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17.原因究明

あぁ……やっと書き上げることができた…


もう眠いよ…これで…眠…れ…る……( ˘ω˘ )スヤァ…

「あア゛ぁ゛っ!!ヤメろ!ウるサイ!おレは絶対ニ戻らナイ!」


叫ぶ。ひたすら叫んでいる。まるで何かと葛藤しているように。


(その体を返すんだ!この体はお前だけのものじゃない!!)

「ウルサい!いまマデクラヤミに縛らレ、蝕マレ、苦しマサレテきたンダ!オレはジユウニイキテいク!もウモドッタリなンカシナイ!」

(だんだん言葉がおかしくなって…!早く戻って!この次元は君の精神に合ってないんだ!さあ早く!)

「う゛ア゛ア゛!オレは…オレハ…!ジユウニナルンダァァ!!」


何者かとの葛藤。それは体の制御を奪われたクリート自身だった。


黒い感情から生まれた裏のクリートとも言える存在、そいつが《勇者魂もうこわくなんてない》という祝福の勘違いから生じた暴走によって表に出てきてしまっていた。


言葉がおかしくなっていくのはなぜか。それは至極簡単なことであった。


(君は真っ暗な何もない空間に彷徨い続けていた!なのに、いきなり光や音、熱なんかの情報が多すぎるこの次元に来たせいで君の脳がオーバーヒートしてるんだ!)


そう。裏のクリートは何もない虚無の空間に生まれた。生まれてしまった。光も音もなく、ただひとつだけ自身に受け付けるのはドロドロと渦巻き氾濫した黒い感情のみ。


そんな情報量が少ない場所からいきなり呼び出されたら?もちろん決まっている。脳が焼き切れて死ぬだけである。


そんなことはお構い無しと裏のクリートはうめき続ける。


そこに涙声が聞こえてくる。


「なぁ、兄者。もう泣いていいか!?」

「俺だって泣きてぇよ…!」

「ウルサイ!!メザワリダ!!キエウセロ!!《滅却の光(ディテレクト・レイ)》!」

「あ……終わったわ…これ」

「兄者ぁぁ!いやだぁぁ!俺まだ死にたくないぃ!」


クリート達……いや、ここに助けを求めに来た冒険者を狙った暗殺者兄弟である。


裏クリートが殺し屋兄弟を右手で指差し、神級魔法を無詠唱で発動させる。


(おい待て!やめろぉぉ!)

「ンガッ!?」


クリートが体の制御を取り返そうと必死に抗うと、その願いが届いたのか、一瞬だけ右手の制御を取り返すことができた。


そしてその一瞬で手を真上に引っ張り、神級魔法の軌道を逸らすことができた。


ピキュン!!


高い音と共に、光は空へと放たれ消えた。


滅却の光(ディテレクト・レイ)》。神級魔法であり、破壊を象徴する魔法のひとつ。範囲は狭く細いが、放たれた一条の光は当たる有象無象を全て消しとばし、突き進む。かつて神話の中で神らが戦の開戦で使っていたと伝えられている。


光が放たれ数瞬、天井を見ると一つの穴ができており、そこからは夜空に浮かぶ星空が見えていた。


「あばぶべぶば………がふぅ…」

「……………………」


もうもはや殺し屋兄弟は意識などありはしなかった。


「ナゼダ!ナゼジャマヲスル!」

(いやいや!逆に!!なんでこんなところでそんな魔法を使っちゃう!?あんなの使ったらあいつらところが、その先にいる誰かまで消え失せるけど!?)

「ソンナコト、オレニハカンケイナイ!」

(僕にはあるの!だいたいその体、僕のだからね!?そんな姿で暴れられたら僕の印象どうなると思ってんの!?)

「ドウデモイイダロウ!ニトトモドレルコトハナインダカラナ!」

(絶対に戻るからね!絶対にだ!何が何でも僕の体を返してもらうよ!)


表と裏、二人のクリートが言い争い、抗い合う。そんな緊迫感溢れる現場。


「…………にいさま…」

「クリート様…」

「ご主人様…」


影から見守る人影が三つ。


何もできない、手助けすることさえ叶わない…そんな苦渋を受け止めながらも静かに見続けるミザリー、リベネ、シャマラの三人。


見守っているだけの三人だが、実は回復中でもあった。


ミザリーは殴られて少し腫れた頰を、リベネは暗殺者兄弟との戦闘で負ったいくつもの切り傷やケガを、シャマラはミザリーを必死に飛んでくるナイフ守った結果、受けたキズを。三者三様それぞれの負傷を近くにあるポーションで回復していた。


回復中は体力を使う。それによって戦闘にも参加できずにいた。


「ガ…GA…ガァAAア!!」

(いよいよおかしくなってきちゃったよ!!何か!何か強制的にもこの身体を奪い返せるものを…!!)

「壊す…砕く…潰す…抉る…切る…消す…殺す…殺す…殺す…」

(ああもう!さらに殺人衝動見たいの起こしてるじゃん!!僕そんなに禍々しい感情持ってたの!?)


情報過多によるオーバーヒートは人格を破壊してついには殺人マシンとなってしまった。


「邪悪な生命体を確認…処理を実行する」

「いやぁぁぁああ!!」


殺人マシンは近くにいた殺し屋兄弟に近づいていく。


こんなものを世に出せばどれ程の被害が出るかなど予想がつかない。どうにかしてもここで止めなければ!!


(何か…!何かないの!?アベル!)

『現在、身体を支配している別の存在の内部をくまなく探っていますが、それらしき解決策が見つかっておりません…』

(うぅ…!何か!何かきっかけすらあれば元に戻ると思うんだよ!)

『でもそのようなものはあの存在には確認できませんでした。これは望み薄かと…』

(僕の中ではそう言ってるんだ!何か…感覚のようなものが訴えてくるんだよ!)

『……分かりました。再度私はこの存在に潜ってきます。何か見つかり次第報告しますのでご承知を』


────け─


(わかったよ!僕も何かないか探してみる!)


────けて


『ご武運を』

(アベルもね!!)


──た─けて


(ん?アベル何か言った?)

『…………………』

(もう居ないし、空耳…?)


───るしい


(聞こえた!今何か聞こえた!)


──こ─い


(何かこっちに訴えてきてるけど…言葉が飛んでよく分からない…)


──なに─みえな─

──くら─てこわ─よ


(なに…みえな…くら…てこわ?よ?たまに抜けている言葉…でもなんとなくわかる気がする)


──いた─の

──くるし─の

──あの─きからずっ─


(いたいの…?くるしいの…?あのときからずっと…?これは誰の声だろう?何か聞いたことのある声…)


──なに─みえ─くて

──な─もき─えなくて

──たっ─ひと─のささ─てくれる─とも─ない

──ずっと─とりぼ─ちだった

──かんじ─のはいた─だけ

──こわかっ─くるし─った

──で─ようや─かいほうさ─たとお─った

──なの─またも─された

──もう─やだ

──またあの─もいを─るのは

──せめ─らくにし─たかっ─な


(………そうか。これは裏の僕…いや、僕そのものの声だったんだ。裏のクリート、その存在は前世の僕、影野狩人。本人だったんだ)


ようやく合点がいった。なんであんなにも彼は生きようとしていたのか。なんであんなにも他者に害意を持っていたのか。


(全ては僕の入院中の行動だったんだね…)


前世──僕、影野狩人は医者もびっくりなほど体が弱く、病弱でほぼ毎日入院していた。


そのため、病気に対抗するための薬や抗生物質など、1日に何度も取らされた。


まだ幼い頃、入院の毎日と手術などによるストレスから暴れたことがあった。初めてだった。他人の血を見たのは。


様子を見に来てくれた看護師の人に食事のために置かれていたプラスチック製のスプーンを突き立ててしまった。たかがプラスチックなどと侮ってはいけない。当たりどころが悪ければ出血だって普通する。少児の力でもそれは起こった。


痛そうな声を小さく上げ、それでも止めようとしてくれた。最終的には駆けつけた医師の人に鎮静剤を打ってもらうことにまでなった。


それからは暴れたことはない。でも、その時に感じた変な気持ち、それは心の底に残っていたのだろう。それがもう一人の僕が暴れる結果となった。


何も見えない、何も聞こえない。そんなことも身に覚えがある。


あれは8歳の10月ごろだったろうか、珍しく病気が何も発症せず外を歩いていた。(いい天気だな)呑気なことを思っているそんな時だった、後ろから大柄な男が寄ってきて身体を乱暴に持ち上げ、口に変な匂いがする布を当ててきた。そう、誘拐だ。


ついて来ようとする大人を振り切って一人で歩いていることが仇をなした。昼手前という時間帯のせいか大通りだというのに周りには通行人はいなかった。


日々薬漬けだった僕でもクロロホルムには耐性があるわけもなく、あっけなく連れ去られた。


気がつけば視界は封じられ、耳も耳栓か何かで閉じられ何も聞こえない。手足もタオルで縛られており動けなかった。


今考えると子供にそこまでするかと思うよ。普通なら部屋に閉じ込めるとかそのくらいではないか。そして子供から情報を引き出す、それだと思う。


でも誘拐犯はそんなことしてこなかった。どうやら元から僕の家族のことを知っていて、たまたま見つけたから誘拐したと後日聞いた。


クロロホルムを常備しているかね普通。


僕の家族は実業家一家であり、相当裕福な家庭だった。だから僕が入院生活していても別に経済的支障は起きていなかったりしていた。


誘拐犯はその富をねらった犯行だった。


すぐに脅迫電話は送ってこられ、捜査も始まっていた。


事件の解決まではそうかからなかった。僕が連れて行かれるのをたまたまビルから見ていた人からの情報提供ですぐに犯人は捕まった。日にちで丸2日ほどの超速逮捕だった。


でもその間僕は両目両耳、手足を封じられた状態で置かれていた。


それはもう恐怖の一言しかなかった。いきなり連れて行かれ、気づけば何も見えない聞こえない。自分がどんな状態に置かれているかもわからない恐怖は8歳の子供には過大すぎた。


事件の後数ヶ月は病院にずっと閉じこもっていたよ。病気も再発していたしね。


長々と語っちゃったけど、これがあのもう一人の僕が言っていたことだと思う。


たった一人の愛してくれたおばあちゃんの死、それもあの中に入っていた。


つまりもう一人の僕、裏のクリートから身体を取り戻すために必要なことは……過去の記憶を乗り越えること。自分と向き合ってあの記憶を打ち砕く。それが身体を取り戻せる条件だ。


タイムリミットはもう無いに等しい。刻一刻と二つの命が失われようとしている。


だが、乗り越えようにもどうすればいいのかなんてわからない。“きっかけはいつも近くにある”。そんなことを言ったのは誰だったっけ…


「にいさまぁぁぁぁ!!」

(ミザリー!?だめだ!こっちに来ちゃぁ!)


ミザリーが大きな声で叫びながらこっちに突っ込んでくる。


当然、今の身体の支配は奴なわけであって…


「接近する生命体一つ、威嚇、迎撃する。《切断風スラッシュウィンド》」

「むぅぅぅぅう!」


ピッ!スパッ!


頰や足、体のあちこちを小さく切られてもミザリーは勢いを弱めない。


「てやぁぁぁあ!」

「うぐっ!」


ついにはこちらに飛び込んでしがみつくことにまで成功した。


「捕縛解除せよ、さもなくば、貴様を切る」

「にいさまはそんなことしない!にいさまはミザリーにとってもやさしいんだもん!そんなことできるわけない!」


つい先ほど身体を小さく切りつけていたというツッコミはよしておこう………ん?


「は、離せ。離れろ」

「いや!にいさまがもとのにいさまにもどるまでぜったいにはなさない!」

「はな…はな…はな…せ…」


(なんだ…?何か様子が…?)


ミザリーにしがみつかれ、抵抗していると思われていたが、徐々に徐々に抵抗が薄くなっていく。


(それになんだろう…この気持ちは…?大切なものを守れと心の奥底から湧いてくる…)


「はな…は…な……せ……」


(それに今なら取り戻せる!この気持ちを持ってして過去を乗り越える!うおぉぉぉぉお!)


辛いことだってあった!苦しいことだってあった!だけどそれが何だ!人生ってそういうものだろ!人生ってそれが当たり前だろ!甘ったれるな!

支えてくれた人、応援してくれた人、その気持ちを無駄にするな!

今だって自分よりも幼い子が僕のために身を呈して頑張ってくれてるんだ!それに応えないでどうする!

起きたことは起きたことだ!もう取り返せなんてしない!戻れなんてしない!だけど!それを踏みしめて次に進むことはできる!

僕は!過去の自分なんかに負けはしなぁぁい!


「や…め…jpd.gntgypamrztapw」

「にいさま!?」


身体が熱い…熱い…でも、耐えれないほどじゃない!


(僕の身体を返せぇぇぇ!)


「jrypaizjdinl_jgdpzmqdt……………」


呪いのような言葉を吐いていた口は途端に止まり、がくんと頭はうなだれた。


「にい…さま…?」


閉じていた口がゆっくりと開き、言葉を紡ぐ。


「ただいま。ミザリー」


その言葉は妹の愛する者の帰りを告げる、ただそれだけの確かな一言だった。

えー、はい。長々と引きずってきたクリート異変、終了でございます。まさか自分まで2話まるごと引きずり続けるとは思いませんでした…


最後の方、結構ごり押しで終わらせているので文がおかしくなっていると思いますが、そこはもう深夜テンションというわけでどうか…


さて、クリートも元に戻り!あとちょっとで一章も終わりかなと思い始めてきた今日この頃!


…………なにも別に思いつかないので言います。次で一章ラストにします。ようやくです。18話という遅くも早くもある微妙な場所で終わらせてやります。


まぁ、本当に終われるかどうかは次の話を乞うご期待というわけで!


いつもの!誤字・脱字等がありましたら!報告お願いいたします!次の話でまた会おう!さらば!

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