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10/12

一目惚れ

 4人は朝食を摂りながら今日一日の予定について話し合っていたが、前日の疲労は4人に色濃く残っていた。

 レンはテーブルに置かれたダラウドリンクを眺めた。


「これ、例のやつ?」


「そう、ダラウドリンクよ」


「またか、虫ジュース……」



 レンは渋々ながらグラスを手に取り、渇いた喉を潤すために一口だけ口に含んだ。


「うまっ!」


「ちょっと! どーゆー意味よ!」


 それは初めて飲んだアミカお手製のものよりフルーティで甘みが感じられた。


「甘くて美味いじゃん、これっ!」


「失礼なっ! もう作ってあげないから」


 そっぽ向いて怒るアミカに対して「いや、ごめん、そうじゃなくてさっ、あのぉ」と必死に取り繕うレン。


「とにかく、僕はこの街で賢者を探す。皆んなはそれぞれ行動するってことでいいかな?」


「じゃあ、私は途中まで雷人と一緒に行くわ。その後は街を散策する」


「俺はテキトーにゆっくり過ごすわ、さすがに疲れが抜けねーし」


「ほな、僕はここでゆっくりしとくわぁ」


「よし、じゃあ食事を終えたら僕は出発するね」


 雷人は初老の支配人からいくつかの情報を得ようとしたが、大したものは得られなかった。とにかく「街へ出たら誰か知ってるんじゃないかな」ということで、予定通り街の中心部へと向かった。


 今日も相変わらず空は高くて青かった。


「なぁ、レン」


「どした?」


 2人が発った後、レンとカケルは軒下に吊るされたハンモックに揺られていた。


「彼女おるんか?」


「今はいないけど、お前は?」


「おるわけないやん」


「おるわけない、ってこともないだろ。デブが好きな奴もいるんだしさっ」


「コラコラ」


 カケルのハンモックは、ゆらゆらと揺れるたびにギシギシと音を立てている。


「アミカのこと、どう思う?」


「どうって? どうゆーことよ」


「恋愛対象として」


「あぁ、もちろんストライク、ど真ん中だな」


「えっ!」


 カケルは慌てて体を起こしたが、その勢いで派手にハンモックから転落した。

 レンはハンモックから飛び降りると、その後ろ姿を見送るカケルに向けて「冗談だよん」と振り返ることなく右手を挙げた。


 イコルマの市街地はメルーボよりも栄えていた。建ち並ぶ建造物の高さが遥かに高くて密集し、行き交う人々にも洗練された雰囲気が感じられる。何より街の雰囲気が明るいのは、色鮮やかにペイントされた建物の壁のせいだろう。赤や黄、青という具合に原色に彩られた建物が建ち並ぶ。

 目抜き通りには商店も多く店先には様々な種類の食べ物や日用品が並んでいる。


 レンはゆっくりと商品を見ながら目的なく街を散策したが、この地味な布ッキレの服に合うアクセサリーのひとつでも買いたいという衝動に駆られた。

 一軒ずつ覗き込むように商品を確認するが、不思議といくら探してもなかなか装飾品の類は見つからない。

 レンは目抜き通りから横道に入り、人とやっとすれ違える位の細い路地を歩いた。路地は両脇を建物に挟まれており、陽射しが遮られ薄暗い。そこにも人目を避けるようにして多くの店が並んでいた。まるで教科書で見た戦後闇市のような雰囲気だとレンは思った。

 しかし、先程までとは打って変わり、通りのセピア色の雰囲気に反して色鮮やかな売り物が目立つようになった。アクセサリーや雑貨も多く売られている。

 食品店と雑貨店に挟まれるようにして、シルバーと思しきアクセサリーを中心とした商品が並ぶ店があった。レンは店の前で立ち止まり、黒い布の上に並ぶアクセサリーを吟味した。どれもデザインに優れている。


「いらっしゃい」とレンと同じ年頃の少女。透き通るような白い肌、大きな二重まぶたの目に長いまつ毛、小さな薄ピンクの唇にほんのりと赤く染まる頬。ウェーブがかった赤茶色のロングヘアは後ろで1つに束ねられている。


ーー 可愛い!


「服の胸らへんに付ける、ほら、アクセサリーみたいなの探してんだけど、どんなんがいいかな?」


 少女はそっと微笑んだ。


「えっ、笑った?」


「こんにちは」


「えっ? この世界には感情が無いって……」


 少女はレンの言葉を遮るようにして言った。


「私はサシャ、あなたは?」


「サシャちゃん……俺はレン」


「よろしく、レン。どちらから?」


「俺は、えっと、なんて言ったらいいんだろ、ほらっ、花田って知ってるかな? 知らないよな」


「知ってるわよ。どうしてイコルマへ?」


「この街に変身させる術? みたいなのを使える奴がいるって聞いて、そいつを探しにやって来たんだ」


 サシャは少しの間を置き「なるほどね、わかった、大丈夫よ」と言うと何やら紙に記してレンに手渡した。


「明日、時間ある?」


「もちろんっっっ!」


「じゃあ、正午にここへ来て」


ーー顔に似合わず積極的じゃん!


「了解!」


 レンは完全に浮かれて帰路に着いた。感情が無いはずの世界に笑う人物がいた疑問などは既に頭の中から消えていた。

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