プロローグ
レンは丘の上に立ち、深く吸い込んだ空気を大きく、そしてゆっくりと吐き出した。眼下にはまるで鳥瞰図のように広大な景色が広がる。どこまでも続く赤土の大地。空はアナーウェルトの世界に住む人々の気持ちとは対照的に不思議といつも青く澄み切っていた。
レンは考えていた。この旅はいつまで続くのかと。それは終わりなき旅のように思えるが、ある日、突然終わりを迎えることが決して不思議ではないようにも思えた。
今、彼の心は満たされていた。同じ目的に向かい、苦難を乗り越えようとする仲間たちの存在がある。
出会い、別れ、信じていたものの喪失……様々な経験は彼を大きく成長させた。
丘の下から舞い上がった風がレンの頬を撫でる。
レンは腰に付けた鞘から剣を抜くと頭の上に高く構えて仰ぎ見た。長く鋭い刃は光を受けて輝きを放つ。そして、次に風が舞い上がった瞬間、目に見えない何かを斬るように剣を素早く振り下ろし再び鞘に収めた。
旅は続く。この先にさらなる苦難が待ち受けているだろう。しかし、その顔は僅かな不安すら感じられない清々しいものだった。
レンは振り返ると歩みを進めた。
風が吹くー
それはレンの背中を後押しするかのようであった。