20.説明しよう!
お久しぶりです。約一ヶ月ぶりの更新です。
なんとか月一更新は実行できそうなので、この形で行かせてもらおうと思います。
今回、キリのいいところが早めに出て来てしまったので、5000文字程度の少なさになってしまいました。次回こそは7000近くまで行きたい…!
「あなた…狩人君…よね…?」
「…………」
「夏奈!?一体どう言う事だ!?」
バレた…のか?
僕は今、正体がばれそうで追い詰められている。
そんな言動……いや、思い当たる節はある。つい先程彼女らの一人を『ビャクト』と呼んでしまったばかりだ。
それに追加質問で『ディモルフォセカ』と言う花を答えたと言う事も。
まだこの世界の花についてはよく知らない。母様が生けている花があるけど、名前を聞いたことはなかった。仕方がないので前世で好きな花を答えたけれど…これは誰にも言ったことがないはずだ…
「夏奈ちゃん…改めて聞くわ。この子が狩人君ってどういうことなの?」
「君が…狩人君だって…思うことは…三つあった…」
「その狩人って人については知らないけど、僕に似ているの?」
「ううん…君とは少し違う…でも私には…なんだか…分かる気がするの…」
「夏奈ちゃん、三つの判断材料について聞いてもいいかしら」
「うん…分かった…」
三つ…?一つや二つじゃなくて…?
僕はどんなことから見抜かれたのかドキドキしながら聞くことにした。
「一つ目は…他人に優しいこと…狩人君…自分の方が大変なのに人のことばかり気にして心配してた…」
……確かに。前世の僕は心配ばかりされる身だったから、他の人に気を配って出来るだけ迷惑をかけないようにしていた。
それにお見舞いに来てくれた時に体調が悪そうだったり、怪我をしてたら自分のことなんか放って、よく応急処置的なものをしていたものだ。
だからって僕だと決められるようなものじゃない。確信できたのは他の二つだろう。
「二つ目…最後に聞いた…花の名前…君…『ディモルフォセカ』って言った…」
「確かにそう言っていたけれど…それが何か関係するの?夏奈ちゃん」
「うん…ディモルフォセカ…は…ここでは前の世界?…地球…でも…あった…」
やっぱりそれも根拠に入っていたか…とっさに答えたとはいえ、あまり有名どころではない花だったと思うんだけどな。
「ディモルフォセカ…花言葉…は…『元気』…狩人君…マリーゴールドが好きって…みんなに…言ってた…マリーゴールドの…花言葉も似てる…『健康』…」
「なるほどね…でもそれだけだと何も確信はできないでしょう?こちらにもディモルフォセカなる植物があるかもしれないし」
「そう…だから…これから話すやつの…疑問を…これで確認した…」
もう別に正体明かして良いんじゃないんだかろうか。既に確信してるみたいだし…
「一番…この中で確信した…三つ目…因幡ちゃんの事…『ビャクト』って呼んだ…」
「やっぱり私の聞き間違いじゃなくて、そう呼んでいたのね。しかもこの名前を知っているのは私を除いて二人だけ…」
「そう…だから分かった……ね…?…そうでしょ…?」
そう言って二人は僕の方を見る。
これは隠し通すことは無理そうだな。たとえできたとしてもいつかは綻びが出る。ここはもう認めざるを得ないかな。
「はぁ…その通りだよ。僕は影野狩人。君たちの知ってる病弱だった元高校生さ」
僕は諦めて正体を吐いた。
「やっぱり『ビャクト』って言っちゃったのが不味かったかなぁ」
「狩人君…!」
夏奈が勢いよくこちらへ向かって走って来た。
「ん?え…何!?ちょ!隠してたのは悪かったけど叩かれるのは勘べ──!」
ファサッ──
「良かった…本当に…良かったよぅ…!」
叩かれると思って体を固めたが、僕の予想は相外れ、やってきた感覚は優しいぬくもりのような抱擁だった。
「……多柱さん?」
「狩人君…生きてた…本当に…生きてた…!」
「……これどういうこと…?知ってる?因幡さん」
「まぁ…説明すると少しかかるんだけどね…」
実は多柱さ──夏奈ちゃんは僕が事故で死んでしまったことを受け止め切ることが出来なかったようで、僕の死を告げられた時、酷いパニック症状を起こしたらしい。
高校生になってからできた仲の良い友達だったから彼女とはよく一緒にいた。一緒にいすぎて、からかわれたこともあったほどだ。
僕は別にそれで嫌な思いなどはしていなかったが、彼女はその言葉をきっかけに自分の恋心に気づいて、そこから僕に恋愛感情を抱いたらしい。
そんな片思いかもしれないが愛していた人が事故で死んでしまったらパニックを起こすのも無理はない。
パニックを起こしている彼女をなんとかして鎮めるため、隣にいる水月さ──因幡さんがたまたま知っていた異世界転生ラノベの知識を生かして、僕が異世界へ飛ばされたのでは?という無茶振りながらも説得を試みた。
パニックになっていた彼女はなんとかして自身を落ち着かせるため、藁にもすがる思いでその説得を受け止めた。
近頃では薄々自分のために嘘をついてくれていたと気づいてきており、だんたんと僕の死を受け止めて来ていたとのこと。
「なるほど…僕がいなくなった後にそんなことが…」
「そうなのよ。落ち着かせるの大変だったんだからね?」
「ぐすっ…ぐすっ…」
「ごめんね。そんなに心配させて。僕はここにいるから、安心して」
「………うん…」
僕は彼女──夏奈ちゃんの頭を撫でながら声をかける。
「それにしても、よく『ビャクト』のことを覚えてたわね。こっちで13年?生活してるんでしょ?」
「前世のこと、忘れたことはないよ。苦しくて大変な人生だったけれど楽しかったから。それに大事な友達のことなんだから、忘れなんてられないよ」
「そうね。それにしても『ビャクト』か…久しぶりに呼ばれたなぁ…」
しみじみしている彼女──水月因幡には一つ、学校の皆には隠している特異な体質がある。
それは多重人格というもの。皆も何度か聞いたことはあるだろうこの単語。そんな彼女は二つの人格を持っている。
「日本では滅多に出てこないから、呼ばれたのは久しぶりだわ。あの国は平和だもの」
「良いことじゃない?あれ止めるの大変なんだから」
「まあね。あの宙に浮く感覚も久しぶりだったわ」
僕が因幡さんの裏の人格を見たのはほんの偶然の事だった。
珍しく体調が良くて、ちょっと遠めに散歩をしている時、路地裏でなにやら喧嘩をしているような音がしていたので、事件の可能性も考えて見に行った時、見てしまった。
普段、お見舞いに来てくれている因幡さん。
だが、目の前にいる因幡さんはいつものキリッとした風貌の面影が無く、ただただ暴力に喜びを感じているような表情をした別の|彼〈・〉|女〈・〉がいた。
怖くて隠れていたのだが、その後普通に見つかって怒鳴られた。
怒鳴られている途中、彼〈・〉女〈・〉の意識がもう1人に戻されたらしく、因幡さんになっていた。
よほど見られたくなかったことなのか、その場で誰にも言わないことを約束させられ、ここは一時解散となった。
翌日、また病気が再発して病室で寝ていると、因幡さんと夏奈ちゃんが来て事情を話してくれた。
そこで僕は彼女のことを詳しく知った。
「『白兎』なんてカッコいい名前つけてもらって、彼女も満足していたわ」
「安直な名前だけどね。3人で考えた名前だから忘れるわけないよ」
ビャクトの名前が浮かぶまではこうだった。
因幡→因幡と言ったら白兎→白兎でいい感じの名前…ビャクトでどう?→本人に確認→OK出たので決定!
とまぁこんな感じだった。本人からカッコいい名前の方がいいと言われていたので『ビャクト』という名前になった。
「あれから2人の言うことは聞くようになったし、私にとってもあまり暴れなくなっていいことだったわ」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
ビャクトは僕と夏奈ちゃんの言葉は聞くようでよく入れ替わった時は2人でなんとかしていた。
っと…2人に会えて驚いてたから肝心なこと聞いてなかった。
「そういえば聞くの忘れてたけど2人はどうやってここに飛ばされて来たの?」
「それが分からないのよ。飛ばされる1時間前までの記憶があまりないみたいなの。夏奈ちゃんと2人で歩いていたのはぼんやりと覚えているのだけれど…なんの目的だったのかは分からないわ」
「そっか…でも大変だったね。いきなり変なところに飛ばされては魔獣が襲ってくるだなんて」
「そうね。でも何故かビャクトが出ている状態だったし、手に刀も持っていたからなんとか耐えていられたわ。それに狩人君が来てくれたおかげで助かったわ」
「狩人君…!狩人君…!狩人君…!」
「夏奈ちゃんったらあなたにベタベタじゃないの。それだけ嬉しかったのね」
「幸せ…」
さっきから夏奈ちゃんはずっとこの調子だ。そろそろ我に帰って離れても良い頃合いなのだが……まいっか。
ちなみに今まで話している間もナデナデは続行中である。
「それにしてもここはすごい木の数ね。森の中なのかしら?」
「ここは僕の家の裏山だよ。走って20分くらいのところに家があるよ。とりあえずここは危ないし、早速だけど向かおうか」
「走って20分…広い裏山ね…」
まあ、日本とは違いますからね。片道最短で走って1時間の山とか普通にある。
もう夜も深い。母様に村のみんなの時間稼ぎもしてもらってるわけだし、急いで戻ったほうがいいかもしれない。
「夜も深くなって来たし、急いで帰るから、因幡さんもっと近づいて」
「近づく…?ここで…いいのかしら?」
「むふふぅ…嬉しみ…」
「そうそう。じゃあ行くよ、《対点転移》!」
「これは、魔ほ──!?」
「むふふぅ───」
僕は2人を連れ、《対点転移》で家の庭に戻った。
────スタッ
「うん、今日も無事に転移できた。ようやく掴めてきたかな?」
最初、この魔法を覚えた時苦労したものだ。座標は正確で細かくなきゃいけないし、もしも飛んだ先に何かあればそれにめり込むことになるし…
地面に下半身が埋もれたのはいい経験だった……
「ううっ……」
「むへへぇ…しあわ…せぇ…」
「あ、ごめん。転移酔いのこと忘れてた」
「これしきのこと…別に大丈夫…よ…うっ!」
「頭〜…がぁ〜…クルクル〜…」
「ちょ、ちょっと待ってね、酔い止め出すから。………あったあった、これ飲み込んで」
「いただくわ…」
「飲む〜…」
転移酔いのことをすっかり忘れてた。これも転移魔法の難点の一つ。術者の魔法が低レベルだと、次元軸の座標がブレて酷い車酔いみたいな症状を起こす。慣れるか術者が高レベルだと酔いは起こらない。
そんなことを思い出しながら転移によって酔っている2人に即効性の酔い止めを渡す。僕もよく使ってた物だ。
というか夏奈さん…そんなキャラでしたっけ?
「慣れてたからつい…」
「いえ…大丈夫よ。………ふぅ。ところで聞きたいんだけど、さっきのは魔法…よね?」
「うん。ここはラノベでよくある中世ファンタジーの世界なんだ。さっきみたいな転移系の魔法もあれば、火や水の魔法、魔物だって存在するよ」
「魔法…ね」
「ちょっとワクワクするでしょ?」
「……ええ。好きだったもの、異世界系。正直、今心の中はドキドキでいっぱいなのが否めないわ」
そりゃそうだろう。誰だって、ラノベに夢を抱いたならこの世界はワクワクドキドキする。
もしかしたら自分の番かも?なんてね。でもそんなことはあまりないことが多いんだけど……それはまだ黙っておこう。
「狩人君…ここ…あなたのお家…?」
「そうだよ。ここが今、僕が住んでる家『癒しの薬』。まぁ、薬局?みたいなものだよ」
「ここには家族で?」
「旅行先の旅館の人みたいに聞くね。うん、ここでみんなと暮らしてる。というより僕はここで生まれたんだ」
「狩人君の…新しい…ご両親…」
「外で話してるのもなんだし、家に入ろっか」
「お邪魔します」
「おじゃま…します…」
何か変なことが起きる前に注意しておくことは…………ありすぎて逆に困るな…
「2人ならわかると思うんだけど、この世界では前世の技術とか知識のことはあまり話しちゃダメだよ?それで変なひとに狙われたりとかするからね」
「ええ、分かったわ」
「了解…」
「あ、それと僕はクリートだからね。僕らしかいない時ならまだいいけど、基本的にはこっちの名前でお願いね」
「ふとしたときに間違えそうね…」
「難しい…問題…」
「頼むよ?ほんとに…」
絶対ミザリーとか母様とか父様とか、食いついてくるからなぁ…今からでも何か対策考えておきべき?これが杞憂だといいんだけどなあ…
「さあ、ようこそ!異世界、そして『癒しの薬』へ!」
僕は少しの不安を胸に、2人を家へ案内するのだった。
次回の更新も一ヶ月後になります。
お待たせしてしまっている方がいるのならすみません。
ちなみに自分は植物のことはあまり知らないので、ネットからそのまま取ってきただけになります。意味が違う可能性がありますので、ご注意下さい。
誤字・脱字等ありましたら報告していただけると幸いです。