18.一件落着?
一章最後の話で言うのも何ですが、この小説は基本作者が書きたいと思ったことを書いていくので物語の一貫性もへったくれもありません。
途中でストーリーがおかしくなってきても生暖かい目で見てくださってくれれば幸いです。
「ただいま。ミザリー」
僕はここに戻ってきた。愛する、守るべき存在を守るために。
しっかりと過去と向き合い、対峙することが大切だと分かった。それによって見つかることも、気づくこともたくさんある。
過去の嫌な記憶から逃げてばかりじゃ大切なものも見落としてしまう。時にはどうしても嫌で逃げ出してしまう時だってある。
僕は理由を何だかんだ付けて逃げてばかりだった。目を向けるのも嫌な毎日だった。そのせいであ〈・〉の〈・〉存〈・〉在〈・〉は生まれてしまった。
「にいさまぁぁ!」
「わっとと…」
「にいさまにいさまにいさま!」
「よしよし…そんなに強く抱きつかなくても僕はもうどこにもいかないよ」
「よかった…にいさまがもどってきたよぅ…」
「ごめんね。心配させちゃったよね。安心してくれるのは分かる。でも少し離してくれるかな?まだやることがあるんだ」
「………………わかった…」
「えらい子だ。さて、そこのしれっと逃げようとしてる2人。何か言い残すことはあるかな?」
いつのまにか弟の足の氷を溶かして逃げようとしている殺し屋兄弟。そんな敵から意識を離すなんてことするわけないでしょ?遺言を言う機会を与えてみる。
「………………」(ニコッ)
「………………」(二゛ゴッ)
「………………」(ニコッ)
無言での笑顔の応酬。弟だけはギクシャクした笑顔だったが。
バッ!!
「逃すわけないよ《光捕縛》」
いきなり猛スピードを出して逃げ出す殺し屋兄弟。だが《光速捕縛》からは逃げられるわけがない。名前の通り光速の光り輝く縄が対象に飛んでいき、捕まえる。
いくら身軽で足の速い殺し屋と言えども光の速さは走れない。避けたりなど抵抗はすれど結果あっけなく捕まった。
それに捕まった時に思いっきり顔面から小石が散らばっている地面へダイブしてた。うわ、痛そ…
「くそ……さっさと殺しやがれ!俺は情報は何も話す気はないぞ!」
「…………えぐっひぐっ」
「へ〜、あっそう?兄の方はそうでも弟の方はどうだろうかなぁ?抵抗する気もないみたいだよ?」
「………………」
殺し屋兄の方はいろいろ騒いだり《光捕縛》から抜け出そうとしていたが、弟の方はもうそんなことをする気力・体力共に無いようでただひたすらメソメソ泣いているだけだった。
「ひっぐ…えぐっ…ごめんなさい…ごめんなさい…」
もう弟の方は戦意喪失しているようだ。
ならもう何もしなくていいかな。流石にあんな状態に追い打ちをかけるような鬼畜などではない。
「さてさて…それじゃここから先は専門家にお任せしましょうかね」
「はい。お任せを」
「おい待て!やめろ!やめてくれぇぇぇ!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
抵抗する殺し屋兄を引きずり、ごめんなさいと連呼し続ける弟を肩に担ぎ、地下倉庫の方へと消えていった。
「はふぅ……」
「にいさま!?にいさまだいじょうぶ!?」
僕は膝から崩れ落ちてしまった。
長い間精神を使い続け、その後も緊迫とした空気の中必死に体へ無茶を言わせていた。それが終わったこともあり、緊張の糸が切れ一気に脱力してしまった。
「ミザリー、本当に無事で良かったよ」
「にいさまこそ!にいさまおかしくなってもどらなくなっちゃうかもって……思って……うっうっ…」
「大丈夫。僕はちゃんとここにいるから、ね?ほら泣かないの」
ミザリーの気持ちはよくわかる。大切に思っている兄がいきなり別人のように変わってしまったのだ。それにいくら呼んでも応えてくれない、終いには決してやると思っていなかった自分に対しての暴力。
ここまで色々な目にあって悲しくならない方がおかしい。本当は思いっきり泣かせてあげたい。でも、いつかきっと訪れる日に耐えられるように今からでも慣れさせておかないと………こんなことさせるなんてとても苦しい。
「ご主人様…ご無事で本当に良かったです」
「うん。シャマラさんもミザリーを庇ってくれてありがとう。おかげで大事もなくことが済んだよ」
「いえ…私は何も出来ずに…」
「ううん。シャマラさんがいたおかげもあるんだ。ミザリーはまだ体が強くない、もしもあのナイフが刺さったりでもしていたら一大事だったんだよ。掠っただけで済んだなんてほんと、幸運だよね」
「私は…《不幸なる者》のはずなのですが…」
「前向きに考えていこうよ。そしたらきっといい方向に進んでいけるさ」
「…………ですね」
でも…本当に今日は……つかれ…た…な……
僕は急に意識を失った。多分、過剰な疲れによる強制睡眠だろう。最近アベルがそんなこと出来るようになったとか…言ってた…し……
どうやら潜在意識までも強制的に眠らせることができるようになっていたらしい。僕はその言葉を最後に長い眠りへと落ちた。
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──────
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「ん…?白い部屋……また飛ばされたのか」
急な意識の覚醒が起こり、目を開けるといつもの白い部屋に来ていた。
「最近多くないかなぁ…というかどう考えても僕が勝手にこっちに来てるっぽいんだよなぁ…」
驚かれたりするし、完全に僕が侵入してる側なんだろう。特に害などがないから置いとかれているわけで……そう考えると悲しい。
「どっかに呼び出し鈴的なものとかないのかな……あるわけないけど」
神さま達の世界でそんなものは無いだろうと思いながら一応探してみる。
「…………あった」
あった。すぐそこに置かれてた。テーブルの上に。多分僕がなんらかの理由で来た時用に置いてあったのだろう。
「待ってても仕方ないし、鳴らしてみよう」
ピンポーン!
「ふぁっ!?」
思いもしない音がなった。僕はてっきり『チーン』となると思っていたのだが、完全に今風なチャイムの音だった。しかも僕が錯誤したのには理由がある。
「どっからどう見ても…呼び出しベルじゃん…」
そう、置いてあった呼び鈴はホテルなどでよくある卓上ベルの形なのである。
これは間違えるよ。10人中10人は間違える。それほどに自信が謎に出てくる。
「はいはーい?」
「ひゃっ!?」
そんな声が急に後ろから聞こえてきた。
びっくりして振り返ると…
「ヒュッ……」
さらに驚くことになった。
「も〜…勘弁してよね。お風呂上がりにすぐ呼びだすなんて〜…あ、クリートじゃないのなんでここにまた?」
「それはこっちが聞きたいですよ…それよりも……少しは隠してください」
「へ…?」
呼び出しベルで呼ばれて出てきたのはいつもの女神さまだった。でもさっき言ってた通りお風呂上がりらしくて……完全全裸だった。
「……………っっっっ!!!!!!」
「恥ずかしがる暇があるなら早く隠したらどうですか」
「……冷静なのね」
「いつも妹と一緒にお風呂に入ってるんですよ?この程度でたじろぐ理由がないです」
「それって遠回しに妹以下と言ってるわよね?5歳の女児以下とか…ムカつくわぁ…」
「というか思ってましたけど最初に出会った時の光の粒での登場、あれ演出だったんですね」
「そうよ。まだ若い頃にはあれで迫力つけとかなきゃ舐められるのよ。ゼウスの爺さんとかあそこまで行くと名前が知れ渡ってるし、あんなことする必要がないのよ」
目の前の女神さまは最初に会った時とは違い、光の粒ではなく完全に身体がある状態だった。だから隠してと言えたわけだ。
「で、今日はなんでここにいるの?」
「僕が知りたいですよ。そして隠すこと諦めましたね」
「私のプロポーションをみて興奮しないということに腹が立ってね。こうなったら意地よ、あなたが興奮するまで服は着ないわ」
「はぁ…風邪ひきますよ」
女神さまは隠すのを完全に諦め、逆にこちらに見せつけるようにしてきた。膨よかな双丘とキュッ締まったお腹に少し大きめな熟れた桃が目の前を行ったり来たりしている。それに加えて顔も整っているのでさらに際立たせている。
普通に見れば顔もスタイルも良い。前世の僕ならば完全に反応していただろう。だがなぁ…今の僕にはミザリーという天使がいるし、その天使と毎日お風呂入ってるし…第一この体じゃ反応しないんだよなぁ…………本人のためにも黙っとこ。
女神さまが色々な悩殺ポーズをしたりしながら要件を聞いてくる。よくそんなことできますね、羞恥心はないんですか?
「ないわ!」
「さらっと心の声を聞き取らないでくださいよ」
「でもこの技はまだまだね。今の一言しか聞こえなかったわ…」
「それでもこちら的には迷惑なんでやめてくださいね」
「なんか今日のあなた辛辣じゃない?いつもと口調が違うんですけど…」
「そうですか?いつも通りですけど」
こんな会話の合間にも女神さまは悩殺ポーズをやめない。バリエーションがとても豊富です。どこで覚えたんですかそんなの…多分そういう系の神さまからだな。
「それにしてもなんでここに来たのかしらね。あなたが来るってことはこっちかそっちに何かがあるっことなんだけど…」
「見た感じそっちの方は何もなさそうですね。じゃあ僕の世界の方なんですかね?」
「そうね…ちょっと確認してみるから待っててちょうだい」
そう言いながらも悩殺ポーズはやめない女神さま。あ、今のポーズミザリーがやったら絶対かわいい。
何か虚空を見つめて探しているようだった。僕からは見えないウィンドウ的なものがあるのだろう。きっと。
というかそれよりもさっきからあなたの大事なところがずっと丸見えなんですが。ポーズがポーズだから隅々まで見えてますけど。ただし僕のは反応を一切してない。7歳ってまだ発達途中だからなぁ…
そんな変なことを変な場所で思いながら待っていると、
「あ〜…これかしら」
「ありました?」
女神さまが何か見つけた。
「ほら、これよ」
「…ほらと言われましても」
「あ、そうだった。人間からは見えないようにしてるんだったわね。はい、これでどう?」
「あ、見えます見えます。これは…魔法陣ですか?」
女神さまが何やら設定をいじって僕にも見えるようにしてくれた。
そして渡されたウィンドウに映っていたのは、複雑な詠唱が描き込まれた魔法陣だった。
「そうそう。これ、結構難しい詠唱が描いてあるんだけど、これって何千年と前の勇者召喚の魔法陣なのよね」
「勇者召喚って…そんな簡単に教えて良いんですか」
「いいのよ、私の監督下じゃない召喚なんだから。勝手に召喚されて勝手に戦って勝手に死んでいくだけなんだもの。そこまで私が見ていたらキリがないわ。昔の神が人手不足で作ったものだし、それに今は失われた技術だからね」
「異世界召喚の裏を見てしまった…」
まさかそんなことになっていたとは…神さま経由じゃなければ見守ってもらえないのか…そりゃそっちの世界に喚びだしても帰る方法が分からないわけだ。だって自分らで作ったわけじゃないのだから。
「というかそろそろ服きてくれませんか。さっきから目に入って鬱陶しいです」
「いやよ。あなたが興奮するまでこのまま続けるわ」
微妙にこのウィンドウ、透けてるから見えるんだよ。女神さまが諦めずに悩殺ポーズしてるのが。
「あーはいはい。興奮してます興奮してますよー」
「そんな棒読みで…ここまで来たら直接行くわよ!?」
「物理はやめてください。色々と規制がめんどくさいんで」
「メタい!あなた今とってもメタい発言をしたわ!」
めんどくさいからもうスルーでいいですか?いいですよね。
「それで、この勇者召喚の魔法陣がどうかしたんですか?まさか本当に勇者召喚されるてきな感じで?」
「そのまさかなのよ〜。しかも今回の勇者、ちょっと訳ありみたいなのよね〜」
「……まさか僕に任せると?」
「そ☆」
「………………」イラッ
「あら?なになに?近づいてきて、もしかしてようやく興奮した?やだー、私襲われちゃう〜」
僕は無言で女神さまに近づいていく。なんかイヤンイヤンとくねくねしているが完全無視で近づく。
「きゃー!強行魔に襲われる〜!」
「『影野流着脱術奥義《神速着》!』」
「へ?え?」
シュッ…………ビタッ!
「な…何がいま…起こった…の…よ…」
「影野流着脱術奥義《神速着》。光速を超えた神速の速さで相手に衣服を着させる影野家に代々伝わる奥義です」
数瞬…否。数瞬もせずに女神さまはフリフリのフリル付きワンピースを着させられていた。
しかもただワンピースを上から着せられただけではない。上下の下着、アクセサリーなどまで一緒に付けられたのだ。
「女神の私ですら目で追えなかったですって…!?」
「苦労しましたよ。この技を習得するのは」
本当に大変だった。病弱で体の弱い僕には実際に行うことができない技なのであるから。おばあちゃんから目で盗み、この体になってからようやく習得したのだ。
この前、裕福な家庭といったと思うけど、実は影野家は代々服屋を継いで営んでいる。初代影野家の主人がこの技を編み出し、今も受け継がれているという事らしい。
この技を習得して初めて影野家衣服屋を名乗れる。そしてその衣服屋は政府のお偉い方や有名ファッション女優などをターゲットにしている。この早着替え術の腕が買われたという事だ。
「どうやらここでは僕でも強く思えば好きなものを出せるみたいなので、勝手に着替えさせてもらいましたよ。今ブームの清楚系白色ワンピに白金色の髪を目立たせる赤色の花形ワンポイントチャーム、下にはフリル付きの淡いクリーム色の下着を着けさせてもらいました」
「ほ、本当だわ…」
「さて、本題を伺いましょうか」
さすがの早業に女神さまも驚いたようで、等身大の鏡を喚びだして自身の格好を見ている。
「確認するのはいいですけど、あんまりまじまじと見ないでください…僕が死んでからのあっちの流行がこれであってるのか分からないので…」
「確かに一個前の流行ね。でもすごいわよ!私の印象にあった物を瞬時に判断して着させるなんて!それに着せるのも全く見えなかったわ!」
「そ、そうですかね。お褒めいただきありがとうございます」
「これはあいつらが黙ってもいないわね…危険だわ…まぁ大丈夫か」
「え…ちょ…危険って……」
「じゃあ話を戻すわね」
「ちょ…待っ…」
「実は──────」
僕の制止の声を聞かず、女神さまは話し始めてしまった。その後も何度か先ほどのことを聞いてみようとしたけど、全部スルーされた。
「───というわけで、あなたにこれを見ててもらいたいのよ」
「………………」
「話の内容があまり分からなかったかしら?」
「いえ…話の内容は十分に分かりましたけど…なんでそんなことを一個人に押し付けるんですかね」
女神さまが話した内容はこうだ。
1.勇者召喚の魔法陣が何らかの理由で起動した。
2.もしかしたら近いうちに勇者が召喚されてしまうかもしれない。
3.僕の家から近い場所にあるということなので調査に行って欲しいとのこと。
4.あともしかしたら勇者召喚されちゃうから世話よろしく!
まとめるとこの四つだ。
追記.ついでに魔法陣消せるなら消しといて〜
五つに増えた。
全く…僕を何だと思っているんだろうか…
「え?都合よく事件を解決してくれる探偵的な?」
とのことだ。要は便利屋である。人権とは一体…神に問うても無意味か…
「とまあ、あなたに頑張って欲しいのよ。できるでしょ?いやとは言わせないわ」
「横暴だー。実際できるけど…」
はぁ…こっちの世界に来れるからって面倒ごとを押し付けられるなんて………新しく来る勇者に丸投げしてしまおうか…?
面倒なことを頼まれ、考えていたら、
チカッチカッチカッ
「あら、もう時間なのね。でも要件は伝えられたわ」
「何ですこれ?」
「あなたがこっちに来れるから作ったのよ。これが点滅し始めるともうすぐあなたが元の世界に戻る時間だってこと」
「へー。便利ですねー」
「じゃあ伝えたこと頑張ってちょうだい」
「ええ。頑張りますよ」
とりあえずもうこことはしばらくおさらばになるかな。
ランプの点滅が激しくなってきた。もう時間がないという意味なのだろう。
最後に女神さまが何かを言ってくれるみたいだ。
「さぁ!次は勇者召喚編よ!魔王を倒すために頑張ってきなさい!」
「ちょ!メタァァ─────」
その言葉を言い終える前に僕の意識は飛んだ。
最後の最後にメタ発言していきやがりましたとさ。
一章 転生 ようやく終わりましたね〜。えー、はい。まさか自分でも18話まで続けるとは思いませんでした。多くても15かな〜と思っていればグダグダと伸ばしに伸ばしてこの話数。何とかならないのかね!?
この次に一度キャラ紹介や閑話などを挟み、二章を始めていこうと思います。
二章は女神さまがメタ発言をしてしまいやがりましたが、その通りです。勇者召喚編です。これまた登場人物を増やすつもりなのでメモ帳の量が…(泣)
後書きもここまでにして、次の話を書いていこうと思います。それでは皆様、次の話で!
誤字・脱字などがありましたら報告お願いします。感想などもぜひぜひ!!