。その高さを誇りながら全てが緑に覆われた山を見るのは初めてだった。


「あのマリルヴェールの山にこの街を流れるセントローズアムール川の源となる場所があるの」


 サシャは今度は棚に手を伸ばすと10センチ四方位の小さな箱を手に取った。黒い木製の箱は周囲に金属の装飾が施され、まるで宝石でも入っているかのような重厚感がある。

 サシャはそれをテーブルの上に置くと、ポケットから取り出したアンティーク調の鍵で慎重に箱を開けた。

 その様子を見ながら、レンは洋館の扉を開けた時のことを思い出していた。


「湧き出た水はセントローズ川とアムール川の2つに分かれる。そして、その2つが1つに交わりセントローズアムール川となってこの街を縦断しているの」


 サシャは説明を続けながら箱に入った小さな青い瓶を取り出した。

 前のめりになり顔を近付けて確認するレン。それは片方の掌に十分収まる大きさで、側面に何かが記されているが、象形文字のような字体はレンには解読不可能だった。


「何これ?」


 サシャは無言のまま瓶をゆっくりと何度か傾ける。瓶の中で水面が揺れるのがわかった。


「ただの水?」


 サシャは首を横に振った。


「ディファパレールに必要な水よ」


「この水で変身できるってことか?」


「そう、だけどこれだけではダメ。川の源流となる湧き水にこれを混ぜて飲まなければいけない」


「えっ? そんな簡単なこと?」


 山に登り湧き水を汲むことくらい容易いことだとレンは思った。


「それが簡単にはいかないんだ……」と神妙な面持ちのノエルが呟くように返した。


「マリルヴェールの山にはグラムの森が広がっている。スペクトの森より格段に強いモストールばかりだ。そこを進みながらあの高さまで辿り着かなければならないんだ」


「あぁ、前の勇者が死んだってとこな……」


「そうだ」


「俺にその山へ行って水を汲んでこいってか?」


「あぁ……俺たちにはそれが必要な理由があるんだが、この足で険しい山に入るのは難しい。だけど無理は言わない。命に関わることだ」


 暫しの沈黙が続く。自分と同じ立場の人間が殺されたという事実を知り、さすがのレンも不安を感じずにはいられなかったが……


「大丈夫、俺は死なないから。てか、これから先にもっと強い奴らはたくさんいるだろ? ほら、漫画でもゲームでもここら辺はまぁ序の口なはずだからな」


 相変わらず強気だった。


「本当にいいの?」


「ああ、もちろん。どうせ俺たちもそれを求めてこの街へやって来たんだし」


「ありがとう!!」とサシャがレンの胸に飛び込んだ。甘い香りがする。サシャの突然の行動にレンは動揺を隠しきれなかった。

 このまま強く抱きしめたいという衝動……所在の定まらないまま垂れ下がった両手……

 レンは両手をゆっくりとサシャの体ギリギリのラインに沿って上昇させ、そっと肩に置いて我が身から遠ざけた。

 精一杯の力を表情筋に注ぎ、緩みそうな顔を引き締めて真剣な表情でサシャを見つめるレン。


「無事に帰ってきたら、デートしてくれる?」


 しかし、やはりニヤリと笑ってしまうレンに少し顔をひきつらせるサシャだった。


「まぁ、それはその時に考えよう」とノエルが2人の間に割って入る。


「あっ、そうだな……」


「レン、頂上付近にはこの辺りで1番強いモストールがいる。グルゾームよりもはるかに強い。もう少しパーティーの力を強くしてから行った方がいい。今後のためにもなるだろう」


「強くするって、どうやって?」


「ちょっと待っててくれ」と部屋を出たノエルは、筒状に丸められた紙を手にして戻ってきた。ノエルが右足を少し引きずるようにして歩くことに、その時初めて気付いたレンであった。

 ノエルは紙に結ばれた紐を解くと、ゆっくりとテーブルの上に広げた。


「この街の地図だ。ここが俺たちが今いる場所、この山がマリルヴェール。君たちの宿は街の西側、この辺りだ」


 地図で見るイコルマの街は南北に長く、周囲は山脈で囲われている。地図のほぼ中央部に位置する市街地は東西南北の通りがまるで碁盤の目のように整備されており、宛ら京都のような街並みだとレンは思った。


「数年前までこの街には盗賊がいた。それを率いたのがコーシャという人物だ。唯一、マリルヴェールの頂上まで行って無事に帰ってきた剣の達人さ」


「そいつに剣を習えって? めちゃくちゃ悪い奴だろ、教えてくれるのかよ」


「大丈夫だ、金さえ払えばな。おい、サシャ」


 コクリと頷いたサシャは、テーブルの位置を少し移動させるとまるでパズルのように床の木を1枚ずつ外し始めた。

 そして、床下から袋を取り出しノエルに手渡した。


「この金を俺が払ってお願いする。良ければ一緒に案内するけど、今から大丈夫か?」


「あぁ、もちろんだ」


「コーシャがいるのは街の南、この辺りだ」とノエルが指差す場所は地図の最下部だった。

 コーシャのいる場所へ向かうにはセントローズアムール川を船で下るのが最も早い。レンとノエルは船着場へと向かった。

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